LANGUAGE ACQUISITION
子どもはどうやってことばを身につける?
母語習得と英語学習は、同じではありません
「子どもはどうやってことばを覚えるのか」「なぜ日本語は教えなくても身につくのか」「なぜ英語は何年勉強しても身につきにくいのか」「英語を英語のまま理解するとはどういうことか」「母語習得と第二言語習得はどう違うのか」といった疑問に答えるページです。
赤ちゃんは、日本語を勉強しません。単語帳も使いませんし、文法を説明されることもありません。それでも、毎日周囲のことばを聞いているうちに、音を聞き分け、ことばを見つけ、意味を理解し、やがて自分でも文を作るようになります。
一方、日本人が英語を学ぶときには、apple は「りんご」、過去形は「~した」、現在完了は have+過去分詞というように、すでに身につけた日本語を使って英語を説明する方法が一般的です。日本語を使って「英語について学ぶ」わけです。
この二つは、同じことばの学習に見えて、実はかなり違います。赤ちゃんは、大量に耳にすることばから、「この音はよく聞く」「この音とこの音は一緒に現れやすい」「このことばはこんな場面で使われる」「この表現の後にはこんなことばが来やすい」といったパターンを見つけています。
専門的には、こうした学び方を統計的学習、帰納学習などと呼びます。大量の例から、共通するパターンや規則を見つける学習です。
AIも大量のデータから、何がよく現れ、何と何が結びつきやすいのかを学びます。もちろん、赤ちゃんとAIの学習が同じというわけではありません。ただ、「最初にルールを教わるのではなく、大量の例からパターンを見つける」という点はよく似ています。
1.まず「その言語の音」がわかるようになる
赤ちゃんは、まだ一語も話せないころから大量の音声を聞いています。話す人が違えば音の高さも特徴も違いますし、話す速さも発音も少しずつ違います。それでも、同じ言語には一定の音のパターンがあります。
赤ちゃんはたくさんの音声を聞く中で、それらの特徴を少しずつ学んでいきます。こうして、その言語の音声を聞き取るリスニングの仕組みができあがります。
ここでは、この過程を音声知覚形成と呼びます。日本語なら日本語の音として、英語なら英語の音として聞き取るための土台です。
大切なのは、音を一つずつ説明されて覚えているわけではないことです。大量の音声を聞き、その中に何度も現れるパターンを見つけることで、その言語の音の仕組みができていきます。
2.音の流れから「ことば」を見つける
文字では単語と単語の間に空白がありますが、実際の英語は一語ずつ区切って発音されるわけではありません。音がつながったり、変化したり、消えたりします。
たとえば I put it on the table. では、put it の語境界を越えて音がつながり、/t/ が母音にはさまれることでフラップし、「プリッ」と聞こえます。また take it out では、take の最後の /k/ が次の it の母音、it の t が次の out の母音と結びつき、「テイ・キッ・ラゥ」のように再音節化が起こります。さらに next day のように子音が連続するところでは、td の連鎖における t の音が弱くなったり脱落したりすることもあります。
それでも英語話者は、一続きの音声から瞬時にことばを見つけます。これは、大量の英語を聞く中で、音のつながり方や変化、強勢、リズム、音の並び方といったパターンを身につけているからです。
子どもも同じように、実際の音声に何度も触れながら、語らしいまとまりを見つけていきます。これが音声分節です。そして、同じまとまりに繰り返し出会うことで、それが一つの語としてレキシコン(心内辞書)に蓄えられていきます。
3.意味は「訳語」ではなく、たくさんの経験から育つ
ことばを聞き取れるようになっても、その意味がわからなければことばは使えません。では、ことばの意味はどのように身につけるのでしょうか。
たとえば dog ということばを、大きな犬、小さな犬、走っている犬、眠っている犬、写真の犬など、さまざまな場面で何度も耳にするとします。すると、「大きい」「白い」「走っている」といったその犬という生物の特徴とともに、いろいろな犬に共通する「犬」の意味が少しずつはっきりしてきます。
一回一回の具体的な経験をイグザンプラーと呼びます。例文のようなものです。そして、たくさんの経験から「だいたい犬とはこんなものだ」という中心的なイメージが作られます。これをプロトタイプと呼びます。
さらに、dog は bark、walk、pet など、ほかのことばとも一緒に使われます。そのため、意味は dog=犬という一つの対応だけではなく、さまざまな経験やことば同士がつながったネットワークとして育っていきます。
だから母語では、「犬」と聞いてから別のことばに訳して意味を考える必要がありません。「犬」と聞いた瞬間に、その意味・イメージが頭の中に浮かびます。
第二言語でも同じような経験が十分に増えれば、英語を聞くたびに日本語へ訳す必要がなくなり、英語から直接意味を理解できるようになります。
4.文法も、たくさんの文からパターンを見つける
文法も同じです。子どもは最初に「英語は主語+動詞+目的語の順です」と教えられてから文を理解するわけではありません。
たとえば、I want milk.、I want this.、I want it. のような文を何度も聞きます。すると、「I want の後には、欲しいものを表すことばが来ることが多い」というパターンが見えてきます。
このような経験が増えると、最初は一つの決まった表現だったものが、少しずつ別のことばにも使える形へ広がっていきます。定型表現から句へ、さらに構文へと発展し、やがてもっと大きな文法の仕組みが作られていきます。
つまり、子どもは文法ルールを先に覚えているのではありません。たくさんの文を経験し、似ているところを見つけ、そこから文のルールを自分で作っているのです。
5.「英語について知る」ことと「英語がわかる」ことは違う
日本語を使って英語のルールを説明することが文法教育です。「これは現在完了です」「for は期間を表します」と教われば、仕組みを理解したり記憶したりできます。このような学習にも大切な役割があります。
ただし、「英語のルールを説明できること」と「英語を聞いた瞬間に意味がわかること」は同じではありません。
日本語を聞いているとき、私たちは「これは主語、これは助詞、これは過去形」と考えていません。話を聞きながら、そのまま意味を理解・イメージしています。それができるのは、これまでに膨大な量の日本語を聞き、同じようなことばや表現に何度も出会ってきたからです。
そのため、「次にはこんな音が来そうだ」「このことばの後にはこんな表現が来そうだ」という予測が無意識にできるようになり、日本語の処理が速く、自動的になります。
英語でも同じです。英語についての説明をたくさん知るだけではなく、英語そのものにたくさん触れ、その中にあるパターンを頭の中に蓄えることが必要になります。
6.母語が自然に身につくのは、大量のことばに触れるから
赤ちゃんが日本語を身につける環境には、一つ大きな特徴があります。それは、毎日大量の日本語に触れていることです。
朝起きてから眠るまで、家族が話すことばを聞き、自分にも話しかけられます。同じことばや似た表現に、少しずつ違う場面で何度も出会います。そして、その状態が何年も続きます。
その結果、「よく出てくる音」「一つの語らしい音の集合」「特定の場面で使う表現」「特定の表現の後に続く別の表現」といったパターンが、大量に頭の中へ蓄積されます。
AIに大量のデータを与えると、そこから繰り返し現れる特徴やパターンを学んでいきます。それと少し似て、赤ちゃんも大量のことばから、その言語に特有のパターンを見つけていきます。
こうして、音の聞き方、ことばの切り出し、語彙、意味、文法が、別々ではなく一緒に育っていきます。
母語を身につけるために、赤ちゃんが音素表や単語帳、文法学習や和訳を必要としないのは、このためです。日常の中にある大量のことばそのものが教材になっているのです。
7.第二言語でも「英語そのもの」の経験が必要
第二言語の場合には、すでに日本語が身についているので、赤ちゃんの母語習得とまったく同じ条件にはなりません。年齢が上がるほど、英語を聞いたときにも、日本語の音や語順、意味の取り方を使って理解しようとしやすくなります。
それでも、英語を高いレベルで身につけた人には共通するところがあります。幼いころから英語環境で育った子ども、現地校へ通った帰国子女、留学して英語で生活した人、そして海外経験がなくても洋書や英語音声に大量に触れた人たちは、いずれも英語そのものを大量に経験しています。
その経験の中で、英語の音声・定型表現・句や文のパターンが頭の中で体系化されていきます。
つまり、第二言語を身につけるときにも大切なのは、英語のルールを日本語で知ることだけではありません。英語そのものを大量に聞き、読み、そこに繰り返し現れるパターンを自分の中に作ることです。
おうち英語・パルキッズとの関係
このページで説明したのは、特定の教材や学習法ではなく、人が大量のことばからパターンを見つけ、自分の中に言語の仕組みを作っていく基本的な過程です。家庭の中に英語そのものにたくさん触れられる環境を作り、この仕組みを第二言語習得に活用する考え方については「おうち英語とは」で詳しく解説しています。また、この考え方を子どもの発達段階に合わせて家庭学習として体系化したものについては、「パルキッズとは」「パルキッズ・インプットメソッド」をご覧ください。



