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2021年8月号特集

Vol.281 | 英語習得は速度が命

ゆっくり学習しても英語が身につかないワケ

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-2108/
船津洋『英語習得は速度が命』(株式会社 児童英語研究所、2021年)


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特集イメージ1 「多読」は、とても効果の高い第二言語習得法です。とある高専の実績では、5年間で50万語読んだ学生は、平均的な文系大学生と同等の英語力を身につけ、同じく100万語読んだ学生は、10ヶ月間の留学を終えて帰国した学生と同程度の点数をスコアしたという報告もあります。(西澤他, 2008)

 しかし、そのような効果的な側面がある一方で、多読は継続が困難であり、成果を得られるまでに時間がかかるという側面があります。どんな効果的な学習法でも途中で辞めてしまえば、はい、それまでよ。
 学校の指導では、指導要領に盛り込まれていないものを強制的に取り組ませるわけにもいかないので、授業の一部で、あるいは課外で取り組ませるしかありません。また、独自に取り組む場合は、さらに継続が困難であることは言うまでもありません。結局、モチベーションが高く、根気のある学生や社会人以外は成果を上げることができないのは必然でしょう。

 以上が、一般的な英文多読の有り様です。

 しかし、ものはやりよう。取り組み方によっては、短期間で高い英語力を実感できるようになります。その取り組み方のポイントは、2つあると考えます。ひとつはスピード、もうひとつは音読することです。


ことばの処理は「スピード」と「音声」が命

特集イメージ2 英文をゆっくり精読したり、ゆっくりとした英文を聞いているうちは、実用レベルの英語力は遅々として育ちません。英語話者同士が普通に話すスピードで聞き取れるようになるか、あるいは毎分150語前後の “普通のスピード” で英文を読めるようになるか、いずれかのトレーニングが必要です。

 それにはどうすれば良いのか。方法は、耳からと目からの2つあります。
 「耳から」通常のスピードで “学習者にとって意味のある” 英語をインプットし続ける環境を整えるために、最も手っとり早い手段は留学でしょう。
 もうひとつの「目から」通常のスピードで英語をインプットし続ける方法は、”ただの多読” ではなく “150wds/min(1分間に150単語)の速度を伴った多読” であることがポイントです。

 留学は、自室に閉じこもりでもしない限り英語環境から逃げることができず、結果として “義務的” に耳からのインプット、並びに授業や宿題で目からのインプットも行われるので、成功率の高い英語習得法です。
 他方の多読が効果の上がる学習法であることは、20世紀初頭から提案されていました。かの夏目漱石も、英語の多読を勧めていることは知る人ぞ知るところです。近年でも、第二言語習得の場で、その成果に関していくつもの研究がなされており、学習効果の高さが報告されています(柊元, 2019)。

 しかし、前述の通り多読は複数の課題を孕んでいるゆえに、なかなか一般に広がらない取り組みでもあります。自己流の取り組み方では、効果を実感できるまでに数年と、とても時間がかかり、モチベーションの保持が難しいのです。
 また、多読素材の選び方を間違えて、学習者の英語力のレベルを超えてしまうと、一向に理解できず、従って効果も感じられません。多読用に一般に推薦されているオクスフォード出版などからの素材も、日本人のレベルにマッチしているとは言い難く、さらに価格も高いので、なかなか読み散らかせるほど手が伸びないという点も、多読へ踏み出しにくい理由でしょう。


従来の多読は「スピード」と「音声」に欠ける

特集イメージ3 カリキュラムや、価格、モチベーションなど、様々な障壁を抱える多読ですが、実はそれ以外に多読の成果を半減させているふたつの重大な問題があります。

 読み上げスピードを個人任せにしている点と、音読を強く推奨してない点です。

 一般に多読は速度の制限がないゆえ、読み上げ速度は個人によります。すると多読本来の目的であるところの「読み散らかす」ことに至らずに、多読ではなく文法・訳読で慣れ親しんだ精読をすることになります。精読は、多読ではありません。
 ネイティブの英米人の標準的な音読スピードが “150wds/min” で、この速度で読むことを当面の目標とすることが肝要です。詳細は後述しますが、あくまでも語の訳などに拘泥せずに文章全体を掴みながら読み散らすことを心がけるのが賢明です。
 本人は多読をしているつもりでも、速度が足りず文法・訳読方式の英語の処理(精読)になってしまっていれば、そこからは本当の意味での「多読の果実」は得られません。

 また、発音に関しても個人が自由に読むに任せていれば、発音やアクセントは向上しません。正しくない発音を闇雲に繰り返すことは、逆に妙な癖がついてしまうことすら危惧されます。
 その改善には、黙読ではなく音読することが重要なポイントとなります。
 本来英語が持つ、発音・リズム・イントネーションを実際に感じて、それを身につけることによって、多読の効果は読解力に留まらず、語彙力・スピーキング力・リスニング力にまで好影響を及ぼすのです。

 今回は、なぜゆっくりの多読では思ったような成果が上がらず、 速度を伴った多読が多読成功の鍵となるのか、また、なぜ黙読ではなく音読することで+αの効果が得られるのかを掘り下げることにします。


ポイントその1 : 速度「速度が勝負の別れどころ」

特集イメージ3 そもそも論になりますが、言語は音声から発達してきました。10万年ともいわれるヒトの音声言語の歴史に比べて、文字の歴史は数千年です。この点からだけでも、言語は音声での使用を軸に発達を遂げてきたことは明らかでしょう。

 コミュニケーションはもちろんのこと、思考でも音声は使われます。頭の中では、映像や様々な自然音を伴うイメージが繰り広げられていますが、それらと同時に、重要な位置を占めるのが音声言語による思考です。ヒトが考えるとき、声には出さないまでも、頭の中では音声が鳴り響いているのです。

 それでは、音声言語の後に発達してきた文字言語は、ダイレクトにイメージと結びついているのでしょうか。漢字は表意文字なので、形式が直接意味と結びついている側面があります。しかし、速読などの特殊な状況を除けば、一般に文字情報は音韻情報に置き換えられてから理解されます。つまり、黙読しつつも頭の中で音声は鳴っているのです。そのことは研究からも分かってきています。(中村他, 2015)

 言語は音声が先であることはお分かりいただけたと思いますが、ではなぜ「速度が命」なのでしょうか。

 文字を習い始めの幼児は、かなを拾いながら読みますが、「ま」「く」「は」「り」「は」「し」「か」「い」という句を読んだとして、それを「幕張は市かい?」と直観的には理解できないこともあるでしょう。
 まず、日本語では助詞の「は」には読み方が2つあります。文を頭から読み進める中、途中で意味が通らなくなると、読み方を変えて意味が通るように音を再構築するという作業が行われます。
 また、ゆっくり読むと意味が理解しにくい点に関しては、音韻処理するスピードが大きく関係しています。言語は一定の速度で音声化されたときに理解されるのですが、語や助詞単位ではなく、句以上の大きさのある程度のまとまりで読まれなければ、意味の処理ができないのです。

 日本語の場合を考えてみましょう。読み方がたどたどしく、句など語の塊で読み進められない場合には、1文字あるいは1語ずつ読んだ音や意味を記憶して、さらにそれらをもう一度句や文の単位に連結し直して通常のスピードでリフレインすることで、ようやく意味を持つ音となるのです(福本, 2004)。
 英語も同じです。実際にネイティブの話者が話すスピードが最も自然な英語のあり方なので、その速度で聞き取れて理解できることが重要です。また、ゆっくりと語を区切って読んでいる内は、いつまで経っても英語のリスニング、あるいはリーディング力の向上には至りません。速い速度でそのまま聞き取れたり、発音できたりすることが大切なのです。

 そして、その速度の目安が150wds/minです。

 英語圏の幼児たちが英語を身につけるときも、留学生が現地で英語を学ぶときにも、結局はネイティブたちが話す通常の速度に慣れることが第一に行われて、その次に理解が始まります。我が子への語りかけを想像すれば明白でしょう。幼児に対して語りかけるとき、難しい語は使わないように気をつけはするものの、話す速度を遅くはしません。ゆっくりと発せられることばから、幼児は日本語を、留学生は英語を身につけていくわけではないのです。


低速処理の文法・訳読モードから高速処理のイマージョンモードへ

特集イメージ3 さて、留学生や幼児たちがリアルなスピードで言語を身につけていくことを、ここでは仮に「イマージョンモード」と呼んでおくことにしましょう。その対極の学習法を「文法・訳読モード」と呼んでおきます。

 学校英語は基本的に「文法・訳読モード」の学習が、その多くを占めます。これは自然なことで、私たちが未知の言語を学ぼうとするとき、対象となる言語の仕組みを知ろうとしたり、語の意味を母語で理解しようとするのは、極めてまともな姿勢です。
 余談ですが、この点、最近流行の「使ってみる」英語学習法は、言語衝突が起きたときに生まれるピジン語の習得を促しているかのようにも受け取れます。言語は話すことからは身につかず、身につけた結果話すことができる、という当たり前の論理(Krashen, 1982)に反しているように思われます。

 さて、私たちが慣れ親しんできた「文法・訳読モード」は、極めて処理が遅いのがその特徴です。耳や目から入る英語を、そのまま理解する処理スピードには遙かに及びません。それもそのはず、一度日本語に訳すのですから、時間がかかるのは当然です。
 果たして、この「文法・訳読モード」での学習の先に「英語の習得」があるのか?と問われれば、自信を持って「イエス」と言える人は稀でしょう。
 それは結果を見ても明らかで、この学習法では、凡人が中・高と相当力を入れて勉強しても「英検準2級」止まり、あるいは秀才が相当頑張っても「英検2級」が関の山、というのが現状です。結局のところ「英検準1級」を取得できるのは、稀な秀才か洋行帰り、あるいはインターにでも通った子どもたちばかりなのです。
 もちろん、『パルキッズ』育ちの皆様もここに入ることは付け加えるまでもありません。

 日本人の英語力の向上が遅遅として見られない最大の問題点は、この「文法・訳読モード」からなかなか抜け出せないことにあります。
 つまり英文を見ると、ほとんど自動的に、文法に照らし合わせて訳そうとするモードに入ってしまうのです。’dog, table, apple, this…’ などなど、英語のままでも理解できそうな語まで、日本語に訳す癖が染みついています。

 また、その精神作業の面倒くささから、「英文を読む」ことに対する抵抗感が募り、終いには「見るのもイヤ」で「見ても無視」するようになります。
 試みに想像してみてください。街中にあふれている英字の看板や案内文が、そもそも皆さんの目に止まって、関心を引きつけますか?ほとんどの日本人にとっては、そんなことは無いと思います。耳から入る英語が右から左へと抜けていくのと同様に「心ここに在らず」、目から入ってくる英語も頭は無視してしまうのです。

 それでも頑張って「文法・訳読モード」で英文を読み続けたとしても、相当なモチベーションが無い限り、日常的に継続することは困難でしょう。つまり、単位取得に必要であるとか、何らかの外的な圧力がかからなければ、学習を継続できないのです。
 
 英語を身につけるためには「大量インプット」が必要ですが、せっかくの多読も、継続できなければ「大量インプット」にはなりません。そして「大量インプット」が叶わないことは、英語を身につけることが叶わないことを直接示唆します。

 その問題の根源は、英文を読むたびに「文法・訳読モード」が起動することにあります。そして、その「文法・訳読モード」で英語を処理する状態から抜け出すための手段が、留学であり、速度を伴った多読なのです。
 英語を目にするたびに首をもたげる「文法・訳読モード」を沈黙させ、幼児や留学生たちがことばを習得するときに使っていた「イマージョンモード」に切り替える、これが重要です。


言語習得プログラムのスイッチを入れる

特集イメージ3 それでは、多読ばかりでなく「多聴をすれば良いのでは」と思われる方もいらっしゃるでしょう。もちろん英語の多聴は、耳から言語を学ぶ幼児期には適しています。また、留学のように強制的に “学習者にとって意味のある” 英語をインプットできる多聴であれば、それもまた有効です。
 しかし、ちょっとやそっとの英文の聞き流しは「多聴」たり得ません。留学のように四六時中英語が耳から入ってきて、さらに英語で教科書を読んだり、授業に参加したりするような “intensive” で “extensive” な環境におかれない限り、耳にする英語は「自分には無関係の音」として右から左へと処理されることなく素通りするのです。

 では、多読はどうなのでしょうか。通常の(速度を意識しない)多読では「文法・訳読モード」が起動します。このモードは、ゆっくりしたスピードでしか処理ができません。
 そこで、ネイティブ並みの “速度を伴った多読” に切り替えます。「文法・訳読モード」では、そのような高速の英文を処理しきれません。すると「文法・訳読モード」は、遂に処理を止めてしまうのです。かわって「イマージョンモード」での処理が始まります。
 言い換えると「文法・訳読モード」は意識の学習で、「イマージョンモード」は無意識の学習です。「獲得学習仮説」では「獲得は無意識のプロセスでそれが行われている時にも自覚できず、獲得した後にもその知識を自覚することはできない」とされており、言語は意識した学習からではなく、無意識に獲得されるとされています。(Krashen, 1982)

 つまり、「イマージョンモード」に至ってはじめて英語の「大量インプット」が可能となり、幼児や留学生が言語を身につけたような無意識の学習が始まるのです。

 英語を見るたびに「文法・訳読モード」がしゃしゃり出てくる悪癖を取り除き、英語を英語のままインプットできる「イマージョンモード」に切り替えることが、「言語習得プログラム」のスイッチをオンにすることとなり、そのトリガーとなった「高速での多読」がそのまま英語の「大量インプット」となるのです。


数を覚えるより簡単な言語習得

特集イメージ3 「言語習得プログラム」のスイッチが入りさえすれば、留学生が3、4ヶ月という短期間で英語の基本を身につけるように、リアルタイムの英語の処理ができるようになります。

 「言語習得プログラム」といってもピンと来ないかも知れませんが、これは我々大人も持つには持っているのです。ただ、大人になってからそのスイッチが入れられることはほぼ無く、主人がスイッチを入れてくれることを、脳内でひたすら待ち続けています。

 これは極めて優れたプログラムで、想像を絶するほどの効率の良さで言語を習得します。

 仮に未知の言語、例えばアラビア語やギリシア語のアルファベットや数を覚えようとします。これは簡単な作業でしょうか?学生時代の、いわゆる「二外(第二外国語)」や「三外」の勉強を思い浮かべてみましょう。面倒ではあれ、それ程大変なことではなかったのではないでしょうか。本気で取り組めば、数時間で1つの言語のアルファベットや数の数え方くらいは覚えられるのではないでしょうか。

 次に、幼児たちを想像してください。彼らが日本語のひらがなや数え方を覚えるのには、どれほどの時間がかかるでしょうか。3歳にもなれば、自然と文字や数は読めるようになってきますが、逆にいえば3歳になるまでは文字や数の習得は困難なのです。
 しかし、幼児たちは文字や数を習得するずっと前に、すでにことばを身につけてしまっているという点に着目しなくてはいけません。
 つまり、幼児(あるいはヒト)にとっては、彼らが「イマージョンモード」で学習をする限りにおいて、言語の習得は、その言語の文字や数を覚えるより “遙かに楽で簡単” な作業なのです。

 これほど優れた言語習得のプログラムが、私たちの脳内に眠っている。実に勿体ない話ではないでしょうか。そして、その言語プログラムのスイッチを入れるのが「高速での多読」なのです。


ポイントその2 : 音読「黙読ではなく音読が効くワケ」

特集イメージ3 さて、高速での多読が「文法・訳読モード」をオフにし、「イマージョンモード」つまり「言語習得プログラム」のスイッチをオンにします。そして、その引き金となった多読そのものが、英語習得に必要な「大量インプット」になることまでは分かりましたが、学習の効率をより高めるために、知っておきたいいくつかのことがあります。

 高速での多読は、是非「音読」で進めてください。特に、英語の正確な発音をマスターするまでは、多読は黙読ではなく音声を伴わせた方が効果的です。
 その理由はいくつかあります。ひとつには英語の音韻を身につけるため、ひとつには内耳から聴覚刺激を与えるため、さらには英語のスピーキングの練習のためなど、「高速での多読」に「音読」の取り組みを加えるだけで、グンと効果を高めることができるのです。

 ここから少し面倒な話になるので、次次節の最後の1段までは読み飛ばしていただいて結構です。

 さて、なぜ音読が効果的なのか。その理由は、日本語と英語の音韻の違いを学習できる点にあります。

 日本語が英語と違う点でしばしば言の葉に上るのが、 /l r/ の区別がないことや /θð/ などの歯音 /f v/ などの唇歯音の欠如です。しかし、これらは「日本語に存在しない」という点においてとても目立つのであって、実はそれ程問題ではありません。
 逆に問題となるのは、あまり目立たない差です。そのひとつに、母音の範疇化の違いが挙げられます。日本語では、母音は5つしかありませんが、英語では少なくとも9つの異なる母音があります。もちろん、音が異なれば意味が変わります。つまり、英語では意味が変わってしまう母音を、日本語では区別しないので、我々はそれらの違いを聞き取れないのです(『パルキッズ通信2018年10月号』)。

もうひとつ重大な違いがあります。こちらが、いろいろと厄介な問題を引き起こします。日本語は開音節、英語は閉音節の言語で、音韻の構造が異なるのです(『パルキッズ通信2017年5月号』)。英語が閉音節であることで、再音節化という現代の日本語では起こらない現象が存在し、逆に日本語が開音節であることで、母音挿入という現象が起こります。以下、それぞれ少しだけ見ていくことにします。


 

英語と日本語の違いを理解することが、聞き取りの第一歩

特集イメージ3 まずは、英語では意味を変える異なる音素なのですが、日本語では異音と呼ばれ、語の意味を変えることのない変異種扱いされるので、その区別がごちゃごちゃになっている例から。
 サンクスギビングが終わった翌金曜日は、ブラックフライデーと呼ばれ、ここからクリスマス商戦が始まりますが、そこで流れるのが、

 ”Jingle belles” です。その ‘jingle’ の音。

 どう読みますか?日本語では「ジングル」ですね。音声で書くと [dʒiŋgl] です。ところが、これを [ʒiŋgl] と読む人がいます。無理矢理カナで書くと「ズィングル」です。英語では、綴り ‘j z’ の違いは、音声 [dʒ ʒ] の違いで混同されることはありませんが、日本語では状況が異なります。
 「ザ行イ段」の /zi(ズィ)/ は、日本語の音韻として存在しておらず、代わりに「ジャ行イ段」の /ji/ がそこに入り込んで中和(その位置を占める)します。
 英語には /zi/ の音が頻繁に登場するので、日本語にはない英語らしさを意識するあまりに /ji/ の音にまで /zi/ を使ってしまうのかも知れません。逆のパターンでは、 ‘Amazing’ [ə’meɪzɪŋ] を日本語の「ザ行イ段」のルールに則って「アメイジング」と発音する方ももちろんいます。

 また、日本語の音韻単位、つまり日本人が頭に思い浮かべる単位は開音節のカナなので、子音で終わったり子音が連続できたりする英語の音韻は発音できないのです。そして、語末の子音や連続する子音には、それぞれ母音を添加することになります。つまり、基本的にすべての子音の後に /u/ を、ただし /t d/ に /u/ が後続する音はカナに存在しないので、退避策として /o/ を挿入するのです。


速く読むと解決される音韻の違い

特集イメージ3 このように、日本語の癖が英語の発音を無意識のうちに本来の音から変換してしまうことがありますが、英語もいろいろな音声の変化の規則を持っています。その最大の物は「再音節化」でしょう。
 世界的に見ても、英語の閉音節よりも日本語にある開音節の言語の方が大半を占めています。おそらく開音節の方が、人の発話行動の生理と親和性が高いのでしょう。それゆえ、英語においても語末の子音(S)に母音(V)で始まる語が後続すると、SとVがくっついてひとつの音節に再音節化するです。

 /in/ /on/ /it/ → /i/ /no/ /nit/

 このように音節構造が変わりますが、これが困りものなのです。再音節化すると語と語の境界が消えてしまい、逆に語の中に音節の区切りが生じたりするのです。
 英語のリスニングのできない日本人は、リスニングに際してトップダウン(『パルキッズ通信2019年9月号』)で意識的に単語を探しに行きます。しかし、いくら探しても /in/ や /on/ や /it/ は見当たらず、そこにあるのは /i/ と /no/ と /nit(イノニ)/ と英単語では無い音の塊があるのです。

 また、英語は機能語と呼ばれる代名詞(it, him…)、前置詞(at, to…)、冠詞(a, the…)、副詞の一部(on, in…)などは、弱形で発音されます。しかし、学校ではそれら機能語の強形の発音しか教わりません。そのため従順で優秀な学生ほど、英語の実際の音声とは発音もリズムも異なる英語を口にすることになります。

 その他にも様々な発音の規則がありますが、有名なところでは米語の /water/ などに見られる母音間における /t/ の「はじき音化」が挙げられます。
 /t/ の音は語頭と語末、また子音連続の2番目に来たときと、母音に挟まれたときには、それぞれ音が異なります。語頭では帯気音の [tʰ] です。口の前に手を当てて ‘top’ というと手のひらに空気を感じます。しかし ‘stop’ の [t] は帯気音ではないので空気を感じません。さらに ‘pot’ の語末は、カジュアルな発話では [t̚] となり歯茎に舌先がくっついた状態で静止しています。
 このように /t/ にもいろいろな発音の仕方がありますが、最も特徴的なのは /t/ が母音に挟まれると、はじき音(歯茎を一瞬舌先で叩く音) [ɾ] という [d] にも似た音声になります。従って ‘atom’ は ‘Adam(この /d/ も弾音化する)’ と同じ音になります。

 さて、いろいろ見て参りましたが、これら「再音節化」や「はじき音化」など英語の音韻変化の規則を学習し、あるいは日本語の習性である母音挿入などの悪癖を排除する手立てが “速度を伴った多読” です。速いスピードで読むと、母音を挿入している時間的な余裕がなくなり、自然と再音節化が起こるようになり、さらに経済性によるはじき音化も学習し、舌が勝手に動くようになるのです。

 以上が、黙読ではなく音読を勧める所以です。


「多読=読解力の強化」ではない。総合的な英語力を育てる

特集イメージ3 さて、ここからは、多読の総合的な効果についても少し触れておくことにしましょう。

 多読というと何やら「英語好き」な「本の虫」の作業のようで「自分には関係がない」と思われる向きもあるやも知れません。しかし、英語を身につけたいのなら、多読から目を背けるのは賢明とは言えません。
 なぜなら、幼児期に英語を習得する機会を逃してしまった場合には、留学やインターなどの特殊なケースを除けば、日本国内においては “ほぼ唯一” の英語習得法だからです。

 しかし、「結局読めるだけでしょ」と言われてしまえば、確かにそんなイメージがあるのも否めません。ところが、実は多読は「読解力向上」に資するだけの取り組みではないのです。読解力以外に、語彙力、綴り、文法、ライティングスキルにすら好影響を与えます。(Krashen 2004)

 「知らない語に当たったときに無視して読み散らかす多読が、なぜ語彙力に資するのか」という自然な問を浮かべるかも知れませんが、これに関しても多読は答えを与えています。

 日本語の本を読んでいるケースを想像してください。知らない語に行き当たったときに、その都度、辞書にあたりますか?そんなことはないはずです。最近では「ググる」という便利な行動様式がありますが、いちいち「ググる」人も少数派でしょう。

 では、どのようにして人は未知の語を理解するのでしょう。
 単純な話です。未知語に出会ったとき、私たちは常識や知識を使って意味を推測します。未知語が文中に現れる文法的な位置、あるいは前後の文脈からも語の意味は推測できます。

 また、言わずもがなですが、読書において重要なのは一言一句正確に理解することではなく、文脈を捉えることです。(福本, 2004)
 例えば、小説の1ページ数百語を読んだら、その情景を頭に浮かべつつ、数行で説明できる。それが、文脈の理解です。教科書であれば、一語一語の正確な理解も重要ですが、通常のストーリーの場合、全体の把握の方が遙かに重要です。そのように文脈に照らし推測しながら、未知語も新たな語の在庫として語彙に取り入れられるのです。

 「辞書をひかないことが語彙を膨らませる」など、想像がつかないことかも知れませんが、このように多読は語彙すら膨らませます。これは不思議でも何でもなく、私たちが日常的に日本語で行っている極めて当たり前の作業なのです。

 加えて、リスニング力の向上に関しても少し触れておきましょう。

 正しい発音を心がけて読むことで、英語の発音自体が向上することも期待できます。産出(スピーキング)と知覚(リスニング)は連動しているので、正しく発音できるようになれば、聞き取り能力にも好ましい影響が期待できます。
 また、ネイティブと同じスピードで読むことで、実際の英語の発話スピードそのままで英語を理解できるようになります。多読により、日本語を介さずに英語を理解できるようになることも期待されます。(柊元, 2019)

 多読はリーディングばかりでなく、語彙や文法、ライティングやスピーキング能力の向上すら見込める極めて効果が高い学習法なのです。


モチベーションの問題をどう解決するか

特集イメージ3 お金もかからない、隙間時間にできるので時間もかからない、しかも留学生並みの英語力の習得すら期待できる。良いことずくめの英文多読ですが、常にモチベーション問題がついて回ります。

 言語学の世界では、「ヒトの言語習得は本能的に無意識のうちに行われる」と考える人たちと、「学習者のやる気が大切である」と考える人たちに大きく雰囲気が二分されます。
 確かに、現在の中・高から大学の英語教育現場を見渡せば、モチベーションは大きな役割を果たしていることが伺えます。先の高専の報告においても、授業内でのみ多読に取り組むグループと、学外でも積極的に取り組むグループとでは大きく成果が異なります。モチベーションが大切であることは言うまでもありません。
 しかし、他方、幼児の言語習得を見れば、そこにはモチベーションなどは存在しませんし、帰国子女とて親の都合でその環境にいるだけであって、モチベーションはないどころか、マイナスの感情すら抱いているかも知れません。モチベーションがなくても、人は環境から言語を身につけてしまいます。  このように両者を眺めると、国内においての英文多読には、外発的モチベーションと内発的モチベーションの両方が必要だと思われます。外発的モチベーションとは「授業だから」とか「やらなくちゃいけないから」で、内発的モチベーションは「分かるから」とか「楽しいから」などの感情です。

 外発的なモチベーション、例えば「自分でやると決めた」「親にやらされている」で開始してもそれで良いのです。少し分かってくると、「分かるから楽しい」「だからもっと読みたい」という内発的なモチベーションに変わるわけです。

 つ・ま・り。

 “少し分かってくる” ところまでどうにか続けられれば、マイナスの感情は霧散して、プラスの感情が生じ、多読は成功へのスパイラルへと入っていくのです。そして、100万語を読む頃には留学生に匹敵するほどの英語力を身につけることができているのです。

 英文多読。これをやらない手はないでしょう。


 さて、今月号は「英文多読」について書いて参りました。折しも多読用オンライン教材『The Book of Books』が発売となります。
 『The Book of Books』では、240レッスンで13万語の読み物を4回、つまり52万語の多読ができるプログラムになっています。取り組み方は簡単です。150wds/minのネイティブスピードでスクロールする英文を、ナレーションの伴奏に合わせてひたすら読み上げるだけです。
 本を開いたり、CDを用意したりする必要すらありません。オンライン環境があれば、いつでもどこでも “義務的に” 多読に取り組むことができるのです。
 『The Book of Books』のゴールは英検準1級の取得で、準2級以上の保持者が対象の教材です。

 また、『The Book of Books』の姉妹品に、「多読」の前段階である「素読」の取り組みができる『7-day English』があります。こちらは、中学英語程度の語彙と文法で構成されており、英検4級レベル以上、中学の英語を習ったことがある人であれば無理なく取り組める内容になっています。
 『7-day English』は、144レッスンで7万語を4回、合計28万語の素読が可能となっており、ゴールは英語を英語で理解できるようになることで、こちらも英検準1級の取得を目標としています。

 現在『The Book of Books』の予約販売を受け付けております。詳しくは、こちらから。

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*参考文献
『Krashen 2004. The Power of Reading. Santa Barbara: Libraries Unlimited.』
『Krashen 1982. Principle and Practice in Second Language Learning. New York: Pergamon Press』
『中村暢佑他 2015 「入力モダリティによる音韻表象の違い: 促音・非促音の音韻カテゴリ境界を手がかりとした検討」』
『西澤一他 2008 「豊田高専に焼ける英語多読授業の成果と課題」』
『柊元弘文 2019 「第二言語習得における多読の意義及び多読指導実践とその効果」』
『福本亜希 2004 「日本語に教育における多読の試み」』

【編集後記】

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【注目書籍】『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)

特集イメージ9 児童英語研究所・所長、船津洋が書き下ろした『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)でご紹介しているパルキッズプログラムは、誕生してから30年、10万組の親子が実践し成果を出してきた「超効率」勉強法です。書籍でご紹介しているメソッドと教材で、私たちと一緒にお子様をバイリンガルに育てましょう。


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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

1965年生まれ。東京都出身。株式会社児童英語研究所・代表取締役。上智大学外国語学部英語学科卒業。実用英語技能検定1級取得。30年以上に渡る幼児教室・英語教室での教務を通じて幼児の発達研究に携わるかたわら、「パルキッズ」などの英語教材を始めとした幼児向け教材を多数開発。また、全国の幼児・児童を持つ親に対して9万件以上のバイリンガル教育指導を行う。講演にも定評があり、全国各地で英語教育メソッドを広めている。著書に20万部のベストセラーを記録した『たった80単語「読むだけで」英語脳になる本』(三笠書房)をはじめ『どんな子でもバイリンガルに育つ魔法のメソッド』(総合法令出版)『ローマ字で読むな!』(フォレスト出版)『英語の絶対音感トレーニング』(フォレスト出版)など多数ある。

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