音声知覚形成とは?
子どもはどうやって英語の音を身につける?
英語を使いこなすためには、英語の音声を聞き取れる必要があります。そして、英語の音声を聞き取るには、英語特有の音の仕組みが頭の中に作られる必要があります。日本語話者に英語が聞き取りにくい理由と、音声知覚形成の仕組みを解説します。
音声知覚形成とは
ことばを身につける最初の段階では、まだ単語の意味も文法も分かっていません。それでも赤ちゃんは毎日大量の音声を聞くうちに、「この言語ではどの音の違いが大切なのか」「どんな音の並びがよく現れるのか」「どのようなリズムでことばが流れるのか」といった特徴を少しずつ学んでいきます。
このように、その言語に合った音の聞き方(リスニング能力)が作られていくことを、ここでは音声知覚形成と呼びます。一般に「英語耳」と呼ばれるものも、その中心にあるのはこの仕組みです。
言語によって「聞き分ける音」が違う
日本語と英語では、重要な音の違いが同じではありません。たとえば日本語では「おばさん」と「おばあさん」のように母音の長さが意味の違いにつながります。一方、英語では right と light のように、/r/ と /l/ の違いが語の意味を変えます。
赤ちゃんは、生まれたときから「この音の違いは大切」と知っているわけではありません。周囲のことばを大量に聞きながら、その言語においては、どの音の違いが意味の違いにつながるのかを学んでいきます。
英語耳とは単に「耳がよい」ということではありません。英語の音を、日本語のカテゴリーではなく、英語のカテゴリーで聞き取れるようになることです。
日本語の音カテゴリ
- 母音の長短が意味を変える(おばさん / おばあさん)
- /r/ と /l/ は同じカテゴリとして扱う
- 音節は母音ごとに切れるモーラ構造
- 子音で終わる音節は少なく、ほぼ母音で終わる
- 子音連続(str〜 kl〜 等)がほとんどない
英語の音カテゴリ
- /r/ と /l/ は別のカテゴリ(right / light は別の語)
- 強勢の位置が語の意味・品詞を変える
- 子音連続が多い(strike / strengths 等)
- 子音で終わる音節が多い(apt / text 等)
- 音節単位ではなく強勢のリズムで流れる
身につくのは音素だけではない
英語を聞き取るために必要なのは、/r/ と /l/ のような個々の音だけではありません。英語には英語独特の音節構造・強勢・リズムがあり、実際の会話では音がつながったり、別の音に変化したり、さらには一部の音が発音されなくなったりします。
このような処理は、聞こえなかった音を意識的に推測しているわけではありません。大量の英語を聞く中で英語のパターンが身につき、自動的に元の音韻表象を立ち上げられるようになります。
音声知覚形成とは、音素だけでなく、音節・強勢・リズム・連結・再音節化・フラップ・脱落などを含む英語の音韻体系を身につけ、実際に発音された音声から、発音されなかった音まで含むことばの姿を再構成できるようになることです。
got it
実際の音
「ガリッ」
/t/ が母音に挟まれてフラップ(弾き音)に変化。日本語のラ行音として聞こえる
take it
実際の音
「テイキッ」
take の末尾の /k/ が it の母音と結びついて語境界を越えた再音節化が起こる
can't
末尾の /t/ が
聞こえない
子音が連続する位置で /t/ が脱落しても、英語話者は「音のスロット」として /t/ を知覚する
「音のスロット」— 発音されない音素が知覚される仕組み
物理的に /t/ が脱落していても、英語の音韻規則の知識から「この位置には /t/ がある」と知覚される。大量の英語を聞く中でこのパターンが自動化されることで、流暢な音声理解が可能になる。
日本語が身につくと、日本語の仕組みで音を聞く
母語の音韻体系が育つことはとても大切です。日本語を素早く正確に聞き取るためには、日本語に合った音の聞き方を作る必要があるからです。
しかし、第二言語を聞くときには、その仕組みが影響します。たとえば英語の strike は1音節ですが、日本語では「ストライク」と複数のモーラに分けて発音します。英語の子音連続をそのまま処理するのではなく、日本語に合うように母音を補って聞いたり発音したりするためです。
つまり、大人になると英語が聞き取りにくくなる理由の一つは、耳が悪くなるからではありません。むしろ、日本語を非常に上手に聞き取る仕組みがすでに完成しているからこそ、英語まで日本語の仕組みで処理してしまうのです。
日本語 = モーラ言語
音節は母音を中心とするモーラ単位。子音連続を自然に扱わない構造
英語 = 強勢拍言語
強勢音節を中心としたリズム。子音連続・縮約・脱落が日常的に起こる
処理システムの干渉
日本語の音韻体系が完成しているほど、英語を日本語式に処理しようとする傾向が強まる
大量の音声から「英語らしい音」を学ぶ
子どもは、英語の音素表を見て音を覚えるわけではありません。同じ語でも、話す人によって声の高さも速さも発音も少しずつ違います。それでも大量の英語を聞いていると、そこに共通する特徴が見えてきます。
たとえば cat という語も、父親が言う cat、母親が言う cat、子どもが言う cat では音響的にはピッチも音質も違います。それでも、何度も聞くうちに、それらを同じ語として扱えるようになります。
これは、一つの音をそのまま丸暗記しているのではなく、さまざまな実例から共通する音のパターンを取り出しているからです。このように大量の音声から規則性を見つけることで、英語の音素・音節・リズム・音の変化が一つの体系として身についていきます。
音声知覚形成は「ことばを見つける」ための土台になる
英語の音を聞き分けられるだけでは、まだ意味は理解できません。次に必要になるのは、一続きの音声から「どこからどこまでが一つのことばなのか」を見つけることです。
英語の音の並び方・強勢・音節構造・音の変化などが分かってくると、流れてくる音声の中から語らしいまとまりを見つけやすくなります。
つまり、音声知覚形成はリスニングのゴールではありません。音を聞き取る力から、ことばを見つける力へ進むための土台です。
おうち英語・パルキッズとの関係
この仕組みを家庭で活かす
このページで説明したのは、特定の教材や学習法ではなく、子どもが大量の音声からその言語の音の仕組みを身につけていく基本的な過程です。家庭の中に英語音声にたくさん触れられる環境を作る考え方についてはおうち英語とは?を、具体的な家庭学習の設計についてはパルキッズ・インプットメソッドをご覧ください。
