LANGUAGE ACQUISITION
年齢で変わる第二言語習得
英語は何歳から、どのように身につくのか
「英語は何歳までに始めればよいのでしょう」。子どもの英語教育ではよく聞かれる質問です。しかし、3歳までなら成功する、思春期を過ぎたら身につかない、という単純な話ではありません。
この問題を考えるには、まず「何歳か」だけでなく、どのような言語環境で英語に接するのかを区別する必要があります。
生まれたころから二つの言語を生活の中で身につけるバイリンガル、すでに第一言語を持った状態で英語圏へ移り、英語を生活言語として身につけるL2 learner、そして日本のように日常生活の大半を日本語で送りながら英語を学ぶEFL learnerでは、英語への接し方が大きく異なります。
まず、ここで用語を整理しておきましょう。SLA(Second Language Acquisition)は、第二言語がどのように習得されるかを扱う習得過程・研究領域です。一方、EFL(English as a Foreign Language)は、英語が社会の主要言語ではない環境で英語を学ぶ状況を指します。
したがって、SLAとEFLは反対概念ではありません。日本で英語を学ぶ人はEFL環境にいますが、その人がどのように英語を身につけるかはSLA研究の対象になります。一方、英語圏へ移住し、学校や生活の中で英語を使う人は、典型的なL2環境で第二言語を習得していると考えることができます。
以下では、この年齢と環境の違いを分けて考えていきます。
1.0~3歳頃 Simultaneous Bilingual
生まれたころから日本語と英語など、二つの言語を日常的に聞いて育つケースです。この時期には、まだ一つの言語だけの音韻体系が完成しているわけではありません。子どもは二つの言語を大量に聞き、それぞれの音、語、意味、文のパターンを作っていきます。
たとえば dog と聞いて「犬」と訳すのではなく、dog と実際の犬、日本語の「犬」と実際の犬が、それぞれ直接結びつきます。英語を外国語として勉強するというより、二つの言語を生活の中で同時に形成していくのが特徴です。
2.幼児期 Sequential Bilingual
日本語がある程度育ったあと、英語圏へ移住するなどして、第二の言語が生活に入ってくるケースです。
たとえば4歳の子どもが英語の幼稚園へ入れば、最初は Come here.、Sit down.、Your turn. と言われても理解できません。しかし、毎日同じことばを場面と一緒に経験するうちに、英語と意味が直接結びついていきます。
日本語はすでに育ち始めていますが、音声知覚にはまだ高い可塑性があります。大量の英語を生活の中で経験することで、英語の音、語、意味、構文が第二の言語体系として形成されていきます。
3.児童期~思春期 帰国子女型のL2 learner
小学生頃に英語圏へ移り、現地校へ通う帰国子女では、すでに日本語の音韻体系がかなり形成されています。一方、小学生では英文法や英単語などの英語についての明示的な知識はまだそれほど多くありません。
そのため、現地校へ入っても、最初は英語の音声そのものが十分に分節できず、「何を言っているのかほとんど分からない」という状態が続くことがあります。理解が先に育ち、発話がなかなか出てこない、いわゆるサイレントピリオドです。幼いL2学習者で、このような比較的長い受容中心の時期が見られることは知られています。
帰国子女の場合、学校では一日中英語を聞いていても、家に帰れば家族とは日本語というケースが少なくありません。つまり、生活全体が英語に切り替わるわけではありません。そのため英語音声の蓄積には時間がかかり、子どもによっては、半年から1年ほどかけて「英語がまとまって聞こえる」段階へ進むと考えた方が実態に近いでしょう。ただし、この期間には大きな個人差があります。
重要なのは、この間にも何も起きていないわけではないことです。大量の英語を聞きながら、英語の音素、音節、強勢、リズムを学び、一続きだった音声が少しずつ語として分節されるようになります。サイレントピリオドは、英語の音声知覚とレキシコンが水面下で作られている時期と見ることができます。
4.思春期以降 留学生型のLate L2 Learner
高校生や大学生になってから英語圏へ留学する場合は、条件が少し違います。日本語の音韻体系はすでに強く形成されていますから、英語の音を日本語の音として聞いてしまう影響は大きくなります。
一方で、中学・高校で英語を勉強してきた学習者なら、すでに英単語や英文法、文字についてかなりの明示的知識を持っています。聞こえた音を、既知の単語や構文と照合することができます。
さらに留学では、学校だけでなく、ホストファミリーとの会話、買い物、テレビ、友人との交流まで、朝から晩まで英語になる場合があります。帰国子女のように家に帰れば日本語環境へ戻るのではなく、生活全体が大量の英語入力になる点が大きな違いです。
そのため、数か月たつと「単語が切れて聞こえる」「全部は分からないが、何となく話の内容が取れる」という変化が起こることがあります。3~4か月という期間はあくまで一つの目安ですが、成人学習者は初期段階では帰国子女型の子どもより速く伸びる場合もあることが知られています。
もちろん、思春期を過ぎると音声知覚形成ができなくなるわけではありません。FlegeらのSLM-rでは、第一言語の獲得に使われた音声学習の仕組みはその後も利用可能であり、L2の音声体系も経験に応じて再編成され得ると考えます。
つまり、帰国子女と留学生では単純に「若い方が早い」とは限りません。帰国子女には若さによる音声知覚の柔軟性がある一方、留学生には英語の明示的知識があり、さらに生活のほぼすべてを英語にできる場合があります。年齢だけでなく、すでに持っている知識と、一日にどれだけ英語そのものを処理するかが、音声知覚形成の速さを大きく左右するのです。
5.日本で英語を学ぶEFL learner
ここで、帰国子女や留学生とは別に考えなければならないのが、日本国内で英語を学ぶケースです。
日本では通常、家庭、学校、買い物、友人との会話など、生活の大部分を日本語で行います。英語は社会生活の主要言語ではありません。
このような環境で英語を学ぶことを、EFL、English as a Foreign Language と呼びます。EFLは、英語が日常の主要コミュニケーション言語ではない環境で英語を学ぶことを指します。
たとえば、日本の中学校で週に数時間英語を習う生徒はEFL learnerです。授業が終われば、ほとんどすべての生活が日本語に戻ります。
一方、10歳でアメリカへ移住して現地校へ通う子どもは状況が違います。英語を使わなければ授業も友達との会話も成立しないため、一日に何時間も自然な英語を処理します。
この入力量と使用環境の差は非常に大きなものです。
EFL環境の大きな課題は、英語習得能力の有無というよりも、自然な英語を処理する量が圧倒的に少なくなりやすいことなのです。
6.EFLでも、英語の音声知覚は変えられる
しかし、日本にいるから英語の音声知覚を形成できないわけではありません。ここが重要です。
Flegeらのモデルが示すように、音声学習の仕組みは生涯にわたって利用できます。問題は、年齢だけではなく、どのような音声入力をどれだけ経験するかです。EFL環境でも、英語音声を毎日大量に聞けば、英語の音の分布を経験することができます。
たとえば、週に一回50分の授業だけで日本語混じりの英語を聞く子どもと、家庭で毎日1時間から2時間、純粋な英語音声に触れる子どもでは、数年間で経験する英語音声の量に大きな差が生まれます。
さらに、英語の動画、Podcast、オーディオブック、洋書などを日常的に利用すれば、日本にいながら英語の入力環境を大きくすることができます。
7.幼児期・児童期・思春期以降、どの時期にも可塑性はある
英語の音声知覚形成を年齢だけで「できる・できない」と分けるのは適切ではありません。
幼児期には、まだ母語の音韻体系が形成途中なので、英語の音を比較的そのまま新しいカテゴリーとして取り込みやすいという利点があります。
児童期には、日本語の影響は強くなりますが、英語音声を大量に経験すれば、英語特有の音、強勢、リズム、音節構造を学び、新しい音声カテゴリーを作ることができます。
思春期以降では、母語のカテゴリーがさらに強く影響します。それでも、音声学習の仕組みそのものが失われるわけではありません。大量のL2音声経験によって、既存の知覚カテゴリーを調整したり、新しいカテゴリーを形成したりする可能性は残ります。
したがって、「幼児期を逃したから、もう英語の音は身につかない」と考える必要はありません。
早期に始めることには確かに利点があります。しかし、児童期にも、思春期にも、大人になってからも、英語の聞き方を変える余地はあるのです。
8.違うのは能力ではなく、英語を経験する条件
ここまでを整理すると、同じ「英語を身につける」と言っても、その条件は大きく違います。
simultaneous bilingual は二つの言語を生活言語として同時に形成します。sequential bilingual は第一言語が育ち始めた段階で第二の生活言語に出会います。帰国子女や留学生は、すでに第一言語を持った状態で、L2環境の中で第二言語を習得します。
そして、日本国内で英語を学ぶ人はEFL環境にいます。
EFLだからSLAではない、ということではありません。EFLは英語を学ぶ環境を表し、SLAは第二言語がどのように身につくかという過程を扱います。
そのうえで、EFL環境では自然な英語への接触量が少なくなりやすいという違いがあります。
だからこそ、日本で英語を身につける場合には、「何歳から始めるか」と同時に、その年齢からどれだけ大量の英語そのものに触れられる環境を作るかが重要になります。
幼児なら音声を中心に、児童なら音声に加えて読みを利用し、思春期以降なら文字、知識、推論、明示的学習も利用できます。年齢によって有効な手段は変わります。
しかし、どの年齢でも共通するのは、英語についての知識だけではなく、英語そのものを大量に処理し、英語の音、語、意味、文構造のパターンを蓄積する必要があるということです。
早ければ有利です。しかし、遅ければ終わりではありません。
英語の音声知覚には可塑性があります。幼児期、児童期、思春期以降のいずれでも、その年齢に合った十分な入力を作れば、英語の聞き方は変化していく可能性があります。
おうち英語・パルキッズとの関係
このページで説明したのは、バイリンガル、L2環境での第二言語習得、EFL環境での英語学習を区別しながら、年齢と音声知覚の可塑性を考える一般的な枠組みです。家庭でEFL環境の中に英語への接触量を作る考え方については「おうち英語とは」を、具体的な家庭学習の設計については「パルキッズ・インプットメソッド」をご覧ください。



