LANGUAGE ACQUISITION
音声知覚形成とは?
子どもはどうやって英語の音を身につける?
ことばを身につける最初の段階では、まだ単語の意味も文法も分かっていません。そんな中で、赤ちゃんは、毎日大量の音声を聞くうちに、その音声の中から「この言語では、どの音の違いが大切なのか」「どんな音の並びがよく現れるのか」「どのようなリズムでことばが流れるのか」といった特徴を少しずつ学んでいきます。
このように、その言語に合った音の聞き方(リスニング能力)が作られていくことを、ここでは音声知覚形成と呼びます。一般に「英語耳」と呼ばれるものも、その中心にあるのはこの仕組みです。
1.言語によって「聞き分ける音」が違う
日本語と英語では、重要な音の違いが同じではありません。たとえば日本語では「おばさん」と「おばあさん」のように母音の長さが意味の違いにつながります。一方、英語では right と light のように、/r/ と /l/ の違いが語の意味を変えます。
赤ちゃんは、生まれたときから「この音の違いは大切」と知っているわけではありません。周囲のことばを大量に聞きながら、どの音の違いが意味の違いにつながるのかを学んでいきます。
つまり、英語耳とは単に「耳がよい」ということではありません。英語の音を、日本語のカテゴリーではなく、英語のカテゴリーで聞き取れるようになることです。
2.身につくのは音素だけではない
英語を聞き取るために必要なのは、/r/ と /l/ のような個々の音だけではありません。英語には英語独特の音節構造、強勢、リズムがあり、実際の会話では音がつながったり、別の音に変化したり、さらには一部の音が発音されなくなったりします。
たとえばアメリカ英語の got it. では、got の /t/ が母音にはさまれることでフラップし、「ガリッ」と聞こえます。また take it では、take の最後の /k/ が次の it の母音と結びつき、「テイ・キッ」と語の境界を越えた再音節化が起こります。
さらに didn’t do や can’t deny のように子音が連続する場合には、/t/ が実際の音声として現れないことがあります。しかし、/t/ が消えたからといって、聞き手が did’n do や can deny と別の形として理解するわけではありません。t そのものは脱落していても、t の位置に、いわば空白の音のスロットが残っています。
英語の音声知覚が形成されている聞き手は、実際に耳へ届いた音だけを一音ずつ拾っているのではありません。前後の音、英語の音韻規則、などの知識を使って、発音されなかった /t/ まで含めて didn’t や can’t として知覚します。 物理的には存在しない音が、知覚の上では「聞こえる」のです。
このような処理は、聞こえなかった音を意識的に推測しているわけではありません。大量の英語を聞く中で、「この子音連続では /t/ が脱落しやすい」「音が現れなくても、この位置には /t/ がある」といった英語のパターンが身につき、自動的に元の音韻表象を立ち上げられるようになります。
したがって音声知覚形成とは、単に一つ一つの音を正確に聞き分けることではありません。音節、強勢、リズム、連結、再音節化、フラップ、脱落などを含む英語の音韻体系を身につけ、実際に発音された音声から、発音されなかった音まで含むことばの姿を再構成できるようになることなのです。
3.日本語が身につくと、日本語の仕組みで音を聞く
母語の音韻体系が育つことは、とても大切です。日本語を素早く正確に聞き取るためには、日本語に合った音の聞き方を作る必要があるからです。
しかし、第二言語を聞くときには、その仕組みが影響します。たとえば英語の strike は一音節ですが、日本語では「ストライク」と複数のモーラに分けて発音します。英語の子音連続をそのまま処理するのではなく、日本語に合うように母音を補って聞いたり発音したりするためです。
つまり、大人になると英語が聞き取りにくくなる理由の一つは、耳が悪くなるからではありません。むしろ、日本語を非常に上手に聞き取る仕組みがすでに完成しているからこそ、英語まで日本語の仕組みで処理してしまうのです。
4.大量の音声から「英語らしい音」を学ぶ
子どもは、英語の音素表を見て音を覚えるわけではありません。同じ語でも、話す人によって声の高さも速さも発音も少しずつ違います。それでも大量の英語を聞いていると、そこに共通する特徴が見えてきます。
たとえば cat という語も、父親が言う cat、母親が言う cat、子どもが言う cat では音響的にはピッチも音質も違います。それでも、何度も聞くうちに、それらを同じ語として扱えるようになります。
これは、一つの音をそのまま丸暗記しているのではなく、さまざまな実例から共通する音のパターンを取り出しているからです。
このように大量の音声から規則性を見つけることで、英語の音素、音節、リズム、音の変化が一つの体系として身についていきます。
5.音声知覚形成は「ことばを見つける」ための土台になる
英語の音を聞き分けられるだけでは、まだ意味は理解できません。次に必要になるのは、一続きの音声から「どこからどこまでが一つのことばなのか」を見つけることです。
英語の音の並び方、強勢、音節構造、音の変化などが分かっているからこそ、流れてくる音声の中から語らしいまとまりを見つけやすくなります。
つまり、音声知覚形成はリスニングのゴールではありません。音を聞き取る力から、ことばを見つける力へ進むための土台です。
詳しく見る「音声分節とレキシコンの形成」おうち英語・パルキッズとの関係
このページで説明したのは、特定の教材や学習法ではなく、子どもが大量の音声からその言語の音の仕組みを身につけていく基本的な過程です。家庭の中に英語音声にたくさん触れられる環境を作る考え方については「おうち英語とは」を、具体的な家庭学習の設計については「パルキッズ・インプットメソッド」をご覧ください。



