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2021年10月号特集

Vol.282 | 絵本の読み聞かせ・暗唱が最も効率のよい投資であるワケ

日本語と英語における学力と読解力の関係から見えるコワい現実

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-2110/
船津洋『絵本の読み聞かせ・暗唱が最も効率のよい投資であるワケ』(株式会社 児童英語研究所、2021年)


“絵本の読み聞かせ” 9割がツライと回答???

特集イメージ1 弊社では、2年ほど前からfacebookで「パルキッズ・コミュニティー」という会員専用コミュニティーを設置しています。そこでは日々、「パルキッズ」に関して、あるいは英文多読や・素読用の “The Book of Books” や “7-day English” などを使った親御さんご自身の英語力の向上に関して、またあるいは教育や子育てに関する社会情勢にまつわるトピックに関して、自由な意見が活発に交わされています。
 その中で、少し気になったトピックがありました。「絵本を読むことがツライ」という親御さんがなんと9割に上るというニュースが話題にあげられたのです。ニュースソースが明確に呈示されていないので、詳細の程は分かりませんが、どうやら仕事や家事に追われ、あるいは絵本の読み聞かせ自体が苦手などの理由で、ほとんどの親が我が子に絵本を読み聞かせるのがツライと感じているというのです。
 そして、その親のその精神状態を反映してか、理想としては「月に21回(冊)以上」は絵本を読み聞かせたいという親が6割に上るのに対して、実際にそれができているのは3割程度。さらに、月に1回以下しか読み聞かせができていない親が17.8% に上っているそうです。

 「9割がツライと言っている」点と、「2割近くが月に1冊しか絵本を読み聞かせられていない」点とは相互に関係しているのでしょうけれども、月に21冊以上読み聞かせている3割の親御さんの中にも、かなりの割合で「ツライ派」が存在するのがオドロキです。
 その原因としてあげられている「時間が無い」あるいは「余裕がない」というのは、女性の社会進出が促される社会においては必然性を伴っているように思われます。
 しかし、『パルキッズ通信2021年9月号』の「ごっこ遊び」のトピックで紹介したように、保育所と幼稚園の利用割合は若干幼稚園が上回っている程度で、おおよそ同数(参照リンク)です。内閣府の統計でも、未就学児を保つ母親の就労割合は5割強ですので(参照リンク)、仕事をしていないか、あるいはフルタイムで働いておらず、子どもと一緒に過ごすことができる、もしくはそう選択している母親の中にも「ツライ派」が相当数いることになります。

 幼児期の絵本の読み聞かせは、小学校以降の学力に影響するという研究結果もあります。絵本の読み聞かせによって得られる語彙や理解力の程度に、その後の国語力を始めとする諸教科への理解力が影響するのは、直感的にも理解できることですし、様々な研究からもその傾向は示されています。
 もちろん、すべての学力の基本が「絵本」にあるわけではありません。また、小学生に対する読書 “量”(冊数)と学力の調査においても、必ずしも両者間に強い正の相関があることは示されていません。従って、幼児期の絵本の数、あるいは読書習慣自体が将来の学力全体を補償、あるいは決定するものではありません。
 しかし、絵本から始まる「本との関わり」によってもたらされる語彙・読解力と、その後の学力との「正の相関」は厳然としてあるわけですので、「たかが絵本」と軽視するわけにはいかないでしょう。

 先月号では「ごっこ遊びで育つ論理性」について述べましたが、今回は論理性と同時に高い言語力において必須条件となる「語彙・理解力と絵本との関係」について、さらには英語力も決定付ける「英語の読解力と絵本の関係」について考えていきたいと思います。
 「ごっこ遊び」は無料でできるお子さまへの投資でした。幼児期あるいは学童期の早い段階で「絵本の読み聞かせ」によって高い語彙・理解力、並びに読解力を身につけておくことが、いかに効率の良い投資であるのか、という視点から絵本の活用を考えていくことにします。


結局お金?

特集イメージ2 まず結論を述べておきます。

 お金がなくても、子どもに高い学力を身につけさせることはできる。親の学力は、必ずしも子の学力の足枷にはならない。そして当然のことながら、親の経済力が必ずしも子に引き継がれることはありません。

 しかし、残念ながら上記の事どもは、かなり高い確率ですべて逆もまた真となり得ます。

 つまり、親の世代の経済格差は子の世代に教育格差を生み、子の世代の教育格差はそのまま彼らの世代の経済格差となって再生産され、それが社会的な分断を生んでいるのも事実なのです。また、せっかく親自身が彼らの親から豊かな環境を与えられても、自分が育った昭和・平成の時代とは異なる令和の子育て環境を見誤れば、自らが与えられた教育と同等の教育を我が子に施すことができなくなります。
 すべては親の「教育に関する知識」にかかっており、それをもとにした育児に関する日々の心がけ、また日々の選択に委ねられているのです。

 少し気分の悪い話ですが、現実を知らないことには、自らの立つべきスタンスや拠り所も分かりません。そこで、最初に日本の教育現場で起きている厳しい現実を見ていきます。

 まず、事実として親の所得と子の所得には相関関係があります。アメリカに次いで、日本は世代を跨いで所得の格差が踏襲される傾向が強い国です。この原因は極めて単純な図式からなります。つまり、所得の高い親ほど、子に高い学歴を求めており、それを許す経済力を背景に、子はより高い学力を得る傾向になります。

 学歴と所得も正の相関関係にあり、高い学歴があればそれだけ高い所得を期待できます。ただ、学歴といっても、大学あるいは大学院なら何でも良いというわけではありません。ここには日本独特の「新卒一括採用」という世界でも希な異形の雇用体系があり、そこでは高学歴(よりレベルの高い大学)が就職において優先されるという暗黙の了解があります。結果として高卒よりは大卒、大学に行くならよりレベルの高い大学が雇用側からは好まれるようになります。
 この労働市場の有り様を受けて、親は、中高一貫校受験あるいは小学校受験などに関心を向けるようになります。当然ながら、それらには少なからずコストがかかりますので、子どもの進路は、ある程度以上、親の経済力に影響されざるを得ないのです。


親の学歴

特集イメージ3 さて、このように親の経済力は、子の学力に関してかなり大きなファクターとなりますが、それ以外に強烈に子どもの学力を左右する要因が存在します。

 親の学歴です。

 もちろん、学歴は人生を豊かに生きる上での、ほんの一要素に過ぎません。学歴などなくても経済的に成功する人は星の数ほどいます。しかし、子の未来の学歴も、その子を育てる親の学歴と正の相関関係にあり、結果、子が得る学歴と未来の所得は正の相関関係にあります。
 学歴の高い親ほど、子に高い学歴を求め、結果として高い学力を身につけさせるように働きかけるのです。

 特に、これは配信中のポッドキャスト番組『英語子育て大百科』でも何度か触れていることですが、「子の学力を決定付けるのは母親の知性」です。母親の皆様にはプレッシャーをかけるようで申し訳ありませんが、これも統計から導き出されている傾向なのです。
 母親の学歴が高いほど、教育支出は高くなる傾向にあります。また当然のこととして母親の学力が高いグループの方が、子の学力が高くなります。特にこの傾向は、中3時点での「数学」の成績に顕著に表れています。
 その他にも、非常勤や無職の母親の家庭の方が、子の学力が高くなる傾向も見られます。この点に関しては家庭の経済力とのバーターとなりそうですが、子どもとの接触時間や彼らの生活管理などにおけるメリットの関与が研究では示唆されています。

 母親が時間に余裕を持つことは、子どもとの接触時間に関して、冒頭の「絵本の読み聞かせ」に通ずる点でもあります。そして、その絵本の読み聞かせ自体も、特に小学生の学力には影響を及ぼしていることが分かっています。
 同時に、これは当然のことですが、テレビの視聴時間も学力に直に影響してきます。1日のテレビの視聴が3時間を超えれば、それは学力とは負の相関を示します。特に中学生では、テレビの視聴時間が長いことで、学力にマイナスの影響を強く与えることが伺えるのです。


最もコストかからない投資

特集イメージ3 と、まぁ、ツライ話をして参りましたが、ここで気分を変えましょう。

 親の経済力は工夫で補えますし、親の学歴も正しい選択をする知性で乗り越えられます。
 しばしば「東大生の親の半数は年収一千万以上」などと言われますが、それを聞いてがっかりする必要などありません。残りの半分の東大生は、親の年収に関係なく東大に進学しているのです。

 反対に、いくら経済的に豊かな親であっても、いくら学歴の高い親であっても、彼らがその親から得た恩を忘れ、自らの人生選択に過剰な自信を抱いてしまえば、「自分ができたのだから大丈夫」「頑張り次第でどうにでもなる」などいう、おおよそ現状を正確に理解できていない、まるで根拠のない判断から、育児を誤ること(この場合は自分が得たよりも乏しい教育しか我が子に与えないこと)も、往往にして起こりうるのです。

 また、経済的に余裕のある家庭の習い事への過剰な投資は、確かに小学生の時代には子どもの学力に大きく影響しますが、これが不思議なことに中学生になると塾への投資に対する回収率が低くなるのです。
 つまり、投資しているつもりで、お金をどぶに捨てるような選択をしていることが少なくないのです。

 この現状は、確かに真実を穿っています。

 英語を例に取ってみましょう。例えば、英検準1級を取得するための学習を中高生から始めるといくらかかるでしょうか。おそらく100万~200万円ではまったく足りないと思われます。お金だけの問題ではありません。相当の時間を英語に費やすことになるので、他の学習に手が回らず「英語 “だけ” できる人」になる可能性大です。
 それに対して、幼児期にバイリンガル育児に投資しておけば、英検準1級の達成には金額的にはせいぜい30~50万程度で済むでしょう。しかも、英検準1級を小学生なり中学生の早い段階で取得してしまえば、それ以降に英語で悩まされることもなく、英語に費やされる時間や金員を他の学習に回すことができるので、国語や数学、社会や理科などの選択科目はもちろんのこと、加えて「英語 “も” できる人」となるのです。

 早期の投資がいかに重要であるかが分かりますが、ここがこの節の冒頭で述べたところの「親の工夫と正しい選択」にかかってくる部分です。

 さて、子どもの学力を高めようとした場合に、賢明なる工夫と正しい選択とはどのようなものなのでしょうか。

 その鍵を握るのが今回のトピックとなる「絵本の読み聞かせ」と、その結果もたらされる「絵本の暗唱」です。

 絵本はそれこそ無限ありますが、もちろんそれらすべてを子どもに与える必要はありませんし不可能です。子どもたちの国語の発達における絵本のステージで基本的な語彙・理解力を身につければ、彼らは3・4歳でも、小学生向けの推薦図書のような挿絵程度の物語や、図鑑へ理解を示すようになるのです。
 図鑑の本当に大切な部分は説明なのですが、幼児に最初から図鑑を与えても説明を理解できず、絵を眺めることしかできません。また、眺める絵のない物語は、理解できなければあっという間に飽きてしまうだけなのです。それらを楽しむためには、理解力が必要となります。
 この絵本のステップを飛ばしてしまう子も少なくありません。もちろん、それでも高い学力を手に入れることは不可能ではありませんが、後々に、親に対しては金銭的コスト、本人に対しては時間的コストをという禍根を残すこととなります。
 我が子には「高学力の中の高学力」を与えたいのであれば、きちんとこのステップ―つまり絵本の読み聞かせと、その結果に生じる暗唱の段階―を踏んだ方が賢明であることは間違いありません。

 絵本の「次のステージ」へ行くためには、たくさんの絵本を経験することが必要となります。幼児期には少なくとも100冊は揃えてあげたいところです。おそらく100冊もあれば絵本のステージは卒業して、図鑑や物語に移行することもできることでしょう。

 しかし、ここで親は選択を迫られます。

 絵本を100冊も買おうと思ったら10~20万円は軽く超えます。さて、これは高いですか?安いですか?
 ここが、考えどころです。絵本に対する数十万円の投資は、将来の学力を考えれば十分に満足のいく投資だと思います。逆に、ここをけちって小学校、あるいは中高でのしかかってくる負担、つまり、数百万単位の塾代、予備校代、教材代を払わされることに思いを馳せれば、自ずと答えは出るでしょう。

 (この表記は誤解を招くので少し注釈を入れます。「100冊は常に手元に置いておきたい」という意味合いです。子どもたちの嗜好は変化します。また、理解力も変化します。買ったときにはあまり興味を示さなかった絵本に突然関心を抱き始めたり、また数年前に読んだ絵本を久しぶりに取り出してしみじみ読むこともあるのです。レンタルではなく自分の書架を作ることが大切です。)

 それでは、引き続き、絵本の読み聞かせと暗唱が、のちの国語力に及ぼす影響、また小学生以降既に無視することのできない英語力と絵本の関係についてみていくことにしましょう。


語彙と理解力の関係

特集イメージ3 親の読み聞かせが、子の理解力に及ぼす効果に関しての研究では、幼稚園児の時に多くの読み聞かせを受けた子どもたちは小学4年生時点での理解力が高くなることが確認されたそうです。
 ここには、絵本の読み聞かせから得られた語彙力や理解力が大きく関係しています。つまり、豊かな語彙は文章理解力の高さに直接好ましい影響を与え、文章理解力の高さは未知語に対する高精度の推測を可能にし、それらが新たな語彙知識として取り込まれていくのです。読めば読むほど、語彙が豊かになるわけです。

 成長のある時点での語彙は、その次の段階での理解力に影響し、その段階での理解力は、その次の段階の語彙に影響するのです。新しい情報ソースとしての文字情報の有益さは論を待ちません。つまり、読書を軸とした語彙・理解力間の相互関係、正のスパイラルが厳然と存在するのです。
 語彙・理解力ともに乏しい状態では、このような好循環は生まれません。つまり、同じ段階での足踏みが続くのです。重要なのは、成長の可能な限り早い段階で、我が子をこの正のスパイラルに乗せてあげることなのです。


絵本と読解力の関係

特集イメージ3 さて、語彙と理解力は読書によって際限なく伸ばせる可能性が見えてきました。ここで問題となるのは、我が子をいかにして「読書」に導くかという点、そう、読解力の育て方です。

 繰り返し語彙と理解力の相互関係について述べてきましたが、読解力の身についていない段階では、もうひとつ別の問題があります。即ち、文字記号の音声化の課題です。目から入ってきた文字列をスムーズに音声化できることが、読解力導入期の子どもたちが最初にクリアすべき関門です。

 ここでも大きな役割を果たすのが絵本です。語彙や理解力の涵養に役立つ絵本ですが、絵本の効能はそれだけに留まらず、さらに読解力の育成にも一役買います。絵本の読解力に関する貢献は、少なくとも二つの側面が考えられます。ひとつ目は文字に対する関心を呼び起こす点で、もうひとつが文字列をまとめて認識させるのに役立つ点です。

 文字の学習をと思い立ったら、まず用意するのは「ひらがな表」でしょうし、文字書き「プリント」でしょうし、さらにはかなが添えてある「フラッシュカード」でしょう。
 ひらがな表は、日本語の音韻体系が横列に子音毎、縦列に母音毎にまとめてあるので、日本語の音韻を網羅的に俯瞰できるのは効果的です。どんな子にも「気になる文字」「好きな文字」があるでしょう。因みに日本語に特徴的なのは撥音で、「ん」に関心を持つ子も珍しくないようです。かく言う私も、日本語の「ん」に関して深い関心を抱くものの一人です。


絵本の読み聞かせから暗唱、そして文字のスムーズな音声化へ

特集イメージ3 さて、それはさておき話を進めましょう。絵本の読み聞かせをするうちに、子どもたちは絵本の内容を音声として丸暗記します。そして、それを口に出すようになるのです。これが絵本の読み聞かせの結果として生じる暗唱です。
 そして、子どもたちは実際に口にしたり、あるいは口にしないまでも彼らの頭の中で繰り返されている音声を聞きながら、絵本のページをめくるようになります。口にするか否かは別として、これが絵本の暗唱です。

 この段階を経て、彼らは自然といくつか「かな文字」を読めるようになっています。特に登場頻度の高い「ん」などは早い段階で読めるようになる文字の一つでしょう。そのように文字を読み始める時期と前後して「ひらがな表」などを目につくところに貼っておくのは、文字の学習に効果的です。
 また、市販のプリント類も、実際に文字の形を再現するという意味では、文字の学習の強化を促せる取り組みでしょうから、どんどん取り組んでいけば良いと思います。ただし、これらはあくまでも副次的な取り組みです。文字の音声化はスムーズに行われなくてはならないのですが、これら文字単体の学習は、あくまでも文字の学習であって、文字のスムーズな音声化の前段階で、あるいは必要かも知れない取り組みです。

 その点、絵本の読み聞かせは文字の音声化が流れるように行われるので、母親の読み聞かせはスムーズな音声化を促すメインの取り組みと位置づけられるでしょう。

 その他、フラッシュカードもあります。「パルキッズ」のオンラインレッスンでもフラッシュカードは採用されていますが、こちらは文字単体の学習というよりは語単位の直観的な認知を促す取り組みです。つまり、文字をひとつずつ読むのではなく、まとまりで語を認識するための取り組みです。この点に関して、日本語と英語ではかなり文字と音韻の体系のあり方が異なるので、日本語には日本語、英語には英語に合った取り組みが大切となります。これは次のセクションでさらに見ていくことにしましょう。

 いずれにしても、100冊の絵本の読み聞かせと暗唱を中心に、ひらがな表、各種ドリルなどを併用しながら文字の学習を進めていき、最終的には文字のスムーズな音声化を目指すこととなります。これが読解力育成の入り口です。
 一度スムーズな音声化ができるようになると、あとは日本語に特有な語彙の学習方法、漢字との関わりで語彙を豊かにする作業に入っていくこととなります。
 つまり、ここまで来れば、一丁上がり。語彙・理解力の相互促進作用の正のスパイラルに、子どもを乗せてあげられたことになるのです。良かった良かった。


英語の読解力と絵本

特集イメージ3 さて、ここからが「パルキッズ通信」の面目躍如たる部分です。そろそろ紙数も尽きてきましたが、英語の読解力の育て方に入って参ります。

 日本にいれば、日本語の情報は目から耳から止むことなく入ってきます。それどころか、思考するときも日本語、夢見るときも、妄想するときも日本語なので、日本語と日々の生活は切っても切れない関係にあります。
 しかし、英語はそういうわけにはいきません。第1外国語、あるいは第2母語としての英語は、日本においては日常語ではないので、その能力を伸ばすことは、国語における読解力を軸とした語彙・理解力の涵養のようにスムーズには運ばないのです。

 その理由は単純明快。

 日本人の多くは、英語を読んでいるようで、実は英語を読めていません。この点に関しては少し説明が必要でしょう。
 日本人にとって、日本語は音声言語です。特に文字を持たない幼児期には、音声言語が日本語のすべてです。つまり日本語の意味は、音声とのみ結びついているのです。そして、彼らに「日本語の読解力」を与えるということは、音声と文字を結びつけることになります。

 幼児期の言語使用は[意味⇔音声]の図式ですが、読解力を身につけると[意味⇔音声⇔文字]の関係が成立するようになります。
 言語の処理において最も根源的なのは[意味⇔音声]の部分で、これが言語の基礎回路、言い換えれば「生活言語」としての言語処理の方法です。そこに[音声⇔文字]の変換回路を身につけることは「学習言語」としての言語処理とも言い換えることができます。

 繰り返しますが、本質的な言語回路は[意味⇔音声]の処理の部分です。後に習得される[音声⇔文字]回路によって文字情報を音声情報に変換できるようになります。
 日本人が「英語を読めば分かるが、聞いても分からない」というとき(本当に読んで英語を理解できているのかどうかは別として)、その人の英語力には、英語の本来的な回路であるはずの[意味⇔音声]の部分が欠けていることになります。


 

目に入る英語がそのまま直感的に理解できる!

特集イメージ3 横道にそれますが、この夏、冒頭に紹介した「パルキッズ・コミュニティー」メンバーを中心に、”7-day English”を用いた「素読チャレンジ」を行いました。その目的は、[音声⇔文字]回路を強化する、つまり英文をスラスラと音声に変換できる能力を育てることで、英語を生きた音声として脳内に再現し、そこから直感的な[意味⇔音声]の理解能力を育てることにありました。
 有り難いことに修了者のレポートを見ると「英語の聞き取り能力が高まった」「読んだ英文を(日本語を介することなく)直感的に理解できるようなった」「英文を読むのがまったく辛くない」などの感想をいただいております。つまり、英文の素読を通して、個人差はあれど、英語の総合的な回路[意味⇔音声⇔文字]を身につけられた、あるいはその入り口に立てたのです。閑話休題。

 「パルキッズ」で育つ子どもたちは、すでに英語の直感的な理解の回路[意味⇔音声]が育ちつつあります。ただし、繰り返しますが、日本においては英語は非日常語です。つまり、触れる機会が限定的です。それゆえ、子どもたちの頭の中には、膨大な量の英語の音韻情報、語の情報、フレーズの情報が混沌としており、それらの膨大な情報は、整然と体系づけられるの待っているのです。
 その混沌を整然と導くやり方は、母語の場合には母親や他の人との関わりの中で行われます。しかし、英語の場合には、そうした機会は限定的ですし、そのような機会を与えようとするのは多くのご家庭において非現実的です。そこで、会話以外の手段、つまり読解力を育てることによって、[意味⇔音声]の回路を強化しつつ、総合的な[意味⇔音声⇔文字]の回路の涵養を目指すのです。
 
 日本人は「英語は読める」などと言いつつも、実は街中にある英語の看板、あらゆるところで目にする英文はまったく目に入っていないことが少なくありません。耳に入る英語が右から左へと抜けていくのと同様に、多くの日本人にとっては目に入る英語すら見ているようで、まるで見ていないことが少なくないのです。これでは、学生時代の英語から一度離れてしまえば、それ以上に英語力を伸ばすことなど望めるはずもありません。
 しかし、一度、英語の読解力が育てば、話は変わります。[意味⇔音声⇔文字]の総合的な英語の回路を身につけた人にとっては、目に入る英語は日本語と同様に直感的に処理されます。つまり、街中で目にする英語は、次々と意味を持った音声として、自動的に頭の中で再生されるのです。この段階まで英語力を昇華させれば、英字新聞を読むこと、あるいはSNSのフィードに流れてくる英語の記事を読むことすら何の苦痛もなく、まるで日本語を処理しているかのような自然さで行われるようになります。

 その入り口が、パルキッズ生たちにおける絵本の暗唱を通した読解力の育成です。英語の読解力が身につけば、日本語と同じように、読書を軸にして英語の語彙・理解力を際限なく伸ばしていくことができるのです。

 そして、それを可能にする手段は様々ありますが、その中でも最も効率のよい取り組みが英語の絵本の読み聞かせと暗唱なのです。

日本語よりも絵本の重要度が高い英語

特集イメージ3 日本語の読解力と英語の読解力、育てるのにどちらが大変ということはありません。どちらも絵本の読み聞かせや暗唱から育っていきます。しかし、日本語と英語では、音声を文字に置き換えるやり方が異なります。従って読解力を育てるまでの道筋も若干異なっています。

 日本語はひとつの音節をひとつの「かな文字」が受け持ちます。日本語の音節は、撥音、促音、調音の特殊拍や拗音を除き /(子音+)母音/ で成立しています。それら音節はおおむねモーラという単位で、これが、かな文字と一対一で対応しています。因みに撥音「ん」、促音「っ」、調音「ー」は音節ではありませんが、それぞれひとつのモーラを受け持ち、それぞれ上記の文字記号で表されます。  つまり発音される音節単位が、それぞれかな文字を成していて、それ以下の音素の単位で日本語の音節を捉える必要が一般にはないのです。日本人が日本語を頭に浮かべるとき、それらの音は「かな」の単位で頭に思い浮かべられています。

 その後、語彙を豊かにする段階では、その概念が「かな」で表される音声と同時に、「漢字」という別形態で知覚される必要があります。これの漢字の有り様が、国語の学習において特徴的な点でしょう。この点に関しては、明治開明期や戦後占領下で議論された「漢字廃止論」なども漢字の存在に関心が向けられています。
 ただ、漢字が悪いのではありません。鈴木孝夫先生によれば、漢字のおかげで日本語はテレビ的な、つまり視覚と聴覚の両方からのイメージ処理を可能たらしめているという側面なりメリットがあるようです。
 
 他方の英語は様子が異なります。

 日本語の音節数は、清音、濁音、半濁音、拗音などで100を超える程度です。一方、英語の音節数は3万やそれ以上、あるいは数えられないなどと言われるほど種類が豊富です。(ああ、日本人で良かった?!)
 理由は簡単です。日本語は10あまりの子音と母音を組み合わせた /(子音+)母音/ の単純な構造ですが、英語には21ある子音と母音の組み合わせだけでなく、頭子音も最大3つまで子音を組み合わせる(str, skr…)ことが可能です。
 さらに、日本語は撥音と促音を除けば、尾子音は存在しない開音節構造ですが、英語は子音で終わることができる閉音節の構造です。その尾子音も最大3つまで組み合わせ(kst, nst…)が可能なのです。

勝手の違う英語の読み方

特集イメージ3 このため、英語話者は日本人より細かい音素の単位で文字読みを強いられるわけです。そもそも、かな単位で想起される日本語にかなが存在せずアルファベット表記しか許さない体系だったら、どれほど不自由で文字の音声化処理に負担をかけるかは想像に易いでしょう。
 この点においては、漢字の役割がさらに日本語の文字の音声化の助けになっています。「かな」ばかりで書かれている文を想像してください。その読みにくさは、漢字の存在のおかげでずいぶん軽減されていることが実感できるでしょう。漢字に感謝です。
 「漢字」という複数の音節をひとつにまとめる形態素や、母音を中心に子音を取り込んでひとつの単位にまとめる「かな」があることは、それらが存在しない英語の記述とは大いに異なる点です。
 漢字よりも小さい「かな」よりも、さらに小さい単位であるアルファベットで英語を、音素単位で読んでいるとずいぶんと処理が面倒なのは、比較すれば分かると思います。もちろん、これは英語より日本語の方が優れているとか、英語の音素の音素単位の学習法であるフォニックスが必要ないとか非効率であると言っているわけではありません。日本語のかなと表音文字の単位であるアルファベットの、それぞれの音を学ぶことには大変意義があります。
 しかし、英語のスムーズな読みへと繋げていくには、音節単位の読み、つまり日本語で言うところの「かな」単位の読みを育てるライミングや、「漢字」単位の読みを育てるサイトワーズのような学習が欠かせないのです。

 そして、それらの学習を促すのが絵本の読みきかせと暗唱です。

 英語は、ありがたいことに分かち書きになっています。つまり1音節で構成される語(日本語でいうと「かな」レベル)や複数音節で構成される語(漢字のレベル)が、それぞれスペースで区切って表示されているのです。
 これは読者にとっては、かなりのメリットでしょう。絵本を読むこと自体がフォニックス読みライミング読み、サイトワーズ読みの学習にそのまま繋がるのです。
英語の場合には、日本語では滅多に起こらない再音節化(『パルキッズ通信2017年5月号』参照)という現象のおかげで、文字表記された語の区切りと、音声の区切りは異なってしまいます。ただ、これも上で少し触れたような[音声⇔文字]変換の練習を繰り返すことで、正しく発音できるようになります。そして、正しく文字を音声化する能力が高まることで、リスニング能力まで向上することも “7-day English” の素読などから経験的に導かれるのです。

最後に

特集イメージ3 これは持論ですが、英語の機能語あるいは機能範疇は「かな」のようなもので、内容語や意味範疇は「漢字」のようなものです。つまり、日本語では意味のある単位は漢字という文字で表記されることが多く、他方、助詞(は、が、を等)、英語の前置詞に当たる後置詞(から、へ、に等)、活用や相、態(送り仮名で表記される)、あるいは接続詞や副詞の一部、助動詞、繋辞などがかなで表されます。後者はclosed class(個数が少なく時間を経てもほとんど変化しない)とも考えられるでしょう。

 つまり、日本語の場合には読書によって「語彙を豊かにし、理解力を高める」といった際の語彙は漢字に相当する(語彙=漢字)ことが多く、その点英語の語彙の獲得と同義です。
 しかし、読解力育成の取っかかりとして、まず重要であるのは closed class(かなや送り仮名に相当)をスムーズに読めるようになることです。英語でいえば前置詞(to, of, from…)、接続詞(that, when, because…)、助動詞(can, must…)や数量詞(even, little, any…)、あるいは副詞の一部(on, in…)、また代名詞などです。
 あとは、基本語彙といわれる数百程度の名詞や動詞、あるいは形容詞や副詞を読めるようになれば、その後は語彙の強化、つまり日本語でいえば漢字に代表される、新たな概念を身につけることに専念すれば良いわけです。

 英語も日本語の場合と同様に、読み聞かせから、そのまま暗唱へと結びつけることができれば良いのですが、なかなかそれは叶わないと思います。その点は “I Can Read!”(アイキャンリード) “I Love Reading!”(アイラブリーディング) などを活用して読解力に繋げていけば良いでしょう。
 これらの教材は、オンラインレッスン形式になっており、母親が読み聞かせるように、日々レッスンにて絵本のムービーをみることができ、さらに音源のかけ流しによって、音声の入力を強化することが可能です。
 英語に限らず、絵本は日常会話と異なり、洗練された文と絵の存在により内容の理解が進みやすいという利点があります。日本における英語学習では、欠かすことのできない取り組みのひとつです。  この英語の絵本ですが、日本語の絵本と同様に最低100冊は与えたいところです。上記の教材では合計192冊の絵本の読み聞かせ、ならびに読解力育成の足がかりとなる絵本の暗唱の取り組みができるので、うまく生活に取り入れていただき、早期の英語の読解力育成にお役立ていただければ幸いです。

今回は、学力を決定付ける語彙・理解力と読解力に関して、絵本の読み聞かせや暗唱という視点を通して、日本語のケースと英語のケースについて見て参りました。日本語の絵本の効能や具体的な方法については『パルキッズ通信2019年5月号』、また絵本の選び方に関しては『パルキッズ通信2020年6月号』でも紹介しているので、そちらも是非併せてお読みください。


*参考文献
複数の読書量推定指標と語彙力・文章理解力との関係』(猪原敬介ほか 2015)
適応型言語能力検査(ATLAN) の作成とその評価』(高橋登ほか 2009)
親の所得・家庭環境と子どもの学力の関係 :国際比較を考慮に入れて』(野崎華世ほか 2018)
令和元年版 少子化社会対策白書
女性の就業と子育てを巡る現状と課題』

【編集後記】

今回の記事をご覧になった方におすすめの記事をご紹介いたします。ぜひ下記の記事も併せてご覧ください。
習い事を科学する
英語やっててよかった!
夢を叶える親の心得
英語の育て方
パルキッズの取り組みまとめ【後編】

【注目書籍】『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)

特集イメージ9 児童英語研究所・所長、船津洋が書き下ろした『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)でご紹介しているパルキッズプログラムは、誕生してから30年、10万組の親子が実践し成果を出してきた「超効率」勉強法です。書籍でご紹介しているメソッドと教材で、私たちと一緒にお子様をバイリンガルに育てましょう。


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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

1965年生まれ。東京都出身。株式会社児童英語研究所・代表取締役。上智大学外国語学部英語学科卒業。実用英語技能検定1級取得。30年以上に渡る幼児教室・英語教室での教務を通じて幼児の発達研究に携わるかたわら、「パルキッズ」などの英語教材を始めとした幼児向け教材を多数開発。また、全国の幼児・児童を持つ親に対して9万件以上のバイリンガル教育指導を行う。講演にも定評があり、全国各地で英語教育メソッドを広めている。著書に20万部のベストセラーを記録した『たった80単語「読むだけで」英語脳になる本』(三笠書房)をはじめ『どんな子でもバイリンガルに育つ魔法のメソッド』(総合法令出版)『ローマ字で読むな!』(フォレスト出版)『英語の絶対音感トレーニング』(フォレスト出版)など多数ある。

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