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2013年8月号特集

Vol.185 | 中学校に入る前にやっておきたいこと

日本の英語教育の現場で全く行われていないとあることとは?

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
http://palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1308/
船津洋『中学校に入る前にやっておきたいこと』(株式会社 児童英語研究所、2013年)


 日本人は、なぜこれほどにも英語に苦労するのでしょうか。
 答えは既に分かっているので、もったいぶらずに参りましょう。日本人が英語を使いこなせない理由は、至って明快。たった「2つ」しかありません。
 ひとつ目は、英語を聞いても「単語の切り出し」ができないから。つまり、英語の音素(アルファベットと組み合わせ)とその特性(リエゾンなど)を知らないため、英語話者の口から次々と発される英文から「単語」を認識することが出来ないからです。そしてふたつ目は、単語の「価値」を知らないから。これは、英単語を記憶するとき、その単語の持つ多様な「価値」のほんの一面だけを表す「意味(=日本語訳)」とのペアで覚える「単語帳方式」(例:「on=上に」)で頭に詰め込んでいるからです。
 分かりやすくするために、”I’m in on it.”という文章を例にとって、日本人が英語を理解できない「過程」を見てみましょう。
 この文章、 “I’m in on it.” を英語話者が口にすると子音で終わる単語と母音で始まる単語がリエゾン、つまり ‘I’m’ の ‘m’ と ‘in’ の ‘i’、同様に ‘n’ と ‘o’、’n’ と ‘i’ がくっついてひとつの音となってしまい、結果 ‘ai minonit.’という「音の塊」になります。無理矢理カナ表記すれば、アメリカ人はこの文章を「アイム イン オンイッ(t)」ではなく、「アイミノニッ(t)」と発音しているのです。
 そして、ひとたびリエゾンという現象により結合してしまった音の塊 ‘ai minonit.’を聞いた時、私たち日本人は再び元の単語単位にばらばらに切り分けることが出来ないのです。そんな私たちの耳には英文は単なる「音の塊」としてしか響いてこないのです。このようにして、私たちは英語のリスニングが出来ないのです。
 さらに、次の段階、仮に “ai minonit.” を “I’m in on it.” という単語の連続として認識できたとしても、理解できるとは限りません。単語をひとつずつ日本語に訳して、それを文法に照らし合わせて日本語風に並べ替えてみても「私は(I)それ(it)の上(on)の中(in)です(am)」というような、わけの分からない文章になってしまいます。
 私たちは、前者の音の塊から単語を切り出す能力を「リズム回路」、後者の単語を日本語の意味ではなく英語のままの価値で理解することを「単語の価値化」と便宜的に呼んでいます。そして、この両者ともに出来ないことが、日本人が英文を「聞いても聞こえず、読めども理解できない」原因なのです。(ちなみに “I’m in on it.” は “I’m in[私はやる気である] on it[それに関して].” つまり「私も参加するよ」という意味になります。)


| それにしても、出来ないにも程がある

 しかし、それにしてもあまりにも英語が出来ない。学校教育制度の中でも、中学以降の主要な教科としてドカッと存在し、今日では小学校教育でも多くの時間が割かれるようになり、さらに大学受験の際にも、学生たちの「知的格闘力を測る」物差しとして最も重要視されている「英語」です。中学生が塾へ行くといえば、主に英語を習いに行くわけで、さらに高校生が予備校に行く場合にも、やはり英語を習いに行くことが多いわけです。私たちは一体全体、英語にどれ程の時間とお金をつぎ込んでいるのか…。
 さて、そこまで勉強しても英語が出来ない理由、つまり、いつまで経っても既述の「リズム回路の獲得・単語の価値化」を達成できない理由はどこにあるのでしょうか。今回は特に、前者の「聞き取りが出来ない理由」に焦点を合わせて掘り下げて参りましょう


| 染みついた「和風発音」

 ここ数年、大人向けの英語講座や、春夏冬の長期休暇を利用した中学生向けの集中英語特訓を行っています。これらのレッスンで行うことを、英語の「素読」と私たちは呼んでいます。両講座とも、とにかく「正しい発音」で「簡単な英文」を「大量に」読むことを主眼に据えています
 その中で、「簡単な英文」に関しては我々が提供しているテキストがあるのでそれを使用すれば問題ありませんし、「大量に」読むことに関しては、体力勝負(※1)で行っています。ただ、問題なのが「正しい発音」です。これが手強い。
 大人向けのレッスンでは唇や口の形、舌の位置などなどを図解しながら発音してもらいますが、これが一筋縄では行きません。長年染みついた発音の癖はとても頑固で、一朝一夕に治るものではありません。しかも、慣れない口の動きなので、しつこく矯正しても疲れるばかり。労多くして功少なし。ですから、焦らず慌てず、気長に取り組んでもらっています。すると、数ヶ月通っている方は、かなりキレイな発音で英語を口にするようになっています(ご本人は気付かないのですが)。個人差はありますが、家で宿題の音読をしているかどうかは、発音を聞けば分かります。正しく反復練習をしている人ほど、うまくなるわけです。
 さて、一方の中学生たちです。参加者のほとんどは、中学に入ってから本格的に英語学習をスタートした子たち。このレッスンを受けられるのは、中2の冬休みから中3の夏休みまでの間としています。中2の2学期までに習う程度の文法を知らないとレッスンが成立しませんし、中3の夏以降には高校受験で忙しくなる生徒たちに無用なストレスを与えないためです。つまり、英語の「素読」でグンと英語力を向上できるチャンスは1年にも満たない、ごく限られた期間なわけです。
 さて、その中2の子どもたちの発音ですが、彼らはまだ英語を始めて間もないので容易に矯正できると思いきや、意外や意外、これも大人と同様に思いのほか手強いのです。特に成績優秀な子ほど、真面目に「間違えた発音で」繰り返し英語に取り組むので、妙な発音が染みついていて、発音の矯正が困難になります。しかし、ほどほどの成績の子でも程度の差こそあれ、すでに癖がついてしまっていて、正しい発音へと矯正することが困難であることには変わりないのです。
 大人の場合には、「長年にわたっての間違えた発音の繰り返しによって染みついた癖」と考えれば、直しにくいのは分かりますが、英語を学び始めて間もない中学生でも発音矯正が大変だということは、これは長年にわたる刷り込み・定着ということ以外に、「何事か他の要因」の存在を暗示していると考えた方がよいでしょう
(※1 http://ameblo.jp/funatsuhiroshi/day-20120728.html参照)


| 日本語と英語の違い

 考えるに、日本人の英語発音下手にはふたつの要因があると思われます。ひとつ目は日本語の性質によるもので、これは日本語を母語として操る以上、必然的に起きてしまう現象によるものです。そして、ふたつ目は小学校の国語の授業の一環で「ローマ字」として習う、アルファベットと私たちのつきあい方によって引き起こされる現象によるものです。
 日本語は、言うまでもなく英語と違う言語です。ただ、違うといっても、フランス語やイタリア語が英語と違うというのとは次元が異なります。英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語などは、同じ起源を持つ「インド・ヨーロッパ語族」に属します。インド・ヨーロッパ語族がお互いに影響し合ったり、枝分かれしていろいろな言語へと進化したことを考えれば、これらの言語体系は親戚のようなもの。大胆に言い換えれば、方言程度の違いなのです。一方、日本語は、地球の裏側の小さな島国でインド・ヨーロッパ語族とは全く別の独自の進化を遂げています。したがって、フランス人が外国語としての英語を身につけるのと、我々日本人が英語を身につけるのでは、その困難さには雲泥の差があるのです。
 日本語とインド・ヨーロッパ語族の大きな違いは、インド・ヨーロッパ語族がブロックのように単語を組み上げて作られていることに対して、日本語は単語の語尾にいろいろな接尾語をくっつけて文章を紡いでいく「膠着語」である点です。また、音韻学の見地からすれば、日本語は子音で終われないという性質を備えています。
 語順に関しては、文法に関わることなのでここでは触れないことにして、発音に関してもう少し詳しく見てみると、日本語には英語とは決定的に違う性質と、その性質によって引き起こされる習慣があることが分かります。


| 日本語の性質

 それでは、日本人の英語の発音に大きな影響を与えている、「日本語の性質」と「ローマ字との関わり方」のうち、まずはひとつ目の日本語の性質から見ていきましょう。
 日本語の性質で最も際立っている点が、子音だけで音素が成立せず、母音のみ、もしくは子音と母音で1つの音素を構成している点でしょう。その様な特徴をもった「かな」と呼ばれる音素で構成されている日本語の単語は、英単語のように歯切れ良く子音で終わることが出来ないのです。これは、日本人の英語下手に大きな影響を与えています。なぜなら、英語は日本語とは異なり、子音が連続したり、子音で単語を終わることが出来たりするからです。そして、日本人はその様な発音をしたことがないのです。
 日本語が母音で終わるのとは逆に、英単語はそのほとんどが子音で終わります。’sofa, alpha, data, stew, crew’ などや、最後が ‘y’ で終わる単語など、母音で終わる英単語もありますが、子音で終わる単語とは比べるまでもなく数が限られています。’take, hike, considerate’ なども見た目は母音 ‘e’ で終わっていますが、実際には子音で終わっているのです。
 また、’cry, plus, strike’ のように子音が2、3連続することが当たり前のように起こります。これらは日本語では起こらない現象です。
 つまり、母音が必ず入っている音素である「かな」で話す日本人は、「連続する子音」や「子音で終わる単語」を日常的に発することがないわけです。(※関東の人が「~です(des)、~ます(mas)」などという時に、母音が落ちることはありますが、本来は母音が発音されます。)
 そして、そんな「かな」で喋る日本人が英語を口にする時、英単語を「かな化」した発音に変換する作業が、全く無意識のうちに行われるのです
 たとえば、’take, at’ と本来は子音 ‘k, t’ で終わるべき単語に「テーク(teiku), アット(atto)」と、英語では発音されない母音 ‘u, o’ をつけてしまいます。同様にして、連続する子音にもひとつずつ丁寧に母音を割り当てていきます。 ‘drink’ は「ドリンク(dolinku)」、’challenge’ は「チャレンジ(tʃalendʒi)」、’strike’ は「ストライク(sutolaiku)」といった具合です。もともと一音節の単語 ‘strike’ が「かな化」されると「ス・ト・ラ・イ・ク」と五音節になってしまうのです。
 その母音の振り方には一定の法則があるので参考までにここに記しておきましょう。
 ’cab, staff, dog, duck, full, gum, cap, pass, have, six, jazz, push’ のように、’b, f, g, k, l, m, p, s, v, x, z, sh’ の子音には ‘u’ の音がくっつきます。そして ‘sad, cat’ などの ‘d, t’ の子音には ‘o’ がくっつくのです。さらに ‘challenge, touch’ の様に ‘dʒ, tʃ’ の子音には ‘i’ の音が付きます。これを意識せずに、しかも間違えることなくやってのけるのですから、日本人による英単語の無意識的な「かな化」とはなんとも不思議な能力です。


| 「東京農大」は?

 また、上記のように英語を「かな化発音」にする以外にも、英語を日本語風に変換する作業が行われます。日本語に無い発音を日本語にある発音で代用したり、日本語の発音のルールを英語に適用したり、といった現象が起こるのです
 日本語にない発音の仮名での代用は、次の様になされます。
 「ドリンク(dolinku)」「ストライク(sutolaiku)」の様に、本来 ‘r’ であるべき発音が、日本語には ‘r’ の音が無いため ‘l’ の音(厳密に言えば日本語のラ行は ‘l’ の音ではありませんが)で代用されます。同様にして、日本語にはそれらの音が存在しないので ‘this’ が「ディス(dwyisu)」、 ‘five’ が「ファイブ(hwuaibu)」のように、’th’ が ‘d’、’f’ が ‘h’、’v’ が ‘b’ に置き換わります。これらの変換も無意識のうちに行われます。
 また日本語では、書かれている文字と発音される音が異なることがしばしば起こります。「えい→えー」「おう→おー」がそれです。
 例えば、「携帯電話」の「携帯」は読みがなを振れば「ケイタイ」ですが、実際に発音されると「ケータイ」となります。同様に、競馬は「ケーバ」、平和は「ヘーワ」、経営は「ケーエー」となるわけです。
 この自動変換は、日本語の言語世界の中で行われる分には全く問題ありません。しかし、日本語だけに止まらず,私たちはこれを英語にも無意識のうちに適用してしまいます。すると、‘game’ が「ゲーム」‘base’ は「ベース」‘make’ は「メーク」と、本来「エイ」と発音するべきところが「エー」と置き換えられてしまうのです。
 そもそも英語には「エー」という音はありません。日本人なら、何か不満があったり驚いたりする時によく使いますが、アメリカ人は日本にでも来ない限り「エー」という発音をすることはないのです。つまり、きちんと読めば英語の発音通り「エイ」になるところを、日本語のルールに無意識に従うことによって、英語には存在しない「エー」という発音をしてしまうことになるのです。
 ただ、英語には「エー」という発音がないので ‘make, take’ を「メーク、テーク」と発音しても十分通じてしまいます。しかし「オウ」の場合にはそうはいきません。
 日本語では「オウ」は「オー」と発音されます。東京農大は「トウキョウノウダイ」ではなく「トーキョーノーダイ」、東工大は「トーコーダイ」となります。先ほどの「エイ」の変換と併せれば、慶應大学の慶應は「ケーオー」、AO入試のAOは「エーオー」と発音されます。  日本語の世界では全く問題のない、この「オウ→オー」の日本語の発音変換ルールですが、これを英語にも適応してしまうと、全く異なった単語になってしまいます。英語では「オウ」と「オー」は全く別物だからです。
 例えば、’bold(大胆な)’ を「ボールド」と発音してしまえば、’bald(禿げた)’ の発音「ボールド」と区別がつかなくなってしまいます。’bold (bould)’ は「オウ」のまま発音しなければ ‘bald (bɔ:ld)’ になるのです。同様に、’coat(コート)’ も ‘caught(catch の過去形), ‘boat’ も ‘bought(buyの過去形)’ と同じ発音になってしまいます。終いには、先ほどの「r→lの置き換え」と組み合わせれば、’law(法律)’, ‘low(低い)’, ‘row(列)’, ‘raw(生の)’ は全てが ‘lɔ:’ 、つまり「法律」を意味する’law’ の発音になってしまうのです。

 少々ややこしい話になってしまいましたので、整理整頓しましょう。
 日本人が英単語を発する時、私たちは無意識のうちに子音ばかりの英単語に丁寧に1つずつ母音を付けて仮名音に置き換えます。そして、日本語の仮名に無い音は、近い音で代用します。さらに日本語の発音のルールに則って英単語を発音してしまうのです
 これは誰が教えるわけではなく、自然と行われることから、母語として日本語を操る日本人が共通して持っている抗いがたい性と呼んで良いでしょう。つまり、日本人である限り、英語の発音が妙な具合になってしまうのは生理現象と呼んでも良く、ある程度は仕方がないのです。


| ローマ字

 それでは、次に日本人の英語の発音下手に少なからず影響を与えていると思われるもうひとつの存在、「ローマ字」について考えていきましょう。
 私たちの日常生活には、ローマ字があふれています。交通標識には地名が漢字と共にローマ字表記されていますし、バスや電車などの公共交通機関に使われる案内板にも、漢字仮名表記と共にローマ字が使われています。日本人なら日本語を読めばよいのでローマ字は不要です。町中にあふれているローマ字とは、仮名や漢字の読めない外国人たちが、行き先を見失わないようにするための「添え書き」なのです
 ローマ字、ローマンアルファベットの文字を使って日本語を表記することの歴史は古く、日本にやってきた外国人たち、宣教師たちも使っていたはずです。そして、幕末の頃に来日していた医師のヘボン氏が「ヘボン式ローマ字」を確立します。つまりは、「漢字や仮名を使えない人たち」と「日本語」を繋ぐ記号としてのローマ字システムがとりあえず確立します。
 この後、後に「訓令式」の元となる「日本式ローマ字」が作られます。これはヘボン式と違って、日本語の音韻学的見地から作られています。音に比較的忠実なヘボン式では ‘ta, chi, tsu, te, to’ と表記されているタ行が ‘ta, ti, tu, te, to’ と決められています。
 つまり訓令式では実際に発音すると「た、てぃ、とぅ、て、と」となる音を「これは、たちつてと、と読むのですよ~」と言っているわけです。訓令式によれば「津市」= ‘tusi(トゥスィ)’ であり、「七時」= ‘sitizi(スィティズィ)’ であるわけです。ヘボン式に比べて見た目はきれいな(子音と母音が整然と並んでいる)のですが、必ずしも音と表記が一致しないのが訓令式です。
 これは、訓令式で書かれたものを外国人が読んでも、日本人に必ず通じるわけではないことを意味します。その意味では訓令式は外国人のためのモノではなく、ひょっとすると(要不要は別として)日本人のための代物となるわけです。
 仮に、訓令式ローマ字が日本人のためのものなら、我々にはすでに「仮名」という素晴らしい日本語の表記体系があって、それを用いれば用は足りるのに、新たな体系が創造されたことになります。ローマ字の意義に関しては、「日本人が西洋化できないのは複雑な漢字のせいだ、漢字・仮名を廃して全てローマ字にすべきだ」などという極論が交わされた歴史もあり、まだ議論が尽きないようです。
 しかし、すでに触れたように、日本人は子音のみで話すことが無く仮名で話します。それはつまり、日本語の音素は仮名であり、それをさらに分解する意味は、私にはよく分かりません。(「キーボード入力で便利だ」という声も聞こえそうですが、ワープロ登場の遙か前からローマ字が存在することを考えれば、それがローマ字が存在することの本義でないことは明かです。)再びややこしい話になってしまったので、この辺で話を先へ進めましょう。


| アルファベットをいつ学ぶ?

 誤解の無いように記しますが、決してローマ字が悪いとか、不要であるなどと言いたいわけではありません。ただ、あまりにもローマ字のあり方とその教え方が混乱しているのが、私たちの英語との関わり方にまで影を落としていることを憂えているのです。
 私たちとアルファベットとの正式な関わりは、小学校の国語の授業の一環で行われるローマ字教育から始まります。ここでは「訓令式」を学ぶことになります。それ自体は全く問題ないのですが、ローマ字を学ぶためにはローマ字の音素となる「アルファベット」を教えなくてはいけません。そして、小学校の国語の先生からアルファベットを教わるわけです。これが私たちとアルファベットとの正式な出会いです。
 そしてその後、中学校に入ると、訓令式よりは音に忠実な「ヘボン式」を学びます。余談ですが、私の名前「船津洋」はヘボン式、またはパスポート式では ‘Funatsu Hiroshi’ と表記することになりますが、実際の発音は ‘Hunatsu Hiloshi’ です。このように、もちろんヘボン式も万能ではありません。
 問題なのは、ローマ字を学ぶことではなく、ローマ字を学ぶ過程で、または英語を学ぶ過程で、あることがすっかり抜け落ちてしまっている点です。
 そうなのです。私たちは「アルファベットの正しい発音」を学ぶチャンスを与えられないまま、ついには大学まで行ってしまうのです。そうして、大学以降、大半の日本人が英語から離れていくのです。
 ひょっとすると、’ABC‘ を ‘ei bee see‘ ではなく、’エービーシー’ つまり ‘e: bee she‘ と教わったかも知れませんし、ひょっとすると、大人になってからも ‘エービーシー’ と発音しながら、我が子にアルファベットを教えているかも知れません。そして、その様にして育った「アルファベットの正しい発音」を知らない人たちは、’Amazing Grace’ を ‘Amajing Grace’ 、 ‘Jingle Bells’ を ‘Zingle Bells’ と歌ったりするかも知れません。
 私たちは、たった26文字のアルファベットをまともに発音できないのです。繰り返しますが、先生にも子どもたちにもその責任はありません。ただ、偏に「日本人はアルファベットを勉強する機会がない」という単純な事実があるだけなのです

 日本人は英語の聞き取りが出来ないし、発音も良くない。だから、聞く練習と話す練習をすべきだと考えるのは自然です。そこで、英会話学校へ通ったり、留学しようと考えるのも自然でしょう。また、学校の英語教育現場では「日本人の英語ではなく生の英語に触れるべき」との考え方で、外国人が随分と活用されるようになっています。それはそれで結構なことです。しかし、その音声英語を身につけようとする時、まず知るべきは全ての英語の音の元となる「アルファベット」のはずなのです。
 今月号のタイトルは「中学生になる前にやっておきたいこと」ですが、やっておくべき事とは「アルファベットの学習」のひと言に尽きます
 中学校へ入って英単語を読むようになれば、子どもたちは自分の知識の全てを総動員して英単語を読もうとします。そのとき彼らの頭の中にある英語の知識と言えば、「小学校で習ったローマ字」なのです。そして英単語を、ローマ字の読み方で読む。母音が付いていない部分は、本稿の前半に述べたところの、母音を付けて「かな化」する。さらには、日本語にない音を近い仮名で代用したり、日本語の発音のルールを当てはめて読んでみたりする。それは偏に、たった26文字のアルファベットの正しい知識がないために起こっていることなのです。
 中学校で英単語に接する時、彼らにアルファベットの正しい知識があれば、かな化する必要も無く、英語をアルファベットのまま、英単語のまま読むことが出来るのです。

 出典は失念しましたが、ゴルフのスイングには「正しいスイング」と「間違ったスイング」しか無いそうです。正しいスイング以外は、全て間違えているスイングだそうです。そして、間違ったスイングで練習することは、それすなわち、間違ったスイングが身につくと言うこと。間違ったスイングで練習すればするほどに、間違ったスイングが染みついてしまい、そうなってしまった人に正しいスイングを教え直すことは困難を極めるそうです。そこで、なるべく初心の頃に正しいスイングを教えるのが良いのだそうです。ふむふむと納得できます。
 英語も同じです。間違った発音で繰り返し練習して、間違った発音が身体に染みついている人に、正しい発音を教え直すのは大変な作業です。もちろん、間違った発音が身体に染みついている中学生でも大人でも、繰り返し練習することで正しい発音を身につけることは出来ます。
 ただ、もし叶うのであれば、間違った英語の発音を身につける前、中学校に入る前に、いや小学校でローマ字を習う前に、正しいアルファベットを身につけておければ、これほど楽なことはありません
 繰り返しますが、アルファベットはたった26文字しかありません。これからでも遅くはありませんので、これを機にアルファベットと正面から向き合ってみるのもまた一興。お子さんと一緒に取り組まれてみてはいかがでしょう。


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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

株式会社児童英語研究所 代表。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。

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