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2021年6月号特集

Vol.279 | 家庭でできるイマージョン教育・学習とは

留学できないなら「純ジャパ」のように国内で身につけろ

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-2106/
船津洋『家庭でできるイマージョン教育・学習とは』(株式会社 児童英語研究所、2021年)

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限りなく広がる知識の世界

特集イメージ1 「文法と訳読。これが外国語学習の基本です」

 と言われれば、皆様、どう感じますか。
 「まぁ、確かにねぇ…」。外国語は日本語とは文の構造が違います。そこで、基本的な文法を知ることは、無論大切です。

 文法にはいろいろな項目があります。日本語と英語では語順も違えば、時制の表し方も異なります。数に無頓着な日本語の名詞や動詞に対して、英語は単複を区別しますし、主語を省いても良い日本語に対して、英語はそうはいきません。日本語は自動詞が受動になったりする “味” のある言語ですが、英語ではそれはできません。

 と、まぁ、文法学習はこのような基本的なところから始まり、どんどん複雑且つ例外的な内容になっていきます。

 文法に加えて、もうひとつやらなくてはいけないことがあります。英語を理解するには訳読の必要があり、訳読のためには英単語に対応する日本語訳を知る必要があります。日本語と英語で一対一で対応する具象的な名詞は問題も少ないのですが、動詞や前置詞(日本語では助詞)、副詞などは日・英間で大きく意味の範囲が異なるので、なかなか理解するのに骨が折れます。
 例えば、get, have, take, give, go, come, make… などなど使用頻度の高い基本的な動詞は、それぞれ「手に入れる、持っている、取る、与える、行く、来る、作る、、、」などの日英一対一の知識では、正しく訳読するにおいて役立たず、それ故にひとつの動詞に数十から百もの日本語訳が割り振られているわけです。

 しかも、ややこしいことに動詞は副詞と合わさってイディオムを作り、独特の意味合いを持ちます。また、コロケーションと呼ばれる動詞と名詞など、語同士の相性もあって、特定の名詞(例えば ‘crime, mistake, lie’ など)は特定の動詞(それぞれ ‘commit, make, tell’ など)と同時に現れる頻度が高かったりします。

 もうこうなってくると、覚えることが多すぎて、凡人のアタマでは処理しきれません。しかし、このような英語学習は、すべての日本人にとって、早くも小学校から始まり、中学・高校の間も英語から逃げ出すことはできません。さらに、大学へ進学する半分強の日本人は、大学へ入ってからも英語に苛まれます。また、より良い就職先、就職してからも昇級や転職など、より豊かな生活を求めようとすれば、30歳になっても、あるいは40歳になってもこの “英語地獄” から抜け出せないのです。


無間地獄に垂れる無数の「蜘蛛の糸」

特集イメージ2 そうです。日本人は気づけば英語の「無間地獄(仏教で言う最下層にある最も苦しい地獄)」の深みに足を踏み入れているのです。
 通常であれば、地獄に突き落とされるのは罪深い人たちです。しかし、実に迷惑なことに英語の無間地獄へと誘われるのは無実の人々。そんな人々は「システム」という罪深い存在によって流れ作業のように “自動的に” 、あるいは人によっては喜んで “積極的に” 次々とこの地獄へと歩を進めるのですから、何とも奇妙な世の中です。

 このように、気づけば地獄のまっただ中、何の罪もない私たちは、図らずも文法訳読の鬼たちに苦しめられる英語の無間地獄から抜け出すことのできない亡者となり果てているのかもしれません。

 そこから開放されるために、私たちには一体何ができるのでしょうか。

 その手段はただひとつ、英語を身につけてしまうことです
 しかも、なんとも都合の良いことに英語習得へ向けた「蜘蛛の糸」もそこにはきちんと用意されています。小説の中の蜘蛛の糸は一本しかありませんが、こちらの糸は無数にあります。

 近年、糸たちも個性豊かになっています。より多くの単語、より細かい文法、より多くのイディオムを「覚えようぜ!」といった古典的正統派から、「会話」「体験」「多聴」「多読」「イマージョン」あるいは「発音矯正」などなど多岐にわたります。最近では「アプリ」で手軽に取り組める糸もあります。
 しかし、結果は言うまでもありません。文法訳読の延長線の「文法書」「語彙・表現」などの前時代的な蜘蛛の糸は言うに及ばず、皆が群がる「楽に」「楽しく」登れそうな蜘蛛の糸も、はかなくも途中で「ぷつり」と切れてしまうのです。
 そして我々また奈落の底へと逆戻り。「これでダメなら次はコレ」と糸から糸へと渡り歩いても結果は同じ。ある人は「日本人には英語は不要」と開き直ったりしますが、実は心中「でも身につけたいなぁ」と願っていたりします。詰まるところ、この英語の「無間地獄」から抜け出せずに彷徨う者のなんと多いことでしょう。

 他方、「無間地獄」から抜け出す人々もいます

 私たちすべての凡人は、言葉(どんな外国語ですら)を身につける能力を「生得的(生まれつき)」に持っています。その能力は私たち1人1人の脳の中に、発揮されずに眠っています。英語を身につけるには、それを使えば良いだけのことです。
 幼児は1歳で日本語の聞き取り能力は身につけ、2歳になる頃には文法も大抵理解しています。また、留学生や帰国子女も半年から1年くらいで滞在先の言葉を身につけます。もちろん学生でなくても、海外に赴任してある程度以上の年数を過ごせば、大人でも現地の言葉を使えるようになります。大学生や院生も、専門性が高く最先端の研究をするのであれば、英語の論文を読まされ続け、そのうちに実用的な英語力は身につくのです。
 幼児が言葉の天才であることは直観的に受け入れられますが、幼児に限らず、中高生や大人ですら実用的な外国語を身につけることは、ごくごく日常的に実際に行われているのです。

 途中でぷつりと切れてしまう「蜘蛛の糸」がある一方で、人々を無間地獄から救う「蜘蛛の糸」がある。両者の違いとは一体なんでしょうか。


知識を増やすか、原理を身につけるか

特集イメージ3 様々な英語学習法は、2つの種類に分類出来ます。ひとつは「文法訳読」型の「知識を増やす学習法」で、もう一つの留学生・帰国子女が体験する「イマージョン型」の外国語習得法は「原理を身につける学習法」です。言うまでもなく、プツリと切れるのは前者の方で、後者が英語習得へと誘ってくれる糸です。

 少し抽象的な話になりますが、以下数パラグラフを、さっと読み流して下さい。

 言語学の世界では、基底形と表層形とか深層構造と表層構造などという専門用語が使われます。表層系とか表層構造というのは実際の発話に現れる言語のことです。私たちが日常的に話したり聞いたり、あるいは書いたり読んだりしている言葉(これを言語証拠と呼んだりもします)は全て表層系なり表層構造です。これは無限に存在します。
 そして、その表に出ている無数の言語証拠を分析したものを、文法として解説したり、あるいは例文などの事例として取り上げて意味を解説するのが従来の学習法です。この学習法は様々な方向から言語証拠を分析した知識を一つずつ覚えようとするやり方です。
 この伝で行くと、既に述べたように1万語とか10万語の暗記、さらには数千から数万のイディオムやコロケーションとともに文法を覚えるというとてつもない作業に足を踏み入れることになります。

 他方、表面的な構造ではなく元々の構造、基底形や深層構造の方に目を向けてみましょう。こちらは極めてシンプルで極めて限定的です。例えば英語であれば11個の母音と22個の子音、日本語は五つの母音と15の子音しかありません。無限とも言える語や語の組み合わせの知識である文法の大本は、たった数十個の音素なのです。

 また、その音素には並び方にはいくつかの規則があります。英語であれば子音連続や子音で終わることはOKですが、日本語は一部を除きそれらはNGです。それゆえ英語の ‘strike’ は日本語では ‘sutoraiku’ と子音毎、あるいは語末に母音を挟まないと発音すら出来ません。
 このように音素を並べて単語を作るのに規則があるように、単語から句を作るのにも規則があります。例えば「書か(ka)ない、書き(ki)ます、書く(ku)、書け(ke)ば、書こ(ko)う」と活用する動詞も依頼するとなるととたんに「書い(ki→i)て」と ‘k’ を落として所謂イ音便となります。

 表層に無限の存在として現れることばは、実は有限個の要素とこれまた有限個の規則から作られているのです。

 それら規則を私たちは「無意識の知識」として知っているのです。だから複雑な文法を覚えなくても日本語の動詞の活用を間違えたりはしないのです。この無意識の知識はなかなかに説明することが出来ません。なぜなら「無意識の知」ですから、日常的には意識に上ってこないし、その理屈も説明出来ない、言わば、自然界の「原理」のような、そんな「知」なのです。


片片たる知識の集積ではなく原理を身につける

特集イメージ3 日常生活に役立つような「使える英語」の習得には、片片たる知識の寄せ集めではなく原理の習得が重要です。

 前者は知識の記憶です。そして、そんな知識をいくら寄せ集めても、魂が吹き込まれなければそれは単なる張りぼてです。『パルキッズ通信2020年11月号』では算数になぞらえて、丸暗記ではなく原理の理解の重要性を述べましたが、単なる公式の寄せ集めは「試験のための数学」ではあっても「使える数学」ではありません。このあたりは、英語も数学と同じですね。

 幼児の言語発達を見ていると、まさに、この「原理の習得」がどんどんブラッシュアップされている印象があります。彼らは、日々インプットされる言語情報から「この語はこのシチュエーションではこう使う」などとひとつずつ記憶しているのではなく、語の価値(『パルキッズ通信2011年9月号』)や文の構造などの日本語の原理を、最初はところどころ間違えながらも、4歳になる頃にはほぼ大人と同じレベルへと育んでいくのです。
従来の英語教育が、表面に出ている言葉を分析した知識を覚えさせるのに比較すると、自然な言語習得の方は、言語を分析せずに、大量に与えることによって原理を習得させてしまう。脳の使い方が根本から違うのです。
 言い換えると、両者はまったくバイアスが逆なのです。
 前者では「少しずつ知識を積み上げる」ことに主眼が置かれる一方、インプットのほうは「大量に与えて限定的な原理に気づかせる」ことが徹底されます。

 振り返ってみれば、知識の学習の権化である「文法訳読」の方では、フォニックスなどと呼ばれる英語の根本を成す音素の学習にはあまり目をくれることがありません。つまり、基本的なことはすっ飛ばして、細かい知識ばかりに目が向いているのかも知れません。

 学習対象である英語の、そもそも根本を成す「音素の学習」すらしていないのですから、日本語とは異なる音素で構成される英語の聞き取りができないのは自明といえば自明です。「知識集積型」でありながら、基本中の基本の音素はなおざり。ここまで来ればあっぱれです。


今さら留学はムリ?でも大丈夫。目指せ「純ジャパ」

特集イメージ3 さて、「知識」の学習と「原理」の学習では、バイアスが反対と述べました。また「原理」の学習は、留学生や帰国子女、あるいは幼児たちの母語習得などの “イマージョン型” と相通ずることも述べました。

 しかし、イマージョンは総じて大変です。私たち大人はもはや「帰国子女」になることは絶望的ですし、すがる家族を振り払い「留学」することも現実的ではありません。ましてや、幼児期に戻って母語習得の時期に「『パルキッズ』を流してくれ」と父母に頼もうかと妄想することは、滑稽を通り越して悲哀です。
 我が子に至っても同様。幼児期であれば、『パルキッズ』のかけ流しからの「大量インプット」で「原理」の習得は可能です。しかし、小学生、中学生、あるいは高校生になってしまったらどうなのよ。手遅れなのか、と悔し涙に暮れる方も、ひょっとするといらっしゃるかも知れません。

 しかし、ですよ。ここに一筋の光明があることを忘れてはいけません。国内に居ながらにして可能なイマージョンもある。それで成功している例外的な存在がいるではありませんか。
 「知識」の学習をしながら、同時に「原理」を身につけていく強者、日本に居ながらにして英語を身につけてしまう、 “純ジャパ” と呼ばれる人たちの存在を忘れてはいけません。

 本当に、彼らには頭が下がるばかりです。帰国子女でもなければ留学経験もない。それでも英語を身につけてしまうのですから、あっぱれです。
 純ジャパは、学内でも成績優秀な傾向にあり、留学生が準1級しか持っていないのに、英検1級を持っていたりする。これには、留学生も形無しでしょう。

 現に “パルキッズたち” は海外経験もないのに、留学生と紛う、あるいは帰国子女以上の英語力を見せたりします。それはそうでしょう。小学生で英検準2級以上、中学生で2級以上、大学受験をする頃には準1級や1級を持っているわけです。余談ですが、みなさん『パルキッズ』をやっていて良かったですねぇ。

 それはさておき、それでは、英語を身につけた人たちに共通する学習バイアス、つまり国内で実践するイマージョン型学習法とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。彼らは英語の “無間地獄” から抜け出す蜘蛛の糸を上ったのですが、その蜘蛛の糸とはどんな性質のものなのでしょう。以下、見ていくことにしましょう。


インプットが成されていれば、実は何をしてもOK!

特集イメージ3 世の中様々ある学習法とは、実は異なることをしているようで、やっていることは似たり寄ったりです。英語コーパス(言語証拠)という大きなひとつの塊を分析するのですが、その分析の仕方が異なるだけです。それは、五文型を始めとしたいわゆる文法や、数多ある辞書、あるいはイディオム、あるいはコロケーション、あるいはフリクエンシー、あるいは役立つフレーズ集やとっさのひと言…などなどです。これらは、同じ対象を異なるやり方で切っているだけです。果物を様々な角度から切ると、切り口が違いますが、どんな風に切っても結局は同じものであることには変わりません。

 それでは、そのような分析結果を学ぶことに意味がないのかと言えば、まったくそんなことはありません。それぞれに意味があります。しかし、それによって「実用的な英語習得」が可能かというと、疑問符が付きます。
 実は「英語習得」の定義が曖昧なのです。例えば、「英語が話せるようになる」とは一体何を指すのでしょう。英語を聞き取れなくても話すことはできるわけですし、片言の英語でも話していることに変わりありません。消費者である我々は、そもそもどんな「ゴール」を求めていて、その目標に対して何が必要なのかを見極めてお金を払わなくてはいけません。


 

目標にあった学習方法を選ぶことが大切

特集イメージ3 学校英語の試験に始まり、高校受験、大学受験に、各種英語の民間資格試験、そんなものどもには役立つ知識もたくさんあります。また、ちょっと外国人と話をしてみたい人に、役立つフレーズの知識を積み上げていくのは、極めて幸せなことです。英語の雑学を知りたい人もいるでしょう。

 しかし、ここは『パルキッズ通信』。あくまでも本誌で言うところの「英語習得」とは、試験や趣味のための英語ではなく、あくまでも「実用的な英語の習得」を視野に入れてのお話ですので、その前提で話を進めることにします。

 さて、それでは、実用的な英語力を身につけるための学習法を見抜くその審美眼をどのようにゲットしたものか。あるいは、どのように育てるのか。などという面倒なことはここでは省いてしまいましょう。
 実は、一本の「補助線」を引くことで、ありとあらゆる英語学習法は、実用的な英語習得を目指せるものと、そうでないものにスパッと二分されるのです。その「補助線」をお伝えします。

 賢明な読者の皆様なら、もうお分かりですよね。

 そうです。補助線は「質量共に満足なインプットが行われうるか」です。その補助線でもって、取捨選択すれば良いのです。この質量共に満足なインプットに関しては、『パルキッズ通信2021年1月号』に詳しいのでそちらをご覧いただくとして、その補助線、つまりインプットの質と量を基準にしてみると、実用的な英語習得法、切れない「蜘蛛の糸」がクッキリと見えてきます。


目指せ!「純ジャパ」

特集イメージ3 幼児の母語習得は言うまでもなく、帰国子女や留学生たちも、質量共に満足なインプットが行われた結果、英語を身につけます。余談ですが、留学生にもいろいろあります。「語学留学」の場合、日本人の集団が形成されがちで、結果として量的に満足なインプットに至らない(=英語が身につかない)ケースが珍しくありません。この点、交換留学生の場合にはそのような心配はありません。留学なら何でも良いというわけでは無いわけです。

 それでは、「純ジャパ」はどうしているのでしょうか。彼らはおそらく、邦楽よりは洋楽、日本のドラマよりは海外ドラマを好むことでしょう。すると短絡的に、洋楽を聴いて洋画を見れば良いのかと考えてしまいがちです。
 しかし、人一倍洋楽を聴いているはずのミュージシャンや、それこそ洋画を見ることを仕事にしている評論家たちが、彼らの仕事を通してバイリンガルになってしまった、などという話は寡聞にして存じません。
 「純ジャパ」を育て上げる環境は、どうやら洋楽や洋画ではないようです。

 では、彼らはどのようにして十分なインプットを成し遂げているのでしょうか。
 答えは単純です。彼らは人一倍、英語を勉強しています。教科書を読んでいる。おそらく、教科書に留まらず参考書や関連の書籍も読んでいるでしょう。辞書の例文なども、彼らの好物かも知れません。あるいは海外のニュースや英字新聞を読む人も少なくありません。

 そうなのです。彼らは人一倍たくさん、英文を読んでいるのです。そして、それが質量共に十分なインプットとなり、実用的な英語力を身につけるに至るのです。

 幼児期を逃してしまうと、耳からの英語のインプットによる英語習得は困難ですが、その代わりに彼らは、目からの英語習得を実践しているのです。
 さらに、そんな彼らの多くは、発音にも無頓着ではないでしょう。辞書の音声記号を参考に、あるいは実際の英語を聞いてみて、正しい英語の発音を身につけています。これは、すでに触れたところの英語の大本である「音素」の習得に繋がります。結果として、実用的な英語力の習得に不可欠な「要素と規則」を身につけるのです。「知識」の積み上げをしているうちに、おそらく本人たちも知らず知らずのうちに多読を通した大量インプットをしていて、結果として「原理」の習得に至るのでしょう。


アウトプットもインプットのうち

特集イメージ3 さて、ここでアウトプットに関しても、「補助線」を引いておくことにしましょう。

 世の中、英語の「アウトプット」の重要性の大合唱です。「メチャクチャでも良い、間違いを恐れず、発音なども気にせず、どんどん喋れば英語は身につく!」と言われて、そうか!と分断されていた英語との「絆」を取り戻す「希望」や「夢」を与えられ、そんなことばから「勇気」をもらって英語を話す。何ともロマンチックではありませんか。

 確かに、何も発信しないよりはマシかも知れません。しかし、それが発信のための発信であれば、単なる自己満足というものです。新国立競技場のお披露目で話題になった ’Hello, our stadium!’ などは可愛いものですが、同じく’the moon ultra parking is being recruited.’ に至っては意味不明で実用的からほど遠い。しかも、これが税金を使って行われるのですから、ロマンチックな大迷惑です。  このように、自己満足は主観的な指標ですので「実用的な英語」という客観的な指標とは次元が異なります。賢明な読者の皆様におかれましては、そのような自己満には陥らないと密かに信じております。

 さて、ロマンチックはナイーブとも相性が良いのでしょう。なぜ上記のような、とんでもない英文が生まれてしまうのか。これはナイーブが勇気を振り絞ってアウトプットすると、ロマンチックに見えるということなのかも知れません。
 このあたりが、文法訳読の本質的な限界です。文法をいくら覚えても、難しい語をいくら覚えても、さらに和英辞書を使ってみても、日本語発想の文をパズルのように組み合わせて、英語に置き換えてみても、上記のような非文(母語話者が「これはおかしいだろう」とする文)ができ上がってしまい “がち” なのです。

 これに関して、小話を挟んでおくことにしましょう。日本がロシアとの戦争に勝った決め手となったのは、1905年の「日本海海戦」であることは言うまでもありません。砲弾飛び交うその最中、三笠の艦橋でたじろぎもせず指揮を執ったといわれる東郷大将のひと言で産み落とされたのが「肉じゃが」という説があります。
 彼が留学時代に食べた「ビーフシチュー」を、日本でも口にしたいと、料理長に作らせるわけですが、「牛肉、たまねぎ、人参、ジャガイモから作られている甘くておいしい煮物(←この表現は創作半分です)」との彼の指示からでき上がったものが「肉じゃが」だったわけです。

 共通する材料もありますが、調味料や出汁が決定的に違うわけです。フォンドボーがなければビーフシチューにはならない。
 カレーもそうでしょう。コリアンダーにターメリック、カイエンペパー、クローブ、シナモン、カルダモンがなくては、醤油や味噌、酒、砂糖、塩、味醂、植物性や動物性の出汁、またはコショウや山椒、辛子やわさびをどれだけ工夫して組み合わせてみても、カレーにはならない。
 ひょっとすると小麦粉たっぷりの日本のカレーは、本場の人にとっては「非文」が如く「なんだこのおいしい食べ物は!」と感じられるものかも知れないわけです。カレーに関しては『パルキッズ通信2020年10月号』、同じく『パルキッズ通信2020年3月号』参照。

 余談が過ぎましたが、つまり「インプットのないアウトプットは自己満足」に過ぎず、あるいは「他人迷惑」の危険性すら孕んでいるのです。
 他方、「純ジャパ」たちが知ってか知らずか実践している「インプットを伴うアウトプットは効果絶大」です。


アウトプットの前にインプット

特集イメージ3 文法訳読型の英語学習から得られる英語の知覚力は「知らないものの中に、知っているものを探す」方式です。ところどころ聞き取れた英単語、あるいは意味の分かる英単語を組み合わせて “ワンチャン(←もはや死語かもしれませんが、ピッタリの表現なので敢えて使います)” 「こんな意味じゃない?」とするのが落ちです。
 圧倒的にインプットが足りないので、英語の本質、あるいは「原理」にまったく迫れていません。しかし、インプットが満ちてくるとあることが起こります。あることとは、「この言い回し、聞いたことがある」「この表現、以前にも読んだ」と感じることです。
 ここから、「正確な意味は分からない」けど「なんとなくわかる」ようになります。日本語の例を挙げると「犯罪に手を染める」や「雨脚が速い」といったコロケーション、天気・気候に関する句では「雨模様、風薫る季節、寒さが緩む」などなどです。
 これらを「何となく分かる」ようになることが大切です。お天気表現集、共起表現集などで敢えて勉強するまでもなく、日常的にたくさんの文章表現に触れること、つまり「インプット」によってこれらは極々自然に習得されるのです。
 もちろん、これらの表現を自らの文章で使えるようになるのはステキなことですが、それよりもなによりも、まずは理解できるようになることが先でしょう。つまり、アウトプット(産出)できるようになる前に、インプット(知覚)できるようになるのが自然なのです。


「大前提のインプット」に「+αのアウトプット」が効果絶大

特集イメージ3 ここでひとつ、整理しておかなければならない概念があります。「イマージョン」です。ここから数パラグラフも退屈な話なのでサラッと読み流してください。

 「イマージョン」教育はカナダで提唱されて、現在では米国などでも広く実践されています。また”CBI : Content-Based Instruction、内容重視型教授法” や “CLIL : Content and Language Integrated Learning、内容言語統合型学習、クリル” などもある意味イマージョンの側面を持っています。
 イマージョンは、ターゲット言語に学習者を浸すことで、教科や文化に主眼を置きつつ、そして当然のことながら対象言語を身につけることをゴールとしています。学童期に行われるのが最も自然ですが、交換留学生などある程度の年齢になってから結果としてイマージョン教育を受けても効果的です。
 これに対して、CBI は文化や教科よりもターゲット言語の習得に主眼を置いています。ネイティブと同時に非ネイティブの教員が指導に当たります。CLIL はその名の通り、内容(文化や教科などなど)と言語を統合して学ぶ方法です。非ネイティブの指導者が当たり前のような世界です。

 イマージョンには、完全イマージョンと部分イマージョンがあります。完全イマージョンは、すべての教科がターゲット言語で行われます。この点において帰国子女や留学生も完全イマージョン教育です。しかし、帰国子女は家に帰れば日本語で会話するのに対して、交換留学生の場合にはもっと熾烈なターゲット言語環境に置かれている点に着目です。
おそらこの環境差が、留学生の方が概して帰国子女よりも短い期間でターゲット言語を身につけることに現れているのかとも思われます。  CLIL はさらに緩く、特定のアクティビティのみが英語で行われるわけですので、部分イマージョンとなります。

 さて、それでは国内でイマージョンを行うとしたら? CLIL はイマージョンに組み入れるとすると、部分イマージョンになります。さらに数学、理科、社会などの教科を直接教えるのではなく、どちらかというと時事、社会学や文化などに関する検証を行う取り組みですので、この点、イマージョンの定義から若干逸脱するように思えますが、まぁ、広義のイマージョンの一種と考えて差し支えないでしょう。

 それでも、学校や指導者などの場や人が必要になります。これでは家庭でできません。

 しかし、何やら学術的な名前のマントを纏った学習法でなくても、ですよ、家庭でも英語漬けになる方法がありませんか。

 そうです。言うまでもなく、読書です。

 読書も「訳読」しているうちは、イマージョンにはなりません。しかし、ひたすら文字記号を音声記号に変換する「素読」や、日本語訳が浮かぶ暇もなく読み続ける「多読」はイマージョンと呼んで良いと思います。
 イマージョンのゴールである、教科・文化・目標言語・母語のトータルな習得を当てはめると、多読はイマージョンの定義をほぼ満たしていることが分かります。
 ひとつに目標言語である英語の習得に有用であることは言うに及ばず、母語での教育と平行して行われるので、母語の力も向上にも資します。さらに、「言語」それ自体に文化的背景が含まれるので、文化も学べます。教科に関しては自然科学の修得にはなり得ないかも知れませんが、間違いなく人文科学の学習には役立ちます。

 つまり、「訳読」の域を脱すれば、英文多読はイマージョンとなり得るのです。

 多読よりずっと前の段階で、幼児期から『パルキッズ』をかけ流すことも、母語の成長に好影響を与えつつ、ターゲット言語(英語)を習得し、文化も身につけさせるので部分イマージョンと呼べます。
 このように、幼児期には「かけ流し」から、文字を読めるように育てたあとは「多読」によって、根気よく英語のインプットを続けていくことで、海外赴任しなくても、留学しなくても、CLIL の授業を受けることもなく、ご家庭で英語を身につけることができるのです。

 他方、幼児期を逃してしまったら、「多読」によってイマージョンを実践すれば、”純ジャパ” に成れる可能性は大なのです。


 さて、今回は「無間地獄」から「ビーフシチューと肉じゃが」の話、そして「家庭でできるイマージョン」と1万語に渡りとりとめもなく書いて参りました。とどの詰まるところ、「英語の無間地獄から抜け出すには、英語の原理(ビーフシチューの材料)を知ることが重要であり、そのためには家庭でできるイマージョン教育である幼児期のかけ流し、あるいは、読解力育成後の多読が重要である」というたった一文にまとめることができます。そして、とある英語学習法が有効であるのか、あるいはイマージョンになり得るのかの判断は「質量共に満足なインプットが可能であるか」という一本の補助線を引くことで見えてくるのです。
 いろいろ誘惑もあるでしょうし迷いもあるでしょうけれども、本質は「インプットにある」ことをお忘れなく。




【編集後記】

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【注目書籍】『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)

特集イメージ9 児童英語研究所・所長、船津洋が書き下ろした『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)でご紹介しているパルキッズプログラムは、誕生してから30年、10万組の親子が実践し成果を出してきた「超効率」勉強法です。書籍でご紹介しているメソッドと教材で、私たちと一緒にお子様をバイリンガルに育てましょう。


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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

1965年生まれ。東京都出身。株式会社児童英語研究所・代表取締役。上智大学外国語学部英語学科卒業。実用英語技能検定1級取得。30年以上に渡る幼児教室・英語教室での教務を通じて幼児の発達研究に携わるかたわら、「パルキッズ」などの英語教材を始めとした幼児向け教材を多数開発。また、全国の幼児・児童を持つ親に対して9万件以上のバイリンガル教育指導を行う。講演にも定評があり、全国各地で英語教育メソッドを広めている。著書に20万部のベストセラーを記録した『たった80単語「読むだけで」英語脳になる本』(三笠書房)をはじめ『どんな子でもバイリンガルに育つ魔法のメソッド』(総合法令出版)『ローマ字で読むな!』(フォレスト出版)『英語の絶対音感トレーニング』(フォレスト出版)など多数ある。

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