うちの子は視覚タイプだから、動画のほうが学習効果が高いのでは?
「うちの子は耳で聞くより、見て覚えるタイプです。英語の音声だけを流すより、動画を見せた方が学習効果が高いのではないでしょうか。」
動画を好むことと、動画で英語を学びやすいことは同じではありません
このような疑問を持たれる保護者の方は、少なくありません。
現在は、英語の動画を簡単に見つけられます。英語の歌、アニメ、絵本の読み聞かせ、ネイティブの子ども向け番組、知育動画など、選択肢は数え切れないほどあります。
しかも、多くの子どもは動画を夢中になって見ます。
保護者から見ると、音声だけのかけ流しよりも、画面をじっと見つめている動画の方が、子どもが集中して学んでいるように感じられるでしょう。
しかし、子どもが動画を見ることを好むからといって、「視覚タイプなので、音声より動画の方が英語を身につけやすい」とは限りません。
「英語を学習していること」は、それぞれ別のものです。
「視覚タイプに映像を見せると伸びる」とは限りません
子どもによって、「絵を見ることが好き」「音楽を聞くことが好き」「体を動かしながら覚えることが好き」といった好みの違いはあります。
そのような好みを把握することは、子どもが楽しく取り組める活動を考えるうえで役立ちます。
ただし、「視覚タイプ」「聴覚タイプ」「体感覚タイプ」のように学習者を分類し、その分類に合わせた方法で教えると学習成果が高くなるという考え方には、十分な科学的根拠が確認されていません。
Pashlerら(2008)は、学習者の好む提示形式と指導方法を一致させることで成績が高まるという、いわゆる「Meshing Hypothesis」を検討しました。
この考え方を支持するには、例えば、視覚的な学習を好む人は視覚教材で成績が上がり、聴覚的な学習を好む人は音声教材で成績が上がるという交差した結果が必要です。
しかし、Pashlerらは、その条件を満たして学習スタイルに合わせた指導の有効性を示す研究は乏しく、教育現場で広く採用するための十分な証拠はないと結論づけています。
| 考え方 | 意味 | 教材選びへの使い方 |
|---|---|---|
| 学習上の好み | 絵を見る、音楽を聞く、体を動かすなど、本人が好む活動 | 楽しく継続するための工夫として参考にできる |
| 学習スタイル適合理論 | 好みに合う形式で教えると、学習成果そのものが高くなるという考え方 | 教育方法を決定する科学的根拠としては慎重に扱う必要がある |
| 学習内容に適した方法 | 身につける内容に応じて、音声、文字、図、実演などを使い分ける考え方 | 英語の聞き取りには音声、文字理解には文字というように目的から選ぶ |
「視覚タイプ」という言葉を子どもの好みを表すために使うことはできます。
しかし、その分類だけを理由に、英語音声を減らして動画中心の学習へ切り替えることはおすすめできません。
動画へ集中するのは、英語だけが理由ではありません
動画を見ている子どもは、画面へ強い注意を向けます。
しかし、その注意が英語の音声や表現へ向けられているとは限りません。
人間の視覚は、突然現れるものや、動き始めるものに注意を引かれやすい性質を持っています。
YantisとJonides(1984)は、突然出現する視覚刺激が選択的注意に与える影響を示しました。
また、AbramsとChrist(2003)は、静止していた物体が動き始める「動きの開始」が、注意を引きつけることを報告しています。
動画には、こうした注意を引く要素が数多く含まれています。
- キャラクターが大きく動く
- 画面が短時間で切り替わる
- 鮮やかな色や強いコントラストが使われる
- 突然、効果音や音楽が鳴る
- 物や文字が画面に飛び込んでくる
- 登場人物が転んだり、追いかけ合ったりする
子どもが動画をじっと見ていると、保護者は「英語に興味を持っている」「英語を集中して聞いている」と感じるかもしれません。
しかし実際には、英語のセリフだけでなく、画面の動き、キャラクターの表情、色彩、音楽、効果音、場面転換などへ注意が向いている可能性があります。
笑っているから、英語を理解しているとは限りません
例えば、子どもが英語のアニメを見て笑っていたとします。
保護者は、「英語のセリフが分かったのかな」と思うかもしれません。
しかし、子どもは会話の内容ではなく、キャラクターが転ぶ場面、表情の変化、コミカルな動き、音楽や効果音に反応していることもあります。
「トムとジェリー」や「ひつじのショーン」のように、言葉が少なくても動きや表情だけで内容を楽しめる作品があることを考えると、画面を楽しんでいることと、英語を理解していることを分けて考えやすいでしょう。
もちろん、英語動画を見て笑っているすべての子どもが、英語を理解していないという意味ではありません。
すでに英語の音や表現が分かる子どもであれば、セリフと映像の両方から内容を理解している可能性があります。
大切なのは、画面への集中だけを、英語理解の証拠にしないことです。
動画の理解度を確かめるときの見方
映像を消して音声だけを聞いたときにも反応するか、別の場面で同じ英語表現を理解できるか、絵本やオンラインレッスンでも同じ語句を認識できるかを見ると、映像そのものへの反応と英語理解を区別しやすくなります。
動画の理解度を確かめるときの見方
映像を消して音声だけを聞いたときにも反応するか、別の場面で同じ英語表現を理解できるか、絵本やオンラインレッスンでも同じ語句を認識できるかを見ると、映像そのものへの反応と英語理解を区別しやすくなります。
映像は、使い方によって英語理解を助けます
映像そのものが英語学習に悪いわけではありません。
英語の音をある程度捉えられ、語や表現が少しずつ理解できるようになった段階では、映像は意味理解を助ける重要な手がかりになります。
例えば、人物がコップを持ちながら「Drink some water.」と言えば、子どもは音声と動作を結び付けやすくなります。
絵本の挿絵、人物の表情、物の形、場面、動作なども、聞こえた英語の意味を推測する助けになります。
Mayer(2009)のマルチメディア学習の考え方でも、言葉と関連する絵や映像を適切に組み合わせることで、理解を助けられるとされています。
ただし、映像と音声を一緒に提示すれば、どのような教材でも自動的に学習効果が高くなるわけではありません。
学習に必要のない映像、装飾、効果音などが多すぎると、重要な情報へ注意を向けにくくなり、処理の負担が増えることがあります。
| 映像の特徴 | 英語理解を助けやすい例 | 注意をそらしやすい例 |
|---|---|---|
| 音声との関係 | 発話内容と絵や動作が対応している | 英語と無関係な動きが続く |
| 場面転換 | 意味を追える落ち着いた進行 | 短時間で次々に画面が切り替わる |
| 効果音・音楽 | 英語を邪魔しない音量と頻度 | 英語音声を覆うほど大きく頻繁 |
| 繰り返し | 同じ語や表現を場面とともに反復する | 新しい刺激が次々と提示される |
| 視聴の目的 | 特定の英語表現を意味と結び付ける | 長時間、受け身で見続ける |
英語を聞き取るには、音声情報を処理する必要があります
英語は、文字としてだけでなく、音声によって使われる言語です。
英語を聞き取るには、英語に含まれる母音や子音、音のつながり、強勢、リズム、イントネーション、語の切れ目などを処理する必要があります。
動画を見て内容を推測できても、英語音声そのものを処理する経験が不足していれば、映像のない会話や音声だけの読み聞かせでは理解できないことがあります。
そのため、英語の音を英語として聞き取る土台を育てる段階では、映像だけに頼らず、安定した英語音声へ継続的に触れることが大切です。
英語音声そのものを処理する経験が必要です。
「視覚か聴覚か」ではなく、役割を分けて組み合わせます
おうち英語では、「視覚情報を使うか、音声を使うか」の二者択一で考える必要はありません。
音声、絵、文字、映像には、それぞれ異なる役割があります。
- かけ流しで英語の音やリズムに繰り返し触れる
- オンラインレッスンで音声と絵や場面を結び付ける
- 絵本で音声と物語、挿絵を結び付ける
- 文字学習で聞いてきた音声と綴りを結び付ける
- 動画で人物の動作や状況と英語表現を結び付ける
動画は、音声入力の代わりではなく補助として使います
英語動画を禁止する必要はありません。
動画を楽しむことは、英語への興味を広げたり、英語が使われる場面を知ったりするきっかけになります。
ただし、動画を見ている時間を、そのまま英語音声を学習した時間と考えないことが大切です。
映像の助けがなくても英語を聞き取れる耳を育てるためには、音声だけに触れる時間も必要です。
そのうえで、内容と関連する絵や映像を使い、聞いてきた英語を意味へ結び付けます。
動画を使う場合は、次のような点を意識するとよいでしょう。
- 英語音声と映像の内容が対応しているものを選ぶ
- 場面転換や効果音が過度に多い動画を避ける
- 自動再生に任せて長時間見続けない
- 同じ動画や表現を繰り返し活用する
- 動画以外にも、音声、絵本、文字へ広げる
- 映像がなくても同じ英語を理解できるか見守る
結論:視覚タイプと決めつけず、音声を土台に映像を活用しましょう
子どもが動画を好んで見ることはあります。しかし、その好みだけを理由に、「視覚タイプだから動画中心の方が英語を身につけやすい」と判断することはできません。
動画には、動き、色、表情、効果音、場面転換など、英語以外にも注意を引きつける要素が数多く含まれています。
そのため、画面へ集中していることと、英語音声を聞き取り、理解していることを分けて考える必要があります。
一方で、映像は英語の意味を理解するための優れた手がかりにもなります。英語音声と絵や動作が適切に対応していれば、聞こえた表現を場面や意味へ結び付けやすくなります。
おうち英語では、まず安定した英語音声によって、英語の音とリズムを受け入れる土台を育てます。その後、オンラインレッスン、絵本、文字、動画などを使って、音声を意味や文字へ結び付けていきます。
「視覚か聴覚か」のどちらか一方を選ぶのではありません。英語音声を土台にしながら、視覚情報を理解の手がかりとして適切に組み合わせることが大切です。
REFERENCES
- Abrams, R. A., & Christ, S. E. (2003). Motion onset captures attention. Psychological Science, 14(5), 427–432. DOI
- Mayer, R. E. (2009). Multimedia Learning (2nd ed.). Cambridge University Press. DOI
- Pashler, H., McDaniel, M., Rohrer, D., & Bjork, R. (2008). Learning styles: Concepts and evidence. Psychological Science in the Public Interest, 9(3), 105–119. DOI
- Yantis, S., & Jonides, J. (1984). Abrupt visual onsets and selective attention: Evidence from visual search. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 10(5), 601–621. DOI
