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2022年10月号特集

Vol.295 | 英語習得に有益か無益か?一刀両断します

純ジャパから学ぶ効果的な英語学習

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-2210/
船津洋『英語習得に有益か無益か?一刀両断します』(株式会社 児童英語研究所、2022年)


大学生の英語力は低下するばかり

大学生の英語力は低下するばかり しかし、どうなのでしょうか。なぜ、これほどまでに成果の乏しい英語学習法に、日本人だけが拘泥するのでしょうか。
 「変わらない」のと、「変われない」のは違います。変わらないことはある意味、”素敵” なことかもしれません。しかし、変われないとなると、こちらは大問題。現状が健全であれば、変わる必要などありません。しかし、現状が不健全である(成果が出ていない)わけですし、さらに関係者がその点を理解しているにも関わらず、変われないのですから処置なしです。

 かつては、日本に右倣えで英語教育をしてきた中国や韓国も、早々に日本式(というか偶然、今ある姿になっただけ)の英語教育法から、成果の上がる方法へと切り替えています。しかし、日本ただ一人のみ、文法訳読方式に固執して、世界から取り残されているのです。もっとも、世間の風当たりが強いので、文科省も少しずつ手を入れてはいます。
 しかし、本質にはなかなか切り込まないのか、あるいは切り込めないのか、「改革」と銘打っているものの、実のところ表面的に「本人のやる気」を引き出す作業に終始します。「英語を使ってみようよ」「英語は楽しいよ」「いろいろな人と友だちになれるよ」といった、英語習得の本質とは異なる次元の技術に、学問的な裏付けをこじつけたようなやり方です。少しでもこの国の英語教育に関して憂えている身からすれば、怒りを通り越して呆れんばかりの有様です。

 50年近く前に、国会議員の故平泉渉氏から「外国語教育の現状と改革の方向」の提案が出されました。その提案に対して、上智大学教授の故渡部昇一氏から激しい反論があり、それが両者間の論戦へと広がります。いわゆる「昭和の英語大論争」と呼ばれる議論です。
 簡単に説明すると、以下のようなことです。平泉氏が「使える英語」を身につけるために、英語選択制(一部のエリートのみに集中的に学習させる)、正則英語(今で言うイマージョン)を取り入れるべきと主張したのに対し、渡部氏は「いやそんな馬鹿なことはない」、従前通りの英語の潜在能力を身につけさせるべきであり(実用的でなくてもいつか役立つ)、必修制(みんなが取り組まなくてはいけない)、かつ変則英語(今でも続く文法訳読)で進めるべきという論陣を張って、大いに議論が交わされました。

 この議論における故渡部昇一氏のように、大いに開き直って「文法訳読の何が悪い」「英語の運用能力ではなく潜在能力を養うのだ」「薄っぺらい会話ではなく正確に読み解く能力が大切だ」「英語との格闘によって日本語の能力も高まる」と主張するのをみると、それはそれで天晴れです。
 もちろん、彼の主張にはこじつけの感もあります。しかし、現在のように学校の先生に忖度して「文法訳読」から離れることができず、経済産業界や人気取りの政治家に忖度して「コミュニカティブ」な取り組み(コミュニカティブ・アプローチ:Communicative Approach、コミュニケーション能力の向上を重視した学習・教授法)をこっそり入れてみるようなやり方には潔さを感じません。
 さらに、一部の教員の心許ない英語力の現状と、使える英語との間を埋める奇策として、大学入試改革を進めようとする者たちもいる始末です。つまり、大学入試に無理やり「コミュニカティブ」項目を取り入れることによって、高校生も中学生も、そして教員たちも受験対策のために「文法訳読」ばかりではなく「コミュニカティブ」に取り組まざるを得ない状況を作り出そうというのです。いわば、彼らを逃げ場のない簗に追い込んで行くようなやり方には感心できません。

 そして、そのような混乱の中、大学は大衆化の一途を辿っています。それによって何が起こるか。当然のこととして、大学生の平均的な学力、もちろん英語力も低下していきます。「新入生たちに中学英語から教えなくてはいけない大学教授がいる」などと揶揄されるような現状ができるわけです。かつては優秀な人のみが進学していた大学に、それほど優秀でない凡人たちが殺到するのですから、英語力が下がるのは当然です。

 しかし、それだけではありません。「コミュニカティブ」な英語の授業を、限られたコマ数の貴重な英語の授業に忍び込ませることで、当然のことながら学生たちは「英文を読む」ことから遠ざかります。
 「英文を読む」ことは、英語習得において誰もが認める最善の方法です。それが表面的な「コミュニカティブ」に置き換わるわけです。もちろん、コミュニカティブ・アプローチで英語力が向上するのであれば、それはそれは結構なことです。しかし、ちょっとやそっと外国人と、あるいは日本人の英語教師や級友たちと、英語でやり取りをするくらいで英語力が向上するわけもありません。結果として、学力の高い学生たちの英語力すらも低下する憂き目を見るのでしょう。


昭和の後半からの英語教育法の変遷

昭和の後半からの英語教育法の変遷 学校英語に「使える英語」を期待する日本人は、まさか存在しないと思います。いや、この学校英語に対する諦め空気はすでに半世紀前から日本中に漂っているのです。それが先の「大論争」へともつながるわけです。
 その後、昭和の終わり頃、豊かになった日本人たちは、こぞって「英会話」へ通うようになります。学校で文法訳読、つまり「読み書き」をするのだから、あとは「英会話」で「聞く話す」をトレーニングすれば「英語は身につく」という幻想が蔓延します。
 結果として英会話スクールが乱立、主要都市の駅前には保険会社と英会話の看板が立ち並ぶようになるわけです。しかし、学校の読み書きに英会話の聞く話すを足すといった「2+2=4だぞ」的な単純な発想で、英語ができるようになるはずもありません。当然のことですが、週に1・2度、1~2時間程度の英会話の時間を設けたところで、英語ができるようになるわけがないのです。

 前後しますが、英会話ブームが来る前にも「英語を聞く」学習法は広く行われていました。昭和50年代半ば頃から、カセットテープを使用した「LL教室」が高校や大学に設置されました。僕もLL教室を使ったことはありますが、すでに留学を終えていたので「なんでこんな簡単な英文を、みんなは聞き取れないんだろう」と感じたものでした。
 また、民間でもカセットテープを使った教材が使われるようになります。しかし、ちょっとやそっと英語を聴いた程度で、英語を聞き取れる耳が作られることはありません。結局、いくつか英語らしいフレーズを口にすることはできるようになったとしても、根本的なリスニングの問題を解決するには至りません。そして、その後の英会話全盛時代へと進んでいきます。

 バブルが去り、英会話ブームはやや沈静化しますが、代わって洋画や海外ドラマへのアクセスが容易な時代がやってきます。30年前には特殊な機械を使用しなければ表示できなかった“CC:Closed Caption、音声を文字情報で伝える字幕放送、クローズドキャプション”は、今や、一般的なテレビでも表示できます。
 アメリカで量産された映画やドラマは、さらなるマーケットを求めて日本へと渡来します。すると「洋画や海外ドラマで英語を学ぼう」という機運が生じるのも自然の理でしょう。現に僕もひとつ仕事を請け負ったことがあります。しかし、そもそもこの学習法、やっていることはLL教室と同じです。映像があるかないかの違いのみ。そうであれば、LL教室と同じ運命を辿るのは当然のことでしょう。

 ところで、我らが「パルキッズ」は1994年生まれ、そろそろ三十路の立派なアラサーです。誕生当初はカセットテープと紙でした。1998年にはフラッシュカードや歌や「としお」などがビデオ(VHS)で見られるようになりました。それがDVDに置き換わったのが2004年のことです。そして2012年には音声CDもデータで提供するようになり、さらに2014年にはオンラインレッスンがスタートし、映像もストリーミングで提供するようになります。「パルキッズ」も時代の流れに合わせてメディアを変化させてきています。

 その間、インターネットの回線環境も飛躍的に向上してきました。20年ほど前に光回線になり、少し遅れてWi-Fiが普及することで、オンラインストリーミングでビデオが見られるようになり、同時にビデオ通話もできるようになりました。ここからオンライン英会話の萌芽を見ます。
 「本場の英語ばかりが英語ではない!」との掛け声や、「なんでも良いから英語でしゃべってみよう」という文科省のお墨付きがあったかどうかは存じませんが、比較的コストの低いエリアの非ネイティブ英語話者を講師として、格安でオンラインで英会話レッスンを受けられるようになり、爆発的に広がりを見せることになります。

 さまざまなデータを総合すると、英語を習い事としている人の割合は、18歳以上人口の5%前後に上るようです。また、英会話だけでも130万人を超え、ここにオンライン英会話も含めると、おそらく成人の2%から5%にかなり近い割合の日本人が英会話を学んでいることと想像できます。

 コミュニカティブ…。1975年の「昭和の英語教育大論争」で、平泉氏は「英語漬け」にする正則法を用いるべきと主張しています。今で言うイマージョン方式です。しかし、今日では「コミュニカティブ」の言葉のみが前面に押し出され、その質、つまり「英語漬け」であることがすっかり抜け落ちて骨抜きにされてしまいました。「英語に触れる」程度の英会話も、多くの日本人にとってはコミュニカティブと同じ範疇の学習法と受け止められているのでしょう。


英語にかけたお金と時間はどこへ行った?

英語にかけたお金と時間はどこへ行った? さて、成人日本人の少なく見積もっても5%が、なんらかの形で英語学習にお金を落としているわけです。一人年間10万円使うとしても5000億円。成人以上なので、もちろんこれには塾や予備校は含まれません。小学生の習い事としての「英語」は、それのみで200万人ほどのマーケットが存在しますし、そこに幼児の英語も含めれば、1兆円以上あるいは2兆円の規模で民間の英語マーケットが存在するわけです。もちろん、学校での英語はこれに含まれないことは言うまでもありませんし、大学での英語教育、さらには留学の費用なども含めれば、日本人は年間数兆円を英語学習に投じているのです。

 このように、少なからずのお金を英語教育に注いでいる日本人、もちろんお金だけではなく、大変な苦労と時間も注いでいるわけです。

 まぁ、一般的にコストを考えるときにはリターンも考えるわけですが、せっせとコストをかけた結果としての日本人の英語力は?となると、なかなかにお寒い現状があります。すでに『パルキッズ通信2020年1月号』で触れているので、詳細はそちらに譲りますが、ポイントだけお伝えすると、まともに英語を使える日本人はおそらく百人に一人、1%程度です。
 ここで「まともに」というのは、”CEFR : Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment、外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠、セファール” で、B2以上のレベルの英語の運用力を指しています。英検でいえば準1級と1級の中間の何処かです。そして、その1%というのが、英語圏への留学生数の割合と一致するところを見ると、おそらく “一部の特殊な例外” を除けば、留学でもしなければその境地に到達することができないことがわかります。つまり、日本で「まともに」英語を使いこなせる人たちは、かなりの割合で洋行帰りだと推測できるのです。

 1年間の留学にかかる費用が200万円だとしましょう。そして毎年1万人が留学している現状をざっと計算すると、1%の英語を使える人間を手に入れるために200億円かけていることになります。もちろん、国や自治体、あるいは大学が負担しているケースもありますが、一般には個人負担です。
 上記「大論争」の引き金となった平泉氏の「外国語教育の現状と改革の方向」において、氏は、英語が使える人が人口の「5%」程度あれば国益となると主張しています。さて、その論に従って、まともに英語を使える人間を5%にすることを考えれば、英語を身につけるべき人材を国費で留学に送り出せば良いわけです。すると、1000億円程度あれば、十分に国益に叶うほどのバイリンガル(まともに英語を使える人)を育てることができるのです。
 数兆円を投じて、人口の1%程度しか英語を使いこなせない現状と比べて、数十分の一の投資額で5倍の効果をもたらします。つまり、少なくとも50倍、投資効率が高い。留学が、いかに効率よく英語を使いこなせる人材を育てることができるか、一目瞭然でしょう。

 要するに、日本では費用対効果がとてつもなく悪い投資を、官民揃って行い続けているのです。


すべての人が留学できるわけではない

全ての人が留学できるわけではない しかし、ですよ、すべての人が留学できるわけではありません。優秀な上位5%とすると、偏差値でいえば67以上くらいの学生を国費留学させればよさそうですが、ことはそう単純ではない。平等か否かという点に関しては、成績で線引きするのが妥当でしょう。しかし、仮にそんな制度を作ったら、高校で国費留学するための対策塾や中学受験での英語が加熱しそうです。制度としては問題なさそうですけれども、人気商売の国会議員がそんな法案を出せるわけがないわけですね。その点、平泉氏は人気(金と票)より憂国を採った、政治家として斯くも天晴れな御仁です。
 もっとも、現在でも経済格差による教育格差は厳然として存在するので、制度として作ろうが作るまいが、自然と英語ができる人とできない人は分かれてしまう仕組みとしては同じわけです。効率が良いか悪いかの違いです。

 さて、どうしましょうか。

 ところで僕は、当時としては少し人と違う英語学習の道を歩んできました。結果、留学することになるわけですけれども、そのようにして “一応” まともな英語力を身につけた経験から話を進めていくことにします。
 ここで改めて、「まともな英語力」を定義しておくことにしましょう。CEFRでいえば、B2以上C1未満です。これは英検では限りなく1級に近い準1級とすることができます。参考までに、「C1程度の英語力」とは「日常のことは当然のこと専門外のことに関しても議論を交わすことができ、時と場合によっては、自分の論理の瑕疵を相手に悟られないようにして議論を展開できる程度の言語の運用力」です。
 こう聞くと、「私は日本語でもそのレベルに到達していない」と感じる方も、あるいはいらっしゃるかもしれません。ハイコンテキスト文化の日本においては、いちいち言葉にせずに互いの気持ちを察したり、論理に変なところがあっても突っ込まなかったり、場の雰囲気を壊さないように空気を読んで内容は無視したりするようなコミュニケーションが美徳とされますので、件のヨーロッパスタンダードには該当しない人も少なくないかもしれませんね。

 閑話休題。

 ところで、上段でも “一部の特殊な例外” として触れましたが、留学もせずに英語を身につけてしまう人たちがいます。「純ジャパ」と呼ばれる、言語にとても敏感な人たちで、彼らは確かに存在します。
 僕は留学で英語を身につけましたので、そのような優秀な人間ではありません。あくまでも、凡人程度の言語に対する敏感性しか持ち合わせていません。しかも、ラジオ講座からカセットテープ、LL学習から多読、あるいは正確な発音を身につけるためのトレーニングを経験してきた身です。つまり、僕自身、英語ができないことを体験してきたわけです。
 そして、その後は言語学も学びました。つまり、どのようにして「純ジャパ」たちが英語を身につけるに至ったのか、そして英語を身につけるための決定的な方法が、言語に対して敏感ではない大多数の日本人に通用するのかどうかを、検証できる立場ではあるわけです。


まずは分ける

まずは分ける さて、「CEFRのB2からC1」レベルの英語力を「まともな英語力」と定義しましたが、まともな英語力にもいろいろありますので、まずはいくつかに分けることにしましよう。そして、「純ジャパ」たちがどの分類の「まともな英語力」を身につけているのか見ることにします。その後、どのような学習法が費用対効果が高いのかを見ていくことにします。

 詳しくは『パルキッズ通信2022年1月号』で紹介していますが、「バイリンガル」とは、生まれたと同時に二カ国語で育成される ’simultaneous bilingual’ と、ある程度母語を習得した3歳までにバイリンガル環境に置かれる ‘sequential bilingual’ に分けられます。
 つまり、厳密に言うと、僕のような高校での留学生や、幼児期以降を海外で過ごして、その結果英語を身につけたような人たちは、バイリンガルではありません。(※もちろん、分類の仕方は様々で、小学以降に学校で英語を学んだ子すらも含めてバイリンガルとする考え方もあります。この考え方によれば、日本人は皆バイリンガルということになります。)

 バイリンガル以外で英語(第二言語)を身につけている人は、’L2 learner’ と呼ばれます。’L2 learner’ とは「英語を勉強している人」ではなく「英語のイマージョン教育を受けている人」を指します。彼らが英語を学習する過程は、”SLA : Second Language Acquisition、第二言語習得、留学生や帰国子女のような外国語習得メソド” と呼ばれ、”FLA : Foreign Language Acquisition、外国語習得、学校の英語のような教育メソド” とは区別されます。

 整理すると、母語に加えて第一外国語を身につけているバイリンガルは ‘simultaneous bilingual’ と ‘sequential bilingual’ に分けられ、3歳以降にイマージョン環境で学習を開始するものは SLA として外国語を習得します(さらに学習開始年齢で、思春期を境に ’early L2 learner’ と ‘late L2 learner’ に分類されます)。そして、それ以外に「学校英語」の FLA があるわけです。

 具体的に言えば、国際結婚のケースや3歳以前に家庭内に外国語環境が存在する場合がバイリンガルで、3歳になってから海外に渡るような帰国子女のようなケースが ‘early L2 learner’ 、留学生のように思春期を過ぎてから海外に渡るようなケースが ‘late L2 learner’ となります。
 これらの ‘bilingual’ や ‘L2 learner’ (SLA) に共通するのは、イマージョン教育が行われることです。これは「大論争」のところで少し触れた正則英語教授法とも呼ばれ、英語漬けにすることで英語を身につけていく学習法です。特徴として、ここでは文法教育は行われませんし、英語以外の言語に訳すことも行われません。いわば、幼児たちが自然と母語を身につけるようにして外国語を習得させるやり方です。従って、文法訳読の学校教育のような変則英語教授法である FLA とは、根本的に質が異なることになります。

 すでにご存知の通り、変則英語教授法(=文法訳読)で “まともな” 英語を身につけることは絶望的です。すべての日本人は学校で変則英語で英語を学びますが、その中で英語を身につけられる学生は、留学をして正則英語(≒イマージョン)で英語を身につけるか、あるいは「純ジャパ」のようになんらかの抜け道を通って、正則英語と同じような効果を得ていることになります。
 いわでもですが、「純ジャパ」とは、海外経験無しに英語を身につけている人たちのことです。こう書くと「学校英語だけで英語を身につけた」ように受け止められるかもしれませんが、違います。旧帝大に行くような人に話を聞くと、彼らでもやはり(海外経験無しで)英検準1級は難しく、2級止まりが多いようです。やはり学校英語では英検2級が関の山、「純ジャパ」にはなれません。  つまり、「純ジャパ」は学校英語以外に「何か」しているのです。


世の中の英語学習法を検証

世の中の英語学習法を検証 学校英語以外の英語学習法といえば、参考書と単語帳(記憶)から始まって、多くの人々は、次にラジオ英語などの音声教材(耳からのインプット)に移行します。そして、どうもそれだけでは成果が上がらないので英会話(コミュニカティブ)へと進む人が少なくありません。
 しかし、期待のコミュニカティブもコストの割にはどうも成果が上がらないので、洋画や海外ドラマ(目と耳からのインプット)へと彷徨が始まります。しかし結局、映像教材も音声教材と本質的には変わらないので、大した成果は上がりません。英会話と音声教材を合わせて、いくつか使える表現を身につけられるくらいでしょうか。

 そこで、「もっとインプットしなければいけないのだ」という点に気づいてかどうか、「聞き流し」教材へと進まれた方も少なくないでしょう。最近姿を消した有名な教材もありましたね。しかし、大人がいくら聞き流してもどうにもなりません。そして、やはり「語彙」だということになり拙著『たった「80単語」!読むだけで「英語脳」になる本』(三笠書房)のような書籍漁りをされた方も少なくないでしょう。
 また、インプットが大事と考える人たちは、「多読」へと歩みを進めるかもしれません。さらに、最近では AI が進化して英語の正しい発音を学べる教材が続々と発売されています。さて、それで英語は身につくのでしょうか。

 ざっと以上のような英語学習法が、民間から提供されています。中には、対訳方式と音声を組み合わせたようなレッスンや、楽しみながら語彙の確認ができるような仕組みもあるでしょう。いずれにしても、大元は上記のような内容で、これらの組み合わせとインターフェイスが異なるようなものが大半でしょう。


SLA ならば少しは役に立ちそう

SLAならば少しは役に立ちそう さて、これらの教材を、まずは SLA なのか FLA なのかで分けてみることにしましょう。
 文法訳読は言うまでもなく FLA ですし、文法訳読の延長にある参考書や対訳方式で語彙を増やすような取り組みも FLA です。それでは英会話はどうでしょう。SLA でしょうか。SLA とはイマージョン並みの英語漬けを要求しているので、週に1・2度、1~2時間程度の英会話では SLA とはいえません。

 それでは、英会話は FLA でしょうか。英語を学ぶための教室で行われている点においては FLA ですが、すべてのやりとりが英語で行われるのであれば、正則英語を取り入れていることになります。この点、学校英語とは異なります。今日学校でも取り入れられている “CLIL : Content and Language Integrated Learning、内容言語統合型学習、クリル” などと通底しています。

 では、正則英語の CLIL で英語は身につくのでしょうか。もちろん、十分なインプットの機会が与えられれば、CLIL は大いにその威力を発揮します。しかし、学校英語も同様ですが、週に1・2度、1~2時間では、せっかくの正則英語あるいは CLIL も「モチベーションアップ効果」程度しか生み出さないでしょう。


音声の問題と、英語「そのもの」を理解できない問題

音声の問題と英語「そのもの」を理解できない問題 それでは、ラジオや音声教材、あるいは映像教材はどうでしょう。これらは詰まるところ「文字と音声の架け橋」の役割しか果たしません。この点、説明すると長くなりそうですが、一口に言えば、英語の音と文字との関係を学ぶ「フォニックス」や今日流行りの「発音矯正講座」と同じジャンルです。

 そもそも、英語がわからないのには2つの原因があります。音と文字の関係がわからない点と、英語そのものがわからない点です。前者は「正しい英語の音と、スペルの関係がわからない」こと、後者は「英語を知覚できても理解できない」、つまり読んでも理解できないことを意味します。
 日本人の多くは「英語は読めるけど聞き取れない」と感じています。これはまったくその通りで、確かに「英語は読める(けど、読んでも意味がわからない)」のです。ビデオの CC(字幕放送)で表示される英文は、もはや音声ではなく文字記号です。しかし、その文字記号を読んでみても内容が理解できない。耳からの英語(聞き取れない)のみでなく、目からの英語もわからない、つまり、英語そのものがわからないのです。

 音声教材は、少なくとも音声と文字の関係を学ぶ機会を与えてくれるので、有用と言えば有用です。しかしそれでも「勘」に頼って音を真似るだけでは、あまり役に立ちません。世の中には「音声学」とか「英語音声学」という学問がありますので、せっかく音声教材を使うなら、そうした学問的に正当性を持っているものを使用すると良いでしょう。
 もちろん、フォニックスなどで体系的に学ぶのも、英語の音と文字の関係を理解するためにはとても有効です。


聞き流し教材

聞き流し教材 それでは、聞き流し教材はどうでしょう。  これも、問題があります。そもそも英語を聞き流すことで英語のリスニング力の向上が図れるのであれば、洋楽好きな大抵のミュージシャンたちは、英語のリスニングは「お手のもの」のはずです。しかし、そのような話は寡聞にして知りません。
 聞き流しの効果があるのは、幼児期や小学生の早いうちまでの期間限定です。特に、幼児期は周囲にある(意味のあると脳が判断した)音の要素(音素)を聞き取り、統計的に音の並び方も学習する能力を持っています。この能力があるがゆえに、子どもたちは母語を習得できるのです。

 上ではカッコ付きで書きましたが、この能力を発揮させるためには「ひとつの条件」があります。それは、脳が「この言語は重要だ」と判断しなくてはならないのです。そうでなければ、単に右から左へと聞き流してしまいます。
 そうならないためには、一定量以上のインプットが必要となるのです。これが、「パルキッズ」が毎日90分のかけ流しを推奨する所以です。時々思い出したようにかけ流す程度では、脳が英語を学習してくれないのです。
 また、この能力、つまり脳が勝手に言語を分析する能力は、幼児期には活発に機能しますが、年齢が上がるとなかなか働かなくなります。したがって、年齢が高くなると SLA のようなイマージョン環境で英語漬けにならない限り、多少英語に触れる程度では、英語を身につけるための(音声・音韻)分析処理を、脳が始めてくれないのです。


多読

多読 音声問題を解決するためには、2つのやり方があります。ひとつ目は、幼児期に大量の音声を与えて脳に分析させることです。もうひとつは、すでに述べたように英語音声学(フォニックスなども含む)などで、正しい音を学ぶやり方です。
 アウトプットの仕方がわかると、リスニング能力も向上することがわかっていますので、このやり方は効果的です。留学生なども「勘」で発話しているうちは一向に発音レベルは向上しませんが、音声学を少し学べば、あっという間に英語の音は理解できてしまうのです。
 幼児期は、かけ流しで済みますが、幼児期を過ぎるとフォニックスや音声学、あるいは素読(「7-day English」)などが効果を発揮します。

 それに加えてもうひとつの問題、つまり読んでも聞いても、英語 “そのもの” を理解できない問題を解決する方法は、「上質な英語の大量のインプット」以外にありません。
 幼児期であれば、かけ流しで以上の2つの問題を一挙に解決できます。しかし、幼児期以降、例えば中学生から本格的に英語を大量にインプットしようとすると、聞き流しではどうにもならないのです。(かけ流しが有効な黄金期は幼児期なので、それを過ぎると SLA のような毎日10時間以上といったイマージョンが必要となる)
 しかし、耳から以外にもインプットの方法はあります。そう、多読です。多読は夏目漱石先生をはじめ、多くの “英語をものにした” 先人たちが、こぞって推奨する方法です。彼らは「正しい発音での音読」に関しては触れていませんが、すでに述べたように英語の正しい音を身につけた上で多読をすれば、それは良質の英語の大量インプットとなるのです。

 僕が留学を振り返って感じたことは、「結局アメリカに行っても多読をしたから英語が身についた」という点です。リスニングに関しては、それこそ毎日10時間も英語を聞いているわけです。友人との会話のパターンもたかが知れています。すると、英語の音声を(勘でざっくりと)聞き取れるようになります。音声を聞き取れるようになれば、お決まりのフレーズややりとりは3ヶ月も英語漬けになればマスターします。
 同時に大量の英文を「宿題」の形で読み散らかすことによって、それが多読となり、英語を英語のまま理解できるようになるのです。

 僕の場合には留学でしたが、以上のように何らかの形で「音の問題」と「英語自体の理解の問題」を解決すれば、日本に居ながらにして英語を身につける「純ジャパ」になれるのです。おそらく、ビデオや音声教材で英語の音声と文字の対応を学び、その知識でリスニングができるようになり、さらに多読や、あるいは身につけたリスニング力による十分な質と量のインプットがあり、彼らは英語を身につけていくのでしょう。


どのレベルを目指すか?

どのレベルを目指すか? ちなみに、皆さんは留学生と帰国子女の英語力の違いに気付けますでしょうか。あるいは、帰国子女とバイリンガルや英語ネイティブの英語力の差に関して何か気付いたことや、あるいは考えたことがおありでしょうか。
 言語学者でもない限り、そんなことは考えないでしょうし、彼らの英語力の違いに気付くことなど、ほぼないのではないでしょうか。もっとも ‘late L2 learner’ に該当する1年程度の留学生だと、ちょっと変だなぁとボロが出ることがあります。
 例えば、 ‘hotdog’ は米語では [hɑtdɔg] となり、最初と二番目の ‘o’ は異なる発音です。このような微妙な違いを「勘」でやってしまうので、違和感があったりします。また、’saw’ は本来 [sɔ] なのですが、’sow’ のように [soʊ] とやったりします。

 ところが、思春期以前に英語を身につけた ‘early L2 learner’ の帰国子女などは、このような間違いは起こしません。ただ、そんな彼らでも ‘finger’, ‘singer’ と言わせてみると、ボロが出ます。綴りだけをみると、それぞれ ‘inger’ の部分が共通していると思われますが、実は発音が違うのです。
 前者は [fɪŋɡɘr] で、後者は [sɪŋɘr] です。違いは、前者が [g] を発音しており、後者はそうでない点です。これに関しては文字で説明すると専門的になるので ipa reader などで検索してみてください。
 しかし、ネイティブやバイリンガルたちは、これを正しく発音します。帰国子女といえば、英語はペラペラで、ネイティブと変わりないんじゃないかと思ってしまいますが、そんな帰国子女でもネイティブには遠く及ばないのです。

 ところで、「パルキッズ」の卒業生数名を被験者として、とある実験を行ったことがあります。すると、当時、大学生と高校生だったその子たちは、帰国子女たちより、それどころか在日の外国人(英語ネイティブ)たちよりも、英語のリスニングにおいて高いスコアを叩き出してしまったのです。つまり、ネイティブやバイリンガルの人たち並み、あるいはそれ以上の英語の知覚力を持っていたのです。

 このように、一口に「まともな」英語の使い手といっても、さまざまなレベルがあります。

 さて、皆さんはお子様に「どのレベルの英語力」を身につけさせたいですか。一般には、国際結婚で子どもを授かりでもしない限り、’simultaneous bilingual’ は難しいですが、実験における「パルキッズ」卒業生たちのように、3歳までにスタートすれば ‘sequential bilingual’ にはなれそうです。
 仮に3歳を逃しても、正則英語の「パルキッズ」なら SLA を実践できます。現在お取り組み中のほとんどの方は、少なくとも ‘early L2 learner’ に相当することになります。つまり、帰国子女レベルですね。

 帰国子女レベルの英語力があれば、あとは「多読」を進めることで、B2レベル(CEFR)は軽々とクリアします。さらに知識を深め、日本語での思考力を高めれば、C1 に到達できます。バイリンガルなのに大半のモノリンガル日本人より高い国語力を持たせることができるのです。「外国語を知らない者は、母国語も知らない」とはゲーテの言葉。バイリンガルの方が、母語における国語力が高いのも当然のことでしょう。(もちろん、渡部氏を始め多くの識者が指摘するように、そうではないバイリンガルも…)
 留学なしでこのレベルに到達でき、留学の半分以下の投資、倍の効率の良さで「B2クリア」できるのですから、一般的な日本人の英語力を生み出す学習法に比べれば、実に百倍も投資効率が高いことになります。  これは「パルキッズ」に取り組む以外なさそうですね。


【編集後記】

今回の記事をご覧になった方におすすめの記事をご紹介いたします。ぜひ下記の記事も併せてご覧ください。
パルキッズで育つ子の英語力の本当のところ
英語教育 すすむ2つの二極化
幼児・小学生の英検受験に向けて
「ごっこ遊び」で伸ばす論理性
子どもの主体性を育てる

【注目書籍】『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)

特集イメージ9 児童英語研究所・所長、船津洋が書き下ろした『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)でご紹介しているパルキッズプログラムは、誕生してから30年、10万組の親子が実践し成果を出してきた「超効率」勉強法です。書籍でご紹介しているメソッドと教材で、私たちと一緒にお子様をバイリンガルに育てましょう。


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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

1965年生まれ。東京都出身。株式会社児童英語研究所・代表取締役。上智大学外国語学部英語学科卒業。実用英語技能検定1級取得。30年以上に渡る幼児教室・英語教室での教務を通じて幼児の発達研究に携わるかたわら、「パルキッズ」などの英語教材を始めとした幼児向け教材を多数開発。また、全国の幼児・児童を持つ親に対して9万件以上のバイリンガル教育指導を行う。講演にも定評があり、全国各地で英語教育メソッドを広めている。著書に20万部のベストセラーを記録した『たった80単語「読むだけで」英語脳になる本』(三笠書房)をはじめ『どんな子でもバイリンガルに育つ魔法のメソッド』(総合法令出版)『ローマ字で読むな!』(フォレスト出版)『英語の絶対音感トレーニング』(フォレスト出版)など多数ある。

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