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2025年6月号特集

Vol.327 | 英語ペラペラになる方法

ペラペラ英語でも薄っペラペラ

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-2506/
船津洋『英語ペラペラになる方法』(株式会社 児童英語研究所、2025年)


英語を喋るとは?

英語を喋るとは? 誰もが知っているように、学校英語では英語を身につける確率は絶望的です。このことに関しては、過去に繰り返し書いているので、ここで詳しくは書きませんが、学校英語で英語を身につけることは不可能であるというのは公理のようなものです。つまり、証明する必要がない。「どんな数字に0を加えても、数値は変化しない」とか、有名な「ある直線とその外部の1点を通る、交わらない直線はただ1本だけ存在する」等と同様に、もはや証明する必要がない、日本の学校英語を語るにおいて前提となるような定義です。
 もちろん、学校英語経験者にも英語を身につける人たちは居ます。これも散々書いてきているので深入りはしませんが、帰国子女や留学生のように海外で英語を身につけるケースもあれば、英語好きが高じて“学校英語外”でビデオを見たり、英書を読んだり、外国の友人を見つけたりと積極的に英語を取り入れる、つまりインプットするような人たちもいます。このように海外経験なしに英語を身につけた人を“純ジャパ”と呼んだりもします。さらには、研究者など、必要に迫られて英語を身につけてしまう人たちも少なからず存在します。
 しかし、これらは極めて少数派であることは間違いありません。また、彼らの存在が学校英語を肯定することにもなりません。稀に、極めて優れたメタ言語としての国語力を有していて、英語の特徴を日本語と対比しながら分析していくような天才肌の人たちも居ます。しかし、そんな一部の天才の存在によって、教育システムが肯定されるべきではないことは自明です。
 多くの日本人たちは、結局のところ、英語ができないまま人生を終えるのでしょう。
 いや、それでは悲しいとばかりに、いまだに日本では英語熱が冷めやらないようです。英語を身につけられなかった多くの人が「英語を喋れるようになりたい」と考えています。もちろん、熱量の違いはあります。ぜひとも!と意気込み、あっちのメソッドやこっちのメソッドを渡り歩く人も少なくないでしょうし、ほどほどに!と旅行英語に取り組む人もいるでしょう。また、自分は諦めるとして、我が子に夢を託す人も居ます。
 留学生や帰国子女、あるいは研究者や海外赴任などで英語を身につける人たちは「英語を身につけなければならない」ので、必要に迫られて英語を身につけてしまいます。それはそうです。英語を身につけなければ、何かを学んだり、仕事をしたりという「その先の目標」が達成できないのですから、せっせと英語に取り組みます。他方で、“純ジャパ”のように「英語を身につけたい」という気持ちが高じて英語を身につける人たちも、少なからず存在します。つまり、必要に迫られた人は英語を身につけるが、英語を身につけたいと考える人たちの中には、英語を身につける人もいれば、そうでない人もいることになります。
 しかし、総じて見れば、熱の入れようの違いはあれど、「英語を身につけたい」という気持ちは、英語を身につけていないほとんどの日本人に共通しているのではないでしょうか。
 では、その「英語を身につけたい理由」とは何でしょうか。
 いまだに、語学教材の宣伝には「英語を話せると格好いい」とか「英語を喋れるようになる!」などの言葉が踊っています。いつになったら、外国語習得をファッションではなく、地に足をつけた科学として認知するようになるのでしょうか。まぁ、モチベーションは人それぞれなので、触れないことにしましょう。その代わりに、「英語を身につける意味」と「どのような英語を身につけるか」について、今回は掘り下げていくことにします。
 これを読んで理解すれば、英語学習のゴールが見えること請け合いです。


「喋れるように」だとうまくいかない理由

「喋れるように」だとうまくいかない理由 いろいろな人と話をしたり、様々なシーンで英語学習について耳にしたりするとき、その多くはゴールが「喋れるようになりたい」という点に収斂しているようです。「英会話をやりたい」という人も「海外旅行で」という人も「格好いい」という人も、結局は「ペラペラ」っとやりたいのでしょう。辞書をひくと、

ぺら‐ぺら
[副](スル)
1 軽々しくよくしゃべるさま。「人の秘密を―(と)話してしまう」
2 外国語をよどみなく自由に話すさま。「英語で―(と)答える」
[形動]
1 2に同じ。「彼は英語のほかにスペイン語も―だ」 【デジタル大辞泉】

 だそうです。1の方は「喋る者に知るものなし」とも言われるように見下されていますが、2の方は「外国語に堪能」ということのようです。総じてペラペラとは軽薄でもあるが、軽快でもあるということのようですね。つまり、「英語」は「喋り」たいのです。ところが、これではうまくいきません。
 英語を身につけるというのはどういうことなのか、統語論を専門にするスタッフに聞いたところ、以下のようになるそうです。

 ある個別言語の言語能力(competence)とは、「音声もしくは文字列が“その言語の正しい文”の集合に属するかを判断する能力」だそうです。統語論をやっている人の発言は、常にこんな具合です。わかりやすい日本語に訳せば「言語を身につけるということ」=「聞いたり読んだりした文が、文として正しいか否かを判断できる力」となります。まだ少し分かりにくいですね。日本人が日本語を耳にして「それは正しい日本語です」と判断できれば、その人は日本語を身につけていることになる。これでいかがでしょう。
 つまり、英語をペラペラ喋れるようになりたい人には、少し厳しい事実となります。つまり、英単語をつなげて、なにか英語らしいものを話す練習をしても、それでは不十分ということになります。なぜなら「自分がアウトプットしたものが正しい文か判断できない状態でアウトプットだけしても、それが正しい英語であるかどうかが分からない」のですから、喋れるようになりたいから喋ってみる、というのはあまりよろしくないようです。
 では、とりあえず喋ってみる状態をなんというのでしょう。それを人は「カタコト」と呼びます。

かた‐こと【片言】
1 語られる言葉の一部分。へんげん。「―も聞きもらさない」
2 幼児や外国人などの話す、たどたどしい不完全な言葉。「―の英語を話す」
3 なまり・俗語・方言など、標準から外れている言葉。
「さるといふをはるといふ、すべて―は察し給へ」〈人・梅児誉美・初〉 【デジタル大辞泉】

 少々厳しいことを言えば、カタコト英語はカタコト英語。カタコト英語の先に、とある言語証拠の正誤判断の能力の獲得があるとするのは、少し飛躍が過ぎるわけです。


英語を知るとは「正しい」英語を知ること

英語を知るとは「正しい」英語を知ること 上の定義にもあるように、英語を身につけるとはそれが正しい英語であると判断できることです。すると、喋るよりも何よりも、まず読んだり聞いたりした英文を「これは正しい」と判断できないといけません。つまり、英語を聞き取れるか、少なくとも読んで理解できる。その上で、自分が話す英語が正しい英語かどうかの判断ができるようになるのです。そこに至ってようやく、ペラペラと正しく話すことができるようになるわけです。
 最近では、英語を話して身につけよう、まずは何でも良いから話してみようよ、楽しいよ、という風潮があるようです。しかし、それはあくまで「カタコト」英語であって、英語を身につけることとは次元が異なります。言語衝突の臨時回避手段として生じるピジン英語(英語と現地の言葉が混成したもの)のさらに亜種のようなものでしょう。できることならば、英語を話す、その前に、英語を聞き取れる、少なくとも読めるようになるのが、常識的な英語学習のあり方ではないでしょうか。

 そんなことを言っても栓ないので、ここはひとつ『パルキッズ通信』らしく、身につける英語を、「レベル」と「スタイル」の視点から見ていくことにします。レベルとは、英語の運用能力の各段階で、“CEFR : Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment、外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠、セファール”や、“BICS : Basic Interpersonal Communication Skills、生活言語”、“CALP : Cognitive Academic Language Proficiency、学習言語”などの指標から導きます。また、スタイルとは、発話におけるアクセントや英語の使用のシーンで、英語ネイティブ(英語が公用語で第一言語)のインナー・サークル、英語圏の植民地だったアウター・サークルなどの指標を採用することにします。それでは、見て参りましょう。


レベル : CEFRなど英語運用力の段階

レベル : CEFRなど英語運用力の段階 英語の運用力の指標として日本で広く使用されているのが CEFR です。これは、「外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠」という名前の通り「ヨーロッパ」における外国語の運用レベルの定義です。例えば、英語にとってのフランス語は、「フランス語家」から「英語家」にやってきたお婿さんの言葉のようなものです。現に、英単語の3分の1はノルマン征服以降、英語に流入したフランス語由来です。また、英語にとってのラテン語は、「フランス語家」の義理の父親のさらに実家の言葉のようなもので、こちらもルネサンス期以降かなり流れ込んで4分の1ほどあります。もともと話されていたイングランドの古英語の割合は4分の1程度ですので、なんとも心細いですね。
 余談ですが、「なんだ、古英語からのオリジナルは4分の1か」などと驚いてはいけません。我々の日本語も土着の大和言葉は3分の1程度で、約半分は漢語由来で、残りの15%程度が外来語です。言語接触で、言葉はどんどん混ざっていくのです。
 余談程度にもうひとつ。言語の多様性は、物成りの良さと負の相関があります。作物が取れる月数が多ければ多いほど、言語の多様性は少なくなります。物成りが良ければ定住するし、交易の機会も減るのでそのようになります。逆に物成りが悪ければ、遠い地域との交流の機会が増えるので、言語が多様化するという具合です。
 さて、そう考えると、日本のように物成りの良い島国でも、他所の国の言葉をせっせと取り込んでいるので、いわんやヨーロッパのように地続きで交流が激しければ、言葉が混じっていくのは極めて自然です。また、ヨーロッパの言語は、ドイツ、オランダ、北欧などのゲルマン語派、フランス、イタリア、スペインなどのロマンス語派、ロシア、ウクライナ、チェコなどのスラブ語派の主に3つで成り立っていて、例えば、ラテン語を源とするロマンス語派は、似たような語形や屈折、活用がなされます。言ってしまえば、ちとキツめの「方言」のようなものです。お互いに、なんとなく分かってしまうのですね。
 このように、方言やお隣さん同士ともいえる言葉の運用指標である CEFR を、日本人における英語習得に用いることは、まぁ、無理筋といえば無理筋です。CEFR は低レベルの A1 から最も運用能力の高いとされる C2 の6つの段階に分けられていますが、日本人の英語は最低レベルのA1にすら達していないことがあるわけです。しかし、皆さんなんとか工夫を重ねて CEFR を日本でも使用しているので、ここでも CEFR を英語力の指標として使用することにします。ただし、筆者が面倒くさがり屋であり、さらに読者には概要を掴んでいただくのが本稿の目的なので、かなり大胆に切り刻んで解説することになりますので、あしからず。


BICS と CALP と「カタコト」と…

BICS と CALP と「カタコト」と… さて、CEFR と言われてピンとくる方は良いのですが、なかなかそうはいかない。筆者のように年がら年中実験をしていると、被験者の英語力、例えば、英検や TOEFL、あるいは IELTS(アイエルツ)などのスコアと海外経験などとにらめっこしながら CEFR のレベル分けをしているので慣れたものですが、なかなか読者の皆さまにはそうはいかないと思います。また、本誌でも繰り返し登場している応用言語学のカミンズ提唱の BICS や CALP との対応も気になるところですので、これらをまとめて分類していくことにします。
 まずは、それらの指標の説明を簡単に。BICS は「生活言語」レベルの言語運用(具象的内容且つ友人や家族との会話など日常生活の使用に耐えうる言語能力)で、CALP は「学習言語」レベルの言語運用(抽象的内容で教科書の理解や議論に耐えうる言語能力)を示します。
 CEFR と対応させると BICS は B1-B2 で、CALP は C1-C2 がそれに相当します。困ったことに、日本人の多くがそこに分類される A1-A2 レベルでは BICS にも届いていません。(同様の対比は『パルキッズ通信2022年2月号』にもありますが、今回はより厳し目に見たため、分け方が異なることをご了承ください。)そこで、CEFR のAレベルの英語の運用力を、ここでは KTKT(「カタコト」)とでもしておくことにします。  各種検定試験のレベルと対応させると、英検5級から準2級まで、TOEFL iBT では該当なし、IELTS は3までが CEFR A1-2 の KTKT です。続いて、英検2級から準1級、TOEFL iBT では 42-94、IELTS では 6.5までが CEFR B1-2 の BICS です。さらに、英検1級以上、TOEFL iBT の 95以上、IELTS の7以上が CEFR C1-C2 の CALP となります。さらに詳しく知りたい方は、文科省のページを参照してください。
 ここで、日本人の英語における KTKT、BICS、CALP のレベル毎の特徴を整理すると図1のようになります。(ネイティブ英語話者の能力ではないのでご注意を。)
 すべての幼児たちの言語習得は、カタコトの母語から始まります。日本人の英語もカタコトレベルから始まるので、これは同じではないかと考えてしまうかもしれません。しかし、カタコトで英語を話す英語ネイティブの幼児と、カタコトの英語を話す日本人では、産出面では似ているかもしれませんが、知覚面が大きく異なっています。つまり、貧弱な語彙で文法ミスを犯しながら、不明瞭に話すという面は共通ですが、リスニングや理解の面が大きく異なっています。
 英語のネイティブ話者の幼児たちは、連続音声から英単語を切り出す「分節能力」を身につけています。同時に、語の連続から生み出される文の「心内表象化」も不完全ながらできています。ところが、日本人のカタコト英語話者たちは、リスニングもできなければ、英語のダイレクトな心内表象化もできていません。
 その後、カタコトの英語母語話者であるネイティブの幼児たちは、スルスルと英語を身につけていきますが、カタコトの英語話者である日本人の英語は、なかなかにしてその状態から抜け出すことができません。
 両者の違いは単純です。産出面においては、利用者とも KTKT レベルですが、知覚面においては、ネイティブの幼児たちは着実に英語習得に向けて成長しているのです。この、知覚面における成長が、次の BICS 段階へとネイティブの幼児たちを導いてくれることになります。知覚面における成長がないカタコト英語の先には、カタコト英語しかないのです。


BICS は流暢でペラペラと…

BICS は流暢でペラペラと… 通常、英語の習得は KTKT から BICS へと歩みを進めていきます。上の分類では BICS を英検2級から準1級としていますが、少し補足が必要でしょう。CEFR の B1 では「日常生活の話題で自分の考えや経験をある程度説明できる」とあります。また、リスニングに関しては、
 “Can understand straightforward factual information about common everyday or job-related topics, identifying both general messages and specific details, provided speech is clearly articulated in a generally familiar accent.”
 とあります。またリーディングに関しても、
 “Can read straightforward factual texts on subjects related to his/her field and interest with a satisfactory level of comprehension. (https://rm.coe.int/168045b15e)”
 となっています。
 英検2級以上をお持ちの親愛なる読者の皆様であれば、上記のような能力を持っていることになりますが、いかがでしょう。これは英検2級ではなく準1級のレベルのような印象を受けてしまうのは筆者だけではないでしょう。言い換えれば、日本人で BICS に到達できているのは、限りなく英検準1級に近い2級以上の実力の保持者とすることができるでしょう。
 日本で英検準1級となると、多くは帰国子女や留学経験者となります。もちろん、留学経験無しで英検準1級を持っている猛者も居ます。上智大学の外国語学部に籍を置く我が社のインターンたちを眺めても、半分は留学生や帰国子女、残り半分は“純ジャパ”です。そう考えれば、日本にいながらにして、BICS レベルに到達できている彼らには、まったく頭が下がるばかりです。
 さて、「英語ペラペラ」に関して言及しておくと、このレベルから大抵の英文は聞き取ったり、読み込んだりできる、つまり連続音声の分節やダイレクトな心内表象化ができるようになります。この段階で、ようやくネイティブの幼児たちの知覚力を得るレベルです。ただし、語彙や文法知識などはネイティブの幼児よりも優れています。
 また同時に発音に関しても、日本語アクセントが残りつつも相手に通じるレベルになっています。海外旅行でも、ほとんど困ることはないでしょうし、専門的な内容でなければ、英語で授業を受けることもできるようになります。コメディーショーを観て、ほとんどは理解できるでしょうし、喋りの方も滑らかにできるようになります。つまり目出度く「英語ペラペラ」となるわけです。目指せ BICS!
 ただし、ひとつ注意。BICS に到達できれば、確かに言語としての英語の知覚や産出に関しては課題が少なくなりますが、だからといってその英語の使用に「知性」が伴うとは限りません。つまり CALP には至っていないので、あしからず。


CALP 堪能の域、アカデミック対応

CALP 堪能の域、アカデミック対応 さて、BICS レベルをクリアすると、その先には CALP があります。CALP は上の分類では英検1級以上で CEFR ではC1-C2としています。CEFR に問い合わせてみると、以下のようなレベルです。今度は日本語訳を載せますね。
 まずはリスニング「ライブでも放送でも、速いネイティブスピードで話されるあらゆる種類の口頭言語を容易に理解できる」そうです。これは凄い。筆者でも外国人との会話の中でところどころ聞き取れなかったり、理解できなかったりします。例えば、最近のスラングや話題など現地人でなければ共有できない文化、あるいは専門性の高いトピックになるとなかなかすべてを聞き取れるわけではありません。それができるというのですから恐るべし C2 ですね。
 続いてリーディング「マニュアル、専門的な記事、文学作品など、抽象的で構造的または言語的に複雑なテキストを含む、ほぼすべての書かれた言語を容易に読むことができる」とあります。これまた筆者のケースでは、専門的な記事に出てくる専門的な語に関しては、文脈から推測するか、辞書に当たる必要がありますが、だいたい該当しています。ちなみに筆者は高校と大学で1年間ずつ留学しています。わずか一例からの推測になりますが、日本人英語学習者は留学生で CALP レベルになっても、リーディングのほうが強いようです。
 このレベルの日本人となると、研究者か海外赴任で英語を使用する人、あるいは英語の専門家や移民二世といったところでしょうか。BICS レベルの英語ペラペラは、内容を伴う必要はありません。
 ここまで来ると、ペラペラ英語は通り過ぎて、威厳のある英語話者でしょう。しばしば「英語はペラペラだけど中身がない」などと指摘されてしまう帰国子女や留学生もこちらを目指していただければ、誰も文句は言えなくなるわけです。頑張れ!


スタイル : どんな英語をどんなふうに使いこなす?

スタイル : どんな英語をどんなふうに使いこなす? 英語はリンガフランカです。リンガフランカとは、中世の地中海沿岸域で使われていたピジンで、「フランク人のことば」という意味合いです。フランク人とはヨーロッパ人全般を意味していて、彼らが通商などで使用する簡易の言語をそう呼んでいました。そこから、共通語のことをリンガフランカと呼ぶようになったようです。
 大学院の講座でも学会でも、英語がリンガフランカとして使用されます。日本人ばかりの講座であれば、やり取りは日本語で行われるのが一般的ですが、ハンドアウトやスライドは英語のままだったりします。また、一人でも日本語を理解できない学生がいると、講座は極めて自然に英語に切り替わります。
 さて、それでは講座に参加している人すべてが、留学生や帰国子女のようなネイティブ的な英語を話すかというとそうではありません。日本人であれば、子音にいちいち母音を割り当てる母音挿入や前舌広母音の拗音化(’cat, gamble’ →「キャット、ギャンブル」)、あるいは第2アクセントの弱化などさまざまな「日本語の音韻規則」に則った調音がなされます(これに関しては細かく知る必要もありませんので「ふーん」と読み飛ばしてください)。もちろん、中国人なら中国人の、スペイン人ならスペイン人特有のアクセントのある英語でやり取りが行われます。
 講座や学会ともなれば、重要なのはその内容であって、ネイティブ英語話者のように颯爽とペラペラ喋る必要はありません。文法にミスがあっても、語彙の選択が誤っていても、あるいは発音に癖があっても、まったく問題ではない。スタイルではなく、その内容のみが重視されます。
 さて、日本人が身につけたい英語、「英語を話せると格好いい」「英語をペラペラ喋りたい」というとき、どのような英語をイメージしているのでしょうか。運用のレベルや内容に関しては、KTKT、BICS、CALP で分類しましたが、その発話のスタイルや使用シーンについてさらに見ていきましよう。
 
 英語はネイティブ話者だけのものではありません。英語圏以外の多くの国で英語は話されます。クルシュ提唱の「英語使用状況の三重円モデル(Three Circles of English)」を参照すると、英語は3つのサークル(「圏」)の使用に分類できるとされています。それらは、ネイティブ英語圏のインナー・サークル、非ネイティブ英語圏のアウター・サークル、そして非英語圏のエクスパンディング・サークルです。  それぞれの定義とともに特徴を、以下にひとつずつ上げていきます。


インナー・サークル : ネイティブ英語圏

インナー・サークル : ネイティブ英語圏 インナー・サークルに属するのはアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど英語が母語として使われている国々(英語が第1言語)です。これらの国に生まれれば、どんな子でも放っておけばネイティブ言語としての英語を身につけます。
 これらの英語の特徴として、それぞれのエリアごとに独自の語彙やアクセント(これに関しては例示すると長くなるのでやめておきます)があります。ただし、ネイティブな英語であることに変わりはなく、お互いに話をしていて通じないことはまったくなく、お互いにお互いをネイティブな英語話者として認めることができます。
 インナー・サークルでは英語は日常語であり、家庭内ではもちろん、学校や職場、あるいは公的な機関やメディアでも英語が使用されます。彼らは幼児期の KTKT から学童期の BICS を経て、高等級育を受けるようになれば、自然と CALP レベルで英語を運用するようになります。文法も語彙選択も、そして発音もナチュラルな英語を話すようになるわけです。


アウター・サークル : 非ネイティブ英語圏

アウター・サークル : 非ネイティブ英語圏 アウター・サークルに属するのはインド、シンガポール、ナイジェリア、パキスタン、フィリピンなど、英語が公用語・準公用語として制度的に使われている国々(第二言語として定着)です。「植民地時代の遺産として英語が制度的に定着した国々」でもあり、上記のインド、シンガポール、ナイジェリア、パキスタンなどは英国の、フィリピンは米国の植民地でした。
 これらの英語の特徴は、それぞれの国の第一言語の音韻知識の影響を強く受けることです。日本人の英語のところでも少し触れたように、ナチュラルな英語ではなく、母語の音韻、語彙、文法などが入り込んできます。
 ただし、これらの国々においても英語は公用語であり、日常語でもあります。学校や職場、あるいは公共施設、またはメディアなどでも英語が高頻度で使用されます。従って、彼らは産出面ではナチュラルではない英語を使用しますが、知覚面においては、問題なく英語を分節・心内表象化できます。また、家庭内、あるいは仲間内では、英語ではなくヘリテージ・ランゲージ(継承語)と呼ばれる彼らの母語を使用するのも一般的です。
 彼らは日常的に英語に触れる機会が多いものの、正式には学校教育から英語が入ることが多いようです。そして、KTKT から BICS レベルの英語を習得し、高等教育へ進めば CALP としての英語力も身につけることになります。また彼らの母語であるヘリテージ・ランゲージに関しては、残念ながら高等教育には使用されないことから、BICS に留まることが日常です。この点、日本など母語で高等教育を受けることのできる国とは大きく異なります。


エクスパンディング・サークル

エクスパンディング・サークル エクスパンディング・サークルに属するのは、日本、中国、韓国、ロシア、フランス、ドイツなど英語が外国語として学ばれている国々(第一言語・公用語ではない)です。フランス語は英語と夫婦みたいなものであることは述べましたし、ドイツ語も言ってみれば親戚のようなものです。こう考えると、エクスパンディング・サークルといえども、英語とまるで関係がない国ばかりではありません。
 同時に、日本や中国など英語とは縁繋がりのない国もあります。ただ、それでも英語は中国語と独立語(一部屈折を除く)の面で共通ですし、音節構造においても、音声の種類においても、日本語よりは中国語のほうが英語とは共通点が多いです。その意味では、日本語は英語と最も離れている言語のひとつと考えて間違いないでしょう。
 結果として、すでに述べてきたように日本人にとって英語を身につけることには大変な困難が伴い、多くの日本人が KTKT レベルに留まっています。エクスパンディング・サークルの日本では、家庭でも学校でもあるいは政府でもメディアでも、英語が使用されることはありません。従って、アウター・サークルより遥かに英語のインプットが少ないのです。
 留学生や帰国子女、研究者や海外赴任者、あるいは英語の専門家でなければ、CALP はおろか BICS にも届かないのが日本人の英語のあり方です。しかし同時に、英語習得に向けて、軽い執着とも呼べる憧れを持っており、ちょっとばかり英語に触れたいな、と感じる日本人が少なくないことも述べました。興味深いことに、ちょっとばかりのコツや、少しばかりの会話の練習で英語が身につかないことは、体験的に皆知っているはずですが、それでもなおやってみるのが日本人の哀愁漂う可笑しみなのかもしれません。


目指すべき英語力は?

目指すべき英語力は? さて、英語ペラペラの BICS を目指すか、あるいは、もはや英語の専門家の CALP を目指すかは、目指す英語のレベルの差です。ここまで述べてきたインナー/アウターの差は、知覚面では差はありませんが、産出面では方言の差と考えられます。また使用シーンに関しては、インナーが常用、というか英語ばかり使用しているのに対して、アウターの方はより実用的な英語、つまり学問やビジネスに必要な英語ということになります。

 インナー・サークルにおいて、BICS は学童期、CALP は高等教育以上に耐えうる英語です。おそらく、一般的に「英語を身につけると格好いい」とか「英語ペラペラに」と考えている方のゴールは BICS で十分でしょう。つまり、1年留学組か、もう少し流暢な帰国子女の英語の運用力です。おそらく多くの日本人が目指している英語力の特徴は、インナー・サークル英語を志向していると言えます。つまり、ネイティブのような発音へ近づいていく感じです。発音重視なので、読解などはさほど気にしない感じかもしれません。
 また、インナーにおいて、大学進学率が100%を超える(統計にも寄りますが)エリアがオーストラリアやニュージーランドです。アメリカは日本と同等で6割程度ですが、日本と異なり、一度社会人になってから大学へ戻るケースがあるので、日本よりは高学歴の社会と言えます。つまり、CALP の割合が高い。少なくとも日本以上に母語の運用力は高いことになります。
 他方のアウター・サークルでも、BICS は学童期、高等教育かビジネスに必要な人だけはそれ以上の CALP を目指します。近年ではフィリピン、インドでも3割から3分の1は大学へ進学することから、それらの人たちは CALP レベルの英語力を有すると考えられます。もっとも、彼らの英語はすでに述べたように、BICS、CALP 通して、文法、語彙、発音においてアクセントのある英語であるという特徴があります。

 エクスパンディング・サークルの雄、我が日本人で英語ペラペラ人には2種類居ます。アメリカ組(海外で英語を身につけた人たち)と、“純ジャパ”と呼ばれる若い頃に英語を身につけてしまった人たちや仕事や学問で英語を身につけた人たちです。前者はインナー・サークル的な発音で英語を口にしますが、後者はアウター・サークル的な発音で話します。もっとも、後者では CALP が多いので、前者の帰国子女のような BICS レベルのペラペラ英語ではありません。極めて実用的な英語で、知覚力は劣るものの、知識が豊富なので、知覚力を補って余りあるほど正確に英語を聞き取り、あるいは読み解くことができます。つまり、大学教授とか現地の日本人。
 それらをまとめると、図2のようになります。

 さて、皆さんが目指すべきはどちらの英語でしょうか。理想は、インナー CALPですが、現実的には アウター BICS かな?図2を参照してみてください。


【編集後記】

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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。

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