音声分節とレキシコンの形成
一続きの英語から、どうやって単語を見つける?
英語音声には単語ごとの空白が存在しないこともあります。子どもは音のつながり・強勢・音節構造などを手がかりに連続音声を分節し、見つけた語形をレキシコン(心内辞書)へ蓄積していきます。
音声分節とは
英文を文字で見れば、単語と単語の間には空白があります。しかし実際の音声には、そのような空白はありません。それどころか、音は語の境界を越えてつながり、変化し、ときには一部が脱落します。それでも英語話者には、流れてくる音声から次々と語が聞こえます。
音声知覚形成によってその言語らしい音の聞き方が育つと、次に必要になるのが、一続きの音声から単語や句を見つける力です。この働きを音声分節と呼びます。
音の流れから「同じまとまり」を見つける
赤ちゃんは、最初から単語の意味を知っているわけではありません。それでも大量の音声を聞いていると、同じような音のまとまりが繰り返し現れることに気づきます。
たとえば、まだ dog の意味を知らなくても、Look at the dog.、The dog is running.、Where is the dog? のような音声に何度も触れていると、その中に繰り返し現れる同じような音のまとまり 'dog' が分かるようになります。
この段階で必要なのは「dog は犬という意味だ」と理解していることではありません。まず起きるのは、連続した音声の中から、繰り返し現れる音のまとまりを一つの語らしい単位として見つけることです。これが音声分節です。
実際の音声には空白がないが、この音のまとまりが繰り返し現れることで「これは一つの語らしい単位だ」という認識が生まれる。意味を知らなくても音形の候補としてマークされる。
強く聞こえるところから「語が始まる」と予測する
意味も語彙も十分に持たない子どもは、音の流れのどこからどこまでが一つの語なのかを、いくつもの手がかりを使って見つけていきます。その一つが強勢です。
英語の語には強い音節と弱い音節があり、日常的に使われる語には強い音節から始まり、その後に弱い音節が続くトロキー型が多く見られます。そのため英語を聞いて育つ子どもは、強く聞こえる音節を手がかりにして「ここから新しい語が始まるのではないか」と予測するようになります。
この傾向は、幼児の発話にも現れます。banana の最初の ba は弱く、真ん中の na に強勢があります。2歳頃の子どもが banana を「nana」のように発音することがありますが、これは単に最初の音を忘れたというより、強勢のある音節を中心に語の形を捉えているためです。強く聞こえる na が語の中心であり、そこから後ろの弱い音節を含む nana のまとまりの方が捉えやすいのです。
強勢パターンの可視化 — banana の例
(大人の発音)
(約2歳)
弱い音節 ba が脱落し「nana」になる。強勢のある音節が語の中心として捉えられ、その前にある弱い音節が処理されにくいことを示している。日常語には「強+弱」のトロキー型が多いため、子どもは強い音節を語の始まりの手がかりとして使うようになる。
音の共起確率
同じ語の中に現れる音の組み合わせは語境界をまたぐ組み合わせより頻度が高い。この統計的パターンも手がかりになる
トロキー型の強勢
英語の日常語は「強+弱」パターンが多い(baby, table, mother 等)。強い音節が語の始まりのシグナルになる
見つけた音のまとまりがレキシコンへ登録される
一度聞いた音のまとまりが、すぐに一つの語として安定するわけではありません。しかし、似た音形に何度も出会うと、「これは以前にも聞いた音だ」という記憶が残ります。dog という音形に何度も出会えば、その音の並び自体が頭の中に残ります。この段階では、まだ「犬」という明確な意味が結びついている必要はありません。
このように、ことばとして認識された音の情報が蓄えられていく仕組みをレキシコン(心内辞書)と呼びます。
ここで大切なのは、レキシコンへの登録と意味の獲得を分けて考えることです。先に「何度も現れるこの音のまとまり」という音形のインデックスが作られ、その後に意味が育っていきます。
語形の候補を見つける
連続音声の中から、繰り返し現れる音のまとまりを語らしい単位として切り出す
/dɔg/ という音のまとまりレキシコンへ登録
繰り返し現れる音形が「既知の語形」として心内辞書に蓄積される。この時点では意味は空欄でよい
dog = 意味は未定経験との結びつき
犬を見ながら "dog" と聞く経験が積み重なると、音形に意味・イメージが結びつく
dog = 犬のイメージ最初のレキシコンは「意味のない見出し語」に近い
紙の辞書には、見出し語の横に意味が書かれています。しかし、子どもの初期のレキシコンを考えると、まず見出しだけが先に作られると考えた方が分かりやすいでしょう。
たとえば、ある子どもが何度も giraffe という音を聞いていたとしても、まだキリンを見たことがなく、その語の意味を知らないことがあります。それでも、同じ音形が十分に繰り返されれば「この音のまとまりは何度も聞く」という記憶は作られます。意味は分からなくても、語そのものは頭の中に存在できるのです。
大人でも同じことがあります。知らない外国語や専門用語を何度も耳にすると、「意味は分からないけれど、このことばは聞いたことがある」と感じます。これは意味より先に音形が記憶されている例です。
完成した辞書項目(大人)
- 見出し語(音形・スペル)がある
- 明確な意味定義がある
- 複数の意味・用法が整理されている
- 関連語・用例が結びついている
- 音形と意味が一体として定着している
初期レキシコン(子どもの初期段階)
- 音形(見出し語)が先に登録される
- 意味の欄は空欄またはあいまい
- 「聞いたことがある」という感覚だけがある
- 経験を通じて後から意味が結びつく
- 音形が先行し、意味は後から育つ
音形が増えると、さらに新しい語を見つけやすくなる
レキシコンに音形が蓄積されると、音声分節そのものも進みやすくなります。一続きの音声の中に、すでに登録されている dog という音形が現れれば「ここは dog だ」と判断できます。すると、その前後にある未知の音についても境界を見つけやすくなります。
初めは音の流れにしか聞こえなかったことばが、次第に「知っている音のまとまり」と「まだ知らない音のまとまり」に分かれて聞こえるようになります。この段階で育っているのは、意味を知らなくても、聞けば同じ語だと分かる音形のストックです。この蓄積が、その後の語彙理解の土台になります。
音声分節とレキシコン形成は一方通行ではありません。分節 → 登録 → 登録済み音形を使ってさらに分節 → 新たな語形の発見という循環が続き、聞き取れる語のストックが少しずつ増えていきます。
「聞いたことがある」が、意味獲得の準備になる
音形がレキシコンに登録されていると、その後、その語が具体的な場面に現れたときに意味を結びつけやすくなります。dog という音形をすでに何度も聞き、レキシコンに持っている子どもが、実際の犬を指しながら Look at the dog. と言われたとします。
そのとき初めて dog という音形と、目の前の犬との結びつきが生まれるかもしれません。そして別の犬・絵本の犬・走る犬などに出会うたびに、その意味はさらに豊かになっていきます。
ことばは、最初から「音+意味」の完成品として入ってくるわけではありません。まず連続音声から音のまとまりが見つかり、それがレキシコンへ登録され、その後に意味が育っていくのです。
おうち英語・パルキッズとの関係
この仕組みを家庭で活かす
このページで説明したのは、連続音声から語らしい音のまとまりを見つけ、まず意味を伴わない音形としてレキシコンへ登録していく一般的な言語習得の過程です。家庭で英語音声に多く触れる環境を作る考え方についてはおうち英語とは?を、具体的な家庭学習の設計についてはパルキッズ・インプットメソッドをご覧ください。
