LANGUAGE ACQUISITION
子どもは文法をどう身につける?
用例から句・構文・シンタクスへ
英語を外国語として学ぶと、「英語は主語+動詞+目的語の順です」「現在完了は have+過去分詞です」「進行形は be+現在分詞です」といった文法規則を習います。しかし、英語を母語とする子どもは、こうした規則を説明されてから話し始めるわけではありません。
それでも成長するにつれて、正しい語順を使い、be、have、can、冠詞、前置詞、複数の -s、三単現の -s なども適切な位置で使えるようになります。つまり、文法について説明できる知識と、文法を無意識に使えることは同じではありません。
1.最初は「文法」ではなく、決まった表現から始まる
幼児は最初から「主語+動詞+目的語」という抽象的な規則を使っているわけではありません。まず、日常生活で何度も現れる具体的な表現に出会います。
たとえば、I want milk.、I want juice.、I want this.、I want mommy. といった文です。こうした文を何度も聞いていると、I want という部分は繰り返し現れ、その後にいろいろな語が続くことが分かります。
すると、最初は一つ一つ別々だった文から、I want ___ という共通する型が見えてきます。
子どもにとって最初の文法は、「目的語とは何か」という説明ではありません。何度も現れることばの型そのものなのです。
2.機能語や形態素には、文法が表れている
文法は、語順だけに現れるわけではありません。英語では、文法的な情報の多くが、短い機能語や語尾として実際の音声に表れます。
たとえば、He is running.、She was sleeping. では、be と -ing の組み合わせが進行中の出来事を表します。The window was broken.、The door is closed. では、be と過去分詞の組み合わせが状態や受動的な関係を表します。
また、I have finished.、She has gone home. では have / has と過去分詞が繰り返し共起します。I can swim.、You can do it.、He can come. では can の後に動詞の基本形が現れます。
子どもは、最初から「be+現在分詞は進行形」「have+過去分詞は現在完了」と分析しているわけではありません。しかし大量の文を聞くことで、ある機能語の後には特定の形が現れやすいことを経験します。
つまり文法そのものを教わらなくても、機能語や形態素がどこに現れ、その前後にどのような語が来るのかという分布を学ぶことで、文の構造を少しずつ発見できるのです。
3.語尾にも文の構造を見抜く手がかりがある
同じことは、語に付く小さな形態素にも当てはまります。
たとえば子どもは、one dog / two dogs、a book / three books のような表現を繰り返し聞きます。すると、複数のものを表す場面では名詞の末尾に -s が現れやすいことを経験します。
また、I like dogs.、You like dogs.、He likes dogs. のような用例に数多く触れると、主語が he や she のときに動詞の末尾へ -s が現れやすいことも学びます。
もちろん、幼児が「これは複数形の -s」「これは三人称単数現在の -s」と名称を付けているわけではありません。同じ /s/ や /z/ に聞こえる小さな形でも、どの語の後に現れ、どのような文脈で現れるかという分布が違うため、経験を重ねる中でそれぞれの働きが分かれていきます。
このような短い形態素は意味内容そのものを担うというより、数、人称、時制、文中での関係などを示します。したがって、子どもにとっては文の構造を読み取る標識として働きます。
4.機能語の分布から「次に何が来るか」が分かる
機能語そのものにも、強い分布上の特徴があります。
たとえば a dog、a car、a book と聞き続ければ、a の後にはある種類の名詞が現れやすいことが分かります。the dog、the house、the boy でも同様です。
to eat、to play、to go という用例を多く経験すれば、to の後に動詞が現れるパターンが見えてきます。一方、in the room、on the table、under the bed のような用例からは、前置詞の後に名詞を中心としたまとまりが現れることを学べます。
つまり、機能語を聞くと、次に何が来るのかをある程度予測できます。
この予測が積み重なると、子どもは文法用語を知らなくても、「この位置にはこの種類の語が来る」「この小さな語が現れたら、その後にはこのようなまとまりが続く」という文構造のパターンを持つようになります。
機能語は内容語同士をどのようにつなぎ、文の中でどのような関係に置くのかを示すための文法が表面に現れた形の一つと考えることができます。
5.具体的な型から、より大きな構文へ広がる
機能語や形態素のパターンと並行して、より大きな文の型も学ばれていきます。
たとえば、Give me the book.、Give me your hand.、Show me the picture.、Tell me a story. のような表現に数多く出会うとします。
動詞や名詞は違いますが、「誰かが別の人に何かを渡す、見せる、伝える」といった共通する関係があります。最初は Give me… という具体的なまとまりだったものが、多くの例に触れることで、別の動詞にも使えるより抽象的な型へと広がっていきます。
このように、具体的な用例から共通するパターンを見つけ、別の表現にも使えるようになることを構文の一般化として考えることができます。
つまり文法は、SVOのような大きな語順だけから作られるのではありません。機能語、形態素、定型表現、句、文全体という異なる大きさのパターンが重なり合いながら、文法体系を作っていくのです。
6.頻繁に使う表現は「かたまり」になる
私たちは How are you? を聞くたびに、How は疑問詞、are は be動詞、you は主語、と一語ずつ分析しているわけではありません。何度も聞き、使っているため、全体を一つのまとまりとして処理できます。
I don’t know.、Do you want to…?、a lot of、have to なども同じです。
何度も一緒に現れる語は、一まとまりとして記憶されやすくなります。このような定型表現が増えることで、一語ずつ処理する必要がなくなり、言語処理が速くなります。
さらに、複数の似た定型表現を経験すると、その共通部分からより抽象的な文法が見えてきます。たとえば Do you want to eat?、Do you want to play?、Do you want to go? と繰り返し聞けば、Do you want to ___? という大きな型が形成されます。
つまり頻度は、単なる暗記のために重要なのではありません。文法のパターンを発見し、それを自動的に処理するための材料でもあるのです。
7.文法は「形」だけでなく「意味」と結びついている
文法というと、語順や活用の規則を思い浮かべがちです。しかし、子どもが身につける構文には意味があります。
たとえば John broke the window. では、John が何らかの行為をして window に変化を起こしたことが表されています。一方、The window broke. では、誰が壊したかではなく、window に起きた変化そのものが中心です。
また John gave Mary the book. のような形を多く経験すれば、「誰かが誰かに何かを渡す」という意味と、その語の並び方との対応も見えてきます。
子どもは、多くの実例を経験しながら、「この形を使うと、このような意味を表す」という形式と意味の対応を同時に学んでいきます。
つまり、機能語や形態素の分布だけで文法が完成するわけではありません。そこに語順や構文の意味が加わることで、文全体の仕組みが作られていきます。
8.文法は一気に完成するわけではない
子どもの文法は、最初から大人と同じように完成しているわけではありません。最初は特定の語と結びついた表現が多く、経験が増えるにつれて少しずつ使える範囲が広がります。
たとえば最初は I want… というまとまりだったものが、I need…、I like…、I see… といった別の表現へ広がります。同時に、a、the、to、be、have、can や、-s、-ing、-ed といった小さな形式がどこに現れるのかという知識も増えていきます。
こうしたさまざまな大きさのパターンが互いに結びつくことで、個別の表現を超えた文の仕組みが見えてきます。
つまり、定型表現から句へ、機能語・形態素の分布から文構造へ、そして構文からより抽象的なシンタクスへと発達していくと考えることができます。
9.文法を「知っている」ことと「使える」こと
外国語学習では、文法規則を明示的に学ぶことができます。これは、年齢が上がった学習者にとって便利な方法です。
しかし、「三単現には -s をつける」と説明できることと、会話の中で考えずに He likes soccer. と言えることは同じではありません。また、「現在進行形は be+現在分詞」と知っていることと、She is playing outside. を聞いた瞬間に意味が立ち上がることも同じではありません。
後者には、多くの実例に触れ、同じ機能語や形態素、文の型を何度も処理してきた経験が必要です。
母語話者は、文法規則を毎回思い出しているのではありません。be の後にどのような形が現れるのか、can の後には何が来るのか、名詞や動詞の末尾にどのような小さな形が付くのかといった分布を大量の用例から身につけ、それらを自動的に処理しています。
したがって第二言語でも、文法について説明を受けることだけでなく、実際の文を大量に聞き、読み、機能語・形態素・語順・構文がどのように現れるのかを経験することが、自動的な文法理解につながります。
文法とは、頭の中に置かれた文法書ではありません。大量の言語経験の中から、「何が、どこに、何と一緒に現れるのか」という分布を学び、それを文の構造として一般化したものと考えることができます。
このようにして音、語、意味、機能語、形態素、句、構文が結びつき、一つの言語体系が作られていきます。しかし第二言語では、何歳でその言語に出会うかによって、この過程の進み方も変わります。
詳しく見る「年齢で変わる第二言語習得」おうち英語・パルキッズとの関係
このページで説明したのは、定型表現だけでなく、機能語や形態素の分布、語順、構文の意味など、大量の用例に繰り返し現れるパターンから文法体系が形成されていく一般的な言語習得の仕組みです。家庭で英語の用例に多く触れる考え方については「おうち英語とは」を、具体的な家庭学習の設計については「パルキッズ・インプットメソッド」をご覧ください。



