LANGUAGE ACQUISITION
ことばの意味はどう身につく?
英語を日本語に訳さず理解する仕組み
音声から語を見つけられるようになっても、その語が何を意味するのかが分からなければ、ことばを理解することはできません。では、赤ちゃんはどうやって意味を身につけるのでしょう。
外国語を学ぶときには dog=犬、run=走る、beautiful=美しいというように、英語と日本語を対応させて覚えることがよくあります。しかし、赤ちゃんには母語を説明するための別の言語がありません。ことばは、実際の経験や場面と直接結びついていきます。
1.一つの意味には、たくさんの経験が重なる
たとえば dog という語を考えてみましょう。子どもが最初に出会った犬が、小さな白い犬だったとします。しかし、その一匹を見ただけで dog の意味が完成するわけではありません。その後、大きな犬、黒い犬、走る犬、眠っている犬、写真の犬、絵本の犬など、さまざまな dog に出会います。
こうした一回一回の具体的な経験をイグザンプラー(例の集合)として考えることができます。多くの例に触れることで、「白い」「小さい」といった特徴は dog に必ず必要な特徴ではないと分かり、一方で、さまざまな犬に共通する特徴が少しずつ見えてきます。
この過程では、子どもが語の意味を広く取りすぎたり、反対に狭く取りすぎたりすることがあります。たとえば、犬を doggie と覚えた子どもが、ヤギを見ても doggie と呼ぶことがあります。四本足で歩き、体毛があり、自分と同じくらいの大きさの動物という共通点から、doggie の範囲をヤギにまで広げてしまうのです。このように、語を本来より広い範囲に使うことをoverextension(過剰拡張)と呼びます。
反対に、自分の家で飼っている犬だけを doggie と呼び、公園で見かけた別の犬には doggie を使わないこともあります。これがunderextension(過小拡張)です。この段階では、doggie が「犬という動物全体」を表すのではなく、「自分の家にいるこの犬」に近い意味として理解されています。
このような間違いは、意味学習がうまくいっていないことを示すものではありません。むしろ、子どもが限られた経験から「doggie はどこまでを指すことばなのか」を自分で推測し、カテゴリーの境界を調整していることを示しています。
つまり意味は、辞書の定義のような完成品として頭の中に入るのではありません。たくさんの具体例に触れ、ときには広く取りすぎたり狭く取りすぎたりしながら、ことばが指す範囲を少しずつ修正していくことで育っていくのです。
2.たくさんの例から「らしさ」が生まれる
経験が増えるにつれて、doggie のカテゴリーも安定していきます。ヤギや猫は doggie ではなくなり、反対に、自分の家の犬とはまったく違う姿をしたチワワやセントバーナードも dog だと分かるようになります。
これは、一つひとつの犬を丸暗記して照合しているだけではありません。多くのイグザンプラーに共通する特徴から、「犬とはだいたいこのようなものだ」というカテゴリーが作られていくからです。
そのカテゴリーの中心にある、典型的な「犬らしさ」をプロトタイプとして考えることができます。
たとえば bird という語でも、スズメやハトは「鳥らしい鳥」と感じやすい一方、ペンギンやダチョウは少し典型から外れて感じられるかもしれません。それでも、経験が十分に増えれば、どちらも bird というカテゴリーに含まれることが分かります。
つまり、ことばの意味は「AとはBである」という一つの定義だけで作られるものではありません。多くの具体例を経験し、似ている点と違う点を比較しながら、カテゴリーの中心と境界を作っていくことで育っていきます。overextension や underextension は、そのカテゴリーがまだ作られている途中で現れる現象と考えることができます。
3.だから、母語では訳す必要がない
子どもが cup ということばを、実際にカップを持つ場面、飲み物を入れる場面、a cup of tea といった表現の中で何度も経験したとします。
最初は一つの特定のカップだけを cup だと思っているかもしれません。しかし、形や大きさ、材質の異なるさまざまな cup に出会ううちに、cup が指す範囲が少しずつ広がり、カテゴリーが安定していきます。
この過程で、日本語訳は必ずしも必要ありません。
つまり、[cup → 日本語訳 → 意味] ではなく、[cup → 概念] という直接的な結びつきができます。
母語では、私たちは普段このようにことばを理解しています。「犬」と聞くたびに別の言語へ訳しているわけではありません。「犬」という音を聞いた瞬間に、過去に見た犬や犬らしさ、犬についての知識などを含んだ意味のネットワークが立ち上がります。
第二言語でも、英語の音や文字と実際の経験、場面、イメージとの結びつきが十分に増えれば、日本語訳を経由せず意味へ直接アクセスしやすくなります。
4.内容語の意味は、ことば同士の関係からも育つ
意味は、一つの語と一つの経験だけで完成するものではありません。語彙が増えるにつれて、ことばは他のことばとの関係の中でも意味を持つようになります。
たとえば dog という語は、犬そのものを見た経験だけでなく、bark、puppy、pet、walk、tail、cat などの語と繰り返し一緒に現れます。dog と聞けば bark が思い浮かび、cat と聞けば dog が連想される。このような語同士の結びつきを word association と呼びます。
名詞などの内容語では、こうした連想のネットワークが広がることで意味が豊かになります。apple なら red、fruit、eat、sweet、tree などと結びつき、一つの語が他の多くの概念の中に位置づけられていきます。
形容詞や副詞では、対比も意味を作る大切な手がかりになります。big は small と、hot は cold と、fast は slow と対比されることで、それぞれが表す意味の範囲がはっきりしてきます。たとえば big を一つの大きな物だけから学ぶより、big dog / small dog、big box / small box のような対比を何度も経験する方が、「大きい」という性質が何を表しているのかを理解しやすくなります。
つまり、内容語の意味は、実物や場面との結びつきだけでなく、似た語、関連する語、反対の語との関係を通しても組み立てられていくのです。
5.動詞は「一語の意味」より、共起する表現から身につく
動詞は、名詞より意味の範囲が広く、単独では意味をつかみにくい語が少なくありません。
たとえば take を「取る」と覚えても、実際の英語には take a picture、take a bus、take your time、take care of、take a break など、さまざまな表現があります。これらを一つの日本語訳だけから理解するのは難しいでしょう。
しかし、大量の英語に触れていると、take がどの語と一緒に現れるのかを繰り返し経験します。take a picture というまとまりを何度も聞けば、それ全体が「写真を撮る」という一つの意味を持つようになります。take a bus も、take と bus を別々に処理するより、一つのよく現れるまとまりとして理解されるようになります。
このような語と語の共起には、collocation、定型表現、idiom などがあります。動詞の意味は、辞書にある中心的な意味だけではなく、どの名詞や前置詞、句と一緒に使われるのかという共起パターンの中で、少しずつ具体化されていくのです。
たとえば get も、「得る」という訳語だけでは get home、get tired、get better、get ready、get along with を十分に理解できません。ところが、それぞれのまとまりを多く経験すると、get が持つ意味の広がりが、実際の用法を通して見えてきます。
動詞は意味のスコープが広いからこそ、単語単体ではなく、実際に一緒に現れる語のまとまりから意味を学ぶことが重要なのです。
6.機能語は、文法へつながる手がかりになる
英語には dog、run、big のように比較的はっきりした内容を持つ語だけでなく、the、a、of、to、for、in、have、will などの機能語があります。
こうした語は、物や動作そのものを表しているわけではないため、実物を指して意味を教えることが難しい語です。その代わり、どのような語の前後に現れ、文の中でどのような働きをしているのかを大量の用例から学んでいきます。
たとえば a dog、a book、a car と繰り返し聞けば、a がある種類の名詞の前によく現れることが分かります。in the box、in the room、in the car といった表現を経験すれば、in と場所との関係も少しずつ見えてきます。
機能語は、内容語のように単独で豊かなイメージを持つというより、語と語の関係や文の構造を示す役割を持っています。その意味で、機能語は文法が実際のことばとして表に現れた姿の一つと考えることができます。
ここでは詳しく扱いませんが、内容語だけでなく機能語の使われ方が頭の中に蓄積されていくことが、後に語順や句、構文といった文法の理解につながっていきます。
7.英語を英語のまま理解するとは
「英語を英語のまま理解する」というと、特別な能力のように感じるかもしれません。しかし、母語では誰もが普通に行っていることです。
ことばを聞いた瞬間に辞書的な定義を思い出すのではなく、それまでに蓄積されたイグザンプラーやカテゴリー、関連する語、反対語、共起表現、場面などが一緒に活性化し、その語の意味が立ち上がります。
dog なら犬というカテゴリーだけでなく、bark、pet、puppy などとの関連がある。big なら small との対比がある。take なら take a picture、take a bus などの共起表現がある。このような多くの関係が重なって、ことばの意味が形成されています。
第二言語でも、多くの実例に触れ、語と意味、語と語、語と場面の結びつきが十分に育てば、同じ方向へ進みます。
つまり、日本語に訳さず理解するために必要なのは、「日本語を使わないように我慢すること」ではなく、英語そのものを大量に経験し、語が何を指し、どの語と関連し、どの語と対比され、どの表現の中で使われるのかを十分に蓄積することです。
そうすることで、英語の語を聞いた瞬間に日本語訳ではなく、その語が持つ意味のネットワークへ直接アクセスできるようになります。そして、語と語のまとまりや機能語の働きまで見えてくると、ことばの学習は単語の意味を越えて、句や構文、文法の世界へ進んでいきます。
詳しく見る「子どもは文法をどう身につける?」おうち英語・パルキッズとの関係
このページで説明したのは、多くの具体的な経験から語のカテゴリーを作り、word association、対比、共起表現などを通して意味のネットワークを形成していく一般的な言語習得の仕組みです。家庭で英語と意味を結びつける経験を増やす考え方については「おうち英語とは」を、具体的な家庭学習の設計については「パルキッズ・インプットメソッド」をご覧ください。



