会話練習をすれば英語が身につくのではないですか?
「どうせ英語を学ぶなら、話せるようになってほしい。」
会話練習は大切です。ただし、練習した会話と自由な会話は同じではありません
これは、保護者の方なら誰もが願うことではないでしょうか。
英会話教室へ通う。先生と英語でやり取りをする。自己紹介や質問への受け答えを練習する。
子どもが英語の質問に答えている姿を見ると、「英語が身についている」と感じるのも自然なことです。
実際、会話練習には意味があります。よく使われる表現を覚え、英語を声に出し、相手とやり取りする経験を得られるからです。
ただし、練習した定型的なやり取りができることと、相手の発言に応じて自由に会話を続けられることは、同じではありません。
相手の英語を理解して会話を広げられることは別の力です。
定型会話は、練習すれば使えるようになります
名前、年齢、好きな食べ物、趣味など、あらかじめ質問と答えが決まっている会話は、繰り返し練習することで身につけられます。
例えば、次のようなやり取りです。
- 「What's your name?」に名前を答える
- 「How old are you?」に年齢を答える
- 「What color do you like?」に好きな色を答える
- 「What do you want?」に注文したいものを答える
- ホテルや空港で、想定された質問に答える
このような表現は、実際の旅行や初対面の場面でも役立ちます。
短い会話を成功させる経験は、子どもの自信や英語を使おうとする気持ちにもつながります。
したがって、定型会話を覚えること自体が無意味なのではありません。
問題は、覚えた会話を使えることだけで、「自由に英語を話せるようになった」と判断してしまうことです。
本当の会話は、準備した答えの先へ進みます
実際の会話では、相手は用意された台本どおりに話してくれるとは限りません。
こちらの答えを聞いて、さらに質問したり、自分の経験を話したり、別の話題へ移ったりします。
例えば、「週末は何をしたの?」と聞かれて、「釣りに行った」と答えたとします。
定型練習であれば、そこで会話は終わるかもしれません。
しかし、自然な会話では、次のように話が広がります。
- 何が釣れたのか
- 誰と一緒に行ったのか
- どこで釣ったのか
- どのような餌を使ったのか
- 釣った魚をどうしたのか
- 次も行きたいと思っているのか
| 会話の種類 | 必要になる力 | できること |
|---|---|---|
| 定型会話 | 決まった質問を認識し、覚えた答えを再生する | 自己紹介、注文、あいさつなど、想定した場面に対応する |
| 半定型の会話 | 覚えた文型へ語を入れ替え、簡単な追加質問に答える | 身近な話題について、短いやり取りを続ける |
| 自由会話 | 未知の発話を理解し、内容を考え、英語を即時に組み立てる | 予想外の質問や話題の展開に応じて会話を広げる |
こうした会話を続けるには、相手の英語を聞き取り、質問の意図を理解し、自分が伝えたい内容を考え、それを英語の文へ組み立てる必要があります。
暗記した会話は通じても、その後が聞き取れないことがあります
『Speak Up Hawaii』の読者から寄せられた体験
以前、私は一般的な一週間のハワイ旅行を想定し、機内、入国審査、ホテル、レストラン、買い物などで使う会話を収録した『Speak Up Hawaii』という本を出版しました。
その会話文を暗記し、発音も繰り返し練習してから旅行へ出かけた読者の方がいました。
入国審査、ホテルでのチェックイン、レストランでの注文など、想定していた場面では問題なく英語を使えたそうです。
ところが、あるレストランで注文を終えた後、ウェイターが雑談を交えながら次々と話しかけてきました。
その瞬間、相手の英語をほとんど聞き取れず、会話を続けられなくなったといいます。
この事例は、暗記した英語が役に立たなかったという話ではありません。
覚えた表現によって、旅行中に必要な用件を処理できています。
一方で、台本から外れた会話を続けるには、覚えた表現を再生する力だけでは足りなかったということです。
自由会話では、相手が何を言うかを事前に決められません。
だからこそ、さまざまな英語を聞いて理解する力と、その場で自分の英語を組み立てる力が必要になります。
会話は、相手の発話を理解することから始まります
会話は、話し手が一方的に英語を言う活動ではありません。
相手の発話を聞き、その意味や意図を理解し、それに合った内容を返す相互的な活動です。
相手が何を尋ねているのか分からなければ、適切な答えを選ぶことはできません。
また、単語だけを部分的に聞き取れても、質問なのか、依頼なのか、冗談なのかを捉えられなければ、自然に反応することは難しくなります。
自由会話で行われる処理
Levelt(1989)は、発話産出を、伝える内容を作る概念化、語彙や文法を選ぶ形式化、音声として発する調音などの過程に分けて説明しました。
Leveltのモデルは主に一人の話者が発話を作る過程を扱うものであり、会話全体の理解過程を直接説明するモデルではありません。
それでも、相手の発話を理解した後、自分が伝える内容を考え、それを英語の形へ変換し、発音するという複数の処理が必要であることは、自由会話の難しさを考える手がかりになります。
聞いて理解し、その内容に応じて英語を作る力です。
音声知覚は、会話を成立させる重要な土台です
相手の英語を理解するためには、まず連続して流れてくる英語音声を、語や表現のまとまりとして捉える必要があります。
英語には、日本語とは異なる母音や子音、強勢、リズム、イントネーション、音の連結や弱化があります。
英単語を文字では知っていても、自然な速度で発音された英語の中から、その単語を聞き取れるとは限りません。
英語の音を英語の音声体系に沿って捉え、語の切れ目や音のまとまりを認識できるようになる過程を、ここでは「音声知覚形成」と呼んでいます。
Kuhl(2004)は、乳幼児が周囲の音声入力に含まれる音の分布や社会的な手がかりを利用しながら、母語に適した音声カテゴリーを形成していく過程を論じています。
第二言語の音声習得についても、Flege(1995)のSpeech Learning Modelや、BestとTyler(2007)のPAM-L2では、第二言語の音が母語の音へどのように対応づけられるかが、音の区別や発音習得に関係すると考えられています。
つまり、英語を話すための土台には、目標となる英語音声を聞き分け、自分の中に安定した音の表現を作る経験があるのです。
聞き取りの訓練が、発音にも影響することがあります
音声を聞き分ける力と発音する力は、まったく独立しているわけではありません。
Bradlowら(1997)は、日本語母語の成人学習者を対象に、複数の話者が発音する英語の /r/ と /l/ を識別する高変異音声知覚訓練を行いました。
訓練後、参加者は /r/ と /l/ の聞き分けだけでなく、これらを含む英単語の発音にも改善を示しました。
これは、聞き取りの学習によって目標音の捉え方が変化し、その変化が発音にも反映され得ることを示す研究の一つです。
聞くだけで、会話や発音がすべて完成するわけではありません
英語音声を聞き取れることは重要な土台ですが、実際に話すためには、語彙や文法を取り出し、内容を英語で組み立て、口や舌を動かして発音する経験が必要です。
音声入力と発話練習のどちらか一方を選ぶのではなく、理解できる英語を増やしたうえで、話す経験へつなげることが大切です。
聞くだけで、会話や発音がすべて完成するわけではありません
英語音声を聞き取れることは重要な土台ですが、実際に話すためには、語彙や文法を取り出し、内容を英語で組み立て、口や舌を動かして発音する経験が必要です。
音声入力と発話練習のどちらか一方を選ぶのではなく、理解できる英語を増やしたうえで、話す経験へつなげることが大切です。
言語習得では、理解できるインプットが重要です
Krashen(1985)のInput Hypothesisでは、学習者が現在の能力より少し高い内容を、意味を理解しながら受け取ることが、言語習得を進める重要な条件であると考えられています。
ここで重要なのは、英語が耳に入ることだけではなく、音声や文脈、場面などを通して、伝えられている意味へ接近できることです。
知らない英語をただ復唱するだけでは、表面的な音の模倣にとどまることがあります。
一方、意味を理解できる英語へ繰り返し触れれば、語や文法がどのような場面で使われるかを学べます。
パルキッズでは、かけ流しによって英語音声へ継続的に触れ、オンラインレッスン、絵、場面、絵本、文字などを通して、聞いてきた英語を意味へ結び付けます。
インタラクションは、理解のずれを調整する機会になります
Long(1996)のInteraction Hypothesisは、単に相手と会話すれば自動的に言語が身につくという考え方ではありません。
会話の中で分からない部分を聞き返す、相手が言い換える、確認する、理解できる形へ調整するといった「意味交渉」が、学習者にとって入力を理解しやすくし、言語形式へ注意を向ける機会になると考えます。
例えば、相手の英語が分からなかったときに、次のようなやり取りが生まれます。
- 「Pardon?」と聞き返す
- 相手が、より簡単な表現へ言い換える
- 聞き取った内容が正しいか確認する
- 身振りや具体物を使って意味を確かめる
- 自分の言い方が通じず、別の表現へ言い換える
このような相互作用には、大きな学習効果があります。
ただし、意味交渉へ参加するには、相手の発話をある程度聞き取り、何が分からなかったのかを認識できる土台が必要です。
だからこそ、インプットとインタラクションは対立するものではありません。
理解できる英語を増やし、その英語を実際のやり取りの中で使い、理解できない部分を調整することで、会話力が育っていきます。
会話練習だけでは、使える英語が限定されることがあります
十分な語彙や理解力が育っていない段階で、質問と答えの練習だけを続けると、使える英語が練習した表現に限定される場合があります。
例えば、「What fruit do you like?」には答えられても、「Why do you like it?」「When did you eat it last?」と聞かれると答えられないことがあります。
これは、最初の答えが無意味だったからではありません。
覚えた質問と答えの範囲を越えるための語彙、聞き取り、文構成の力が、まだ十分に育っていないためです。
| 学習内容 | 育てやすい力 | 別に必要になる力 |
|---|---|---|
| 定型会話の暗唱 | よく使う表現、発音、自信、場面への対応 | 未知の質問を理解し、答えを作る力 |
| 単語の置き換え練習 | 基本文型を使い、語を入れ替える力 | 複数の文を組み合わせ、詳しく説明する力 |
| 自由なインタラクション | 即時処理、意味交渉、言い換え、話題展開 | 土台となる十分な語彙、理解、音声知覚 |
パルキッズは、会話より前に会話の材料を育てます
パルキッズでは、最初の目標を、覚えた英語をすぐに話させることには置いていません。
まず、英語音声へ繰り返し触れ、英語の音、リズム、語や表現のまとまりを聞き取る土台を育てます。
次に、オンラインレッスン、絵、場面、絵本などを通して、聞いてきた英語を意味と結び付けます。
さらに、文字を学び、読む力を育てることで、自分で新しい語彙や表現を取り込めるようにします。
読む量が増えれば、日常的な会話練習だけでは出会いにくい語彙や文型、知識にも触れられます。
そのうえで、書く活動を通して、自分が伝えたい内容を英語の文へ組み立てる経験を積みます。
最後に、それまでに蓄積してきた音声、語彙、文法、内容を、実際の会話の中で素早く使えるようにしていきます。
会話の材料を蓄積し、実際のやり取りへつなげます
会話練習を始めるのに、完璧を待つ必要はありません
音声知覚や語彙が完全に育つまで、会話を一切させてはいけないという意味ではありません。
あいさつ、歌、簡単な受け答え、ゲーム、先生との短いやり取りなどは、初期段階から楽しめます。
ただし、短い会話ができることだけを最終成果にせず、その背後にある理解力も並行して育てることが重要です。
初期の会話活動では、次のような点を意識するとよいでしょう。
- 子どもが意味を理解できる表現を使う
- 復唱だけでなく、絵や場面と結び付ける
- 答えを強制せず、聞く時間も十分に作る
- 一語の返答から、少しずつ文へ広げる
- 子どもの答えに関連する追加質問をする
- 分からないときに聞き返す表現も教える
- 間違いを細かく止めず、自然な言い方を返す
- 会話以外に、音声入力や読書も継続する
会話練習を、英語学習のすべてにするのではなく、蓄積してきた英語を使う機会として位置づけます。
目指すのは、決まり文句の先にある会話です
自己紹介や注文ができることは、会話力の大切な第一歩です。
しかし、パルキッズが最終的に目指すのは、その先にある自由なやり取りです。
相手の話を理解する。分からなければ聞き返す。自分の経験を説明する。理由を伝える。相手の答えに興味を持ち、さらに質問する。
このような会話には、暗記した表現だけでなく、豊富な入力から身につけた語彙、文法、音声理解、背景知識が必要です。
会話練習は、その力を実際の場面で素早く使えるようにするために行います。
つまり、インプットかアウトプットかの二者択一ではありません。
理解できる英語を十分に取り込み、それを会話の中で使い、通じなかった部分を調整するという循環が大切なのです。
結論:会話練習は必要です。ただし、話すための英語を先に蓄えることが大切です
英語を学ぶからには、話せるようになってほしいという願いは当然です。
自己紹介、注文、あいさつなどの定型会話は、繰り返し練習することで使えるようになり、旅行や初対面の場面で役立ちます。
しかし、自由な会話では、相手は練習した台本どおりに話してくれません。
相手の英語を聞き取り、その意味や意図を理解し、自分が伝えたい内容を考え、語彙と文法を使ってその場で英語を組み立てる必要があります。
そのため、会話力の土台には、英語音声を聞き取る力、意味を理解する力、十分な語彙や表現、自分の考えを文にする力があります。
パルキッズは、話すことを軽視しているのではありません。
最終的に自由な英会話へ進むために、まず英語音声を捉え、理解できる英語を増やし、読みや書きを通して会話で使える材料を蓄えます。
そのうえで、実際のやり取りの中で、英語を素早く取り出し、聞き返し、言い換え、話題を広げる経験を重ねます。
会話練習をすれば英語が身につくのか、という問いへの答えは、「会話練習だけでは十分ではありませんが、豊かなインプットを土台にした会話練習は重要です」となります。
まず聞いて理解できる英語を育て、その英語を会話で使う。大切なのは、どちらか一方ではなく、その順序と組み合わせです。
REFERENCES
- Best, C. T., & Tyler, M. D. (2007). Nonnative and second-language speech perception: Commonalities and complementarities. In O.-S. Bohn & M. J. Munro (Eds.), Language Experience in Second Language Speech Learning: In Honor of James Emil Flege (pp. 13–34). John Benjamins. DOI
- Bradlow, A. R., Pisoni, D. B., Akahane-Yamada, R., & Tohkura, Y. (1997). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/: IV. Some effects of perceptual learning on speech production. The Journal of the Acoustical Society of America, 101(4), 2299–2310. DOI
- Flege, J. E. (1995). Second language speech learning: Theory, findings, and problems. In W. Strange (Ed.), Speech Perception and Linguistic Experience: Issues in Cross-Language Research (pp. 233–277). York Press.
- Krashen, S. D. (1985). The Input Hypothesis: Issues and Implications. Longman.
- Kuhl, P. K. (2004). Early language acquisition: Cracking the speech code. Nature Reviews Neuroscience, 5(11), 831–843. DOI
- Levelt, W. J. M. (1989). Speaking: From Intention to Articulation. MIT Press. DOI
- Long, M. H. (1996). The role of the linguistic environment in second language acquisition. In W. C. Ritchie & T. K. Bhatia (Eds.), Handbook of Second Language Acquisition (pp. 413–468). Academic Press. DOI
