ハワイアンジャーナル パルキッズ通信 | フォニックス, 読解力

2025年2月号ハワイアン子育てジャーナル
Vol.163 | 日本人に英語が身につかない本当の理由とは?
written by 船津 徹(Toru Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2502
船津徹「日本人に英語が身につかない本当の理由とは?」(株式会社 児童英語研究所、2025年)
「なぜ日本人は英語下手なのですか?」という質問をよく受けます。
私はアメリカで学習塾を経営し、日本人、中国人、韓国人などアジアの子どもたちを教えていますからわかりますが、「日本人でも英語は身につきます!」 日本人だけが「英語ができないDNA」を祖先から継承しているわけではありませんので、ご安心ください!
ではなぜ日本人は英語下手なのか?
私が考える一番の原因は「学校教育の目指すレベルが低すぎる」からです。文科省が目標とする英語レベルは高校卒業までに「CEFR A2/英検準2級相当」です。ちなみにCEFR(セファール)は言語力を評価する世界標準のガイドラインです。A1からC2まで6段階にレベルが分かれており、A2は下から二番目のレベルです。
日本の高校生が「CEFR A2」を目標にしているのに対して、韓国、中国、台湾の高校生は、日本よりも2段階上の「CEFR B2」を目標に定めています。このレベルに到達すれば、海外大学への進学も視野に入ってきます。また英語力を武器に将来グローバル企業で働くことも夢ではありません。国際基準で「実用的な英語力を習得している」と言える最低ラインが「CEFR B2」なのです。
ちなみにCEFRガイドラインによると、B2の技能レベルは以下の通りです。
「自分の専門分野での技術的な議論を含めて、抽象的な話題でも、具体的な話題でも、複雑な文章の主旨を理解できる。英語ネイティブ話者とはお互い緊張しないで普通にやり取りができるくらい流暢かつ自然である。幅広い話題について明確で詳細な文章を作ることができる」
CEFR B2は、国際基準では「平均的なレベル」ですが、日本の常識では「英語の達人」と言える英語力です。果たしてこのレベルの高度な英語力を海外留学せず、日本国内で身につけることは可能なのでしょうか?次に英語力の底上げに成功した韓国の例を見ていきましょう。
日本と韓国の英語教育の違いは「読解力」
韓国は1997年から政府主導で英語教育改革を行い、英語教育の目標を「高く」しました。それに伴い英語教育のスタートが早期化し(現在は小学1年生から)、英語の学習時間が増え、英語の本やテキストを読む量が増え、英語ができる生徒が増えたのです。20年前は日本と同じ英語下手で知られていた韓国ですが、今ではアジアでも香港に匹敵するほど「英語が得意な国」になっています。
ちなみに韓国の「中学英語教科書」は日本の英語教科書の「3倍以上」のボリュームがあります。(言い換えると1年間で日本人の3年分学習していること)収録されている英文も(日本の文法重視の不自然な英語でなく)ネイティブ向けに書かれた本やテキストからの抜粋が中心で、実践的な作りになっています。
授業のほとんどは英語ネイティブの先生が英語オンリーで行い、授業内容はテキストや本の音読、英語で質問に答える練習、英語でのディスカッション、英文メールの書き方、エッセイライティング(英作文)など、ハイレベルで実用的な指導が行われています。
小、中、高の英語教育レベルが高くなったことで、大学受験で求められる英語の難易度も高度化しました。世界一過酷と言われる韓国の大学受験で勝ち抜くために、学生たちは英語により多くの時間と労力を割くようになり、学生の英語力が一気に向上したわけです。
一方で、日本の英語教育改革と言えば、英語教育のスタート時期こそ小学3年生と早期化しましたが、指導内容が「コミュニケーション」に重点が置かれ過ぎており、肝心の英語力全体の向上にはつながっていません。
CEFR B2のガイドラインにある「技術的な議論、抽象的な話題でも、複雑な文章の主旨を理解できる」というのは「高い読解力」がなければ実現できません。会話の練習に留まらず、「読解力」を鍛えて、語彙力、文法力、構文力、表現力を向上させていかなければ、幼稚な英語止まりなのです。
日本人の英語力を向上させるには、韓国が実践したように、目標レベルを高め、教科書のボリュームを増やし、「読解力を鍛える」ことが近道です。事実、私の学習塾では、(日本語が一切書かれていない)ネイティブ向けのテキストを使うことで、生徒の英語力向上に大きな成果を上げています。
リーダーズの多読が読解力を鍛える最高の方法
日本の英語教育からすっぽり抜け落ちているのが「英語を読む訓練」です。ネイティブ向けに書かれた「生きた英文」を大量に読む指導(いわゆる英語多読)がほとんど行われないため、英語を読むスピードが向上せず、語彙力が増えず、読解力が育たないのです。(読書スピードと読解力は比例することが多くの研究で分かっています)
英語の教科書や問題集以外に、ネイティブ向けに書かれた英語の本、雑誌、ウェブサイト、ブログなどを読んだ経験があるという人は、ほとんどいないのではないでしょうか?
「ネイティブ向けに書かれた英語を読め!」と言うと、分厚いペーパーバックを長い時間かけて読み解く「修行」を連想するかもしれませんが、英語多読は、やさしくて短い本を大量に読むことで読解力の向上を目指す学習法です。
英語圏では「リーダーズ」と呼ばれる多読用の本がたくさん開発・販売されています。リーダーズは英語力が弱い子どもが(辞書なしで)読み進められるように、単語や文法を簡易化して書かれている段階的な本です。教科書では学ばない日常会話や表現が豊富で、実用的な英語力獲得に有効なツールです。
たとえば、単語数200語の初心者向けリーダーズであれば、2分で1冊を読み終えることができます。学習時間はたった2分間ですが、ストーリーは最初から最後までしっかりと完結しており、読書後に物足りなさを感じることはありません。
最初は超簡単な本からスタートし、徐々に文字数を増やしていくことで、確実に英語力を向上させていくことができます。私はアメリカに移り住んできたばかりで英語が全くできない子どもにリーダーズの多読を教えていますが、英会話を含む英語力全体の向上に高い効果が期待できます。
多読は日常的に英語を聞いたり話したりすることがない日本やアジアの国々の人にとって極めて有効な学習法です。英会話のように相手がいりませんし、本一冊あれば、生きた英語に、いつでも、どこでも、触れることができるのです。
英語多読を成功させる秘訣は「難しすぎる本を読まないこと」に尽きます。やさしくて短い本を一冊、また一冊と読み進めることで、「英語の本が読めた」という達成感と成功体験を積み重ねることができます。
フォニックスとサイトワーズで「正しい発音」を身につける
英語多読の前提となるのが「正しい発音」です。自己流の読み方、日本語アクセントが強い読み方では、読書スピードが遅くなる上、実際の会話の場面で通じないことが多くなります。この問題を解決するにはフォニックスで英語の正しい発音を教えることが効果的です。
日本の子どもが、最初に「ひらがな五十音」を習うように、英語圏の子どもは「フォニックス」で英語の読み方を学びます。フォニックスは子どものための読書指導ですが、大人もフォニックスを学ぶことで発音を劇的に向上させることができます。
今はインターネットを活用すれば、いくらでも(無料で)フォニックスを学ぶことができます。YouTubeで「Phonics」「フォニックス」と検索してみましょう。ネイティブ発音を教えてくれるフォニックス動画を見つけることができます。
もう一つ、英語の発音を高める学習が「サイトワーズ/Sight Words」です。サイトワーズは英語の頻出単語であり、ネイティブ向けに書かれた英語の本やテキストに何度も繰り返し出てくる最重要単語です。
サイトワーズは、本によく出てくる単語を、よく出てくる順に学習するシンプルな取り組みですが、高い学習効果があります。というのも、あらゆる活字化された英語の「50%は頻出100単語」で、そして、「65〜70%は頻出300単語」で構成されているからです。理屈では、頻出300語のサイトワーズを覚えれば、あらゆる英語の70%が読めるわけです。
サイトワーズはリーダーズにも繰り返し登場しますから、練習して正しい発音を身につけておくことをお勧めします。サイトワーズもYouTubeで検索すれば、ネイティブ音声付きの動画を見つけることができます。
フォニックスとサイトワーズは、どちらも英語圏では当たり前に指導しますが、日本の学校教育ではほとんど取り入れられていません。子どもに英語を身につけさせたいが何からスタートしていいのか分からないという方は、フォニックスとサイトワーズを強くお勧めします。
【私が開発したTLCフォニックスは「日本人の子どもが家庭学習で正しい英語発音を身につける」ためのオンライン教材です。ご興味ある方はウェブサイトをチェックしてください。<TLCフォニックス公式サイト>】
本当に多読だけでCEFR B2が達成できるのか?
最後に「本当に英語の本を読むだけで英語力が身につくのか?」と疑問に思った方に二つの事例をご紹介しましょう。
中学3年生で「英検1級」に合格したミユちゃん。1次(筆記)は85%、2次(面接)は77%の得点率で余裕の合格でした。でもミユちゃんは帰国子女ではありません。またインターナショナルスクールに通っていたこともありません。家庭学習だけで、小学6年生で英検準1級合格、そして中学3年生で英検1級合格を勝ち取ったのです。英語習得の秘訣を母親に聞いた所、以下の答えが返ってきました。
「英語を英語のまま理解できる力」を身につけることができたのが、最大の理由だと思います。日本の小中学校に通いながら「英語を英語のまま理解する力」を向上させていく手段は、「日々英語を読むこと」に尽きると思います。
東京都の公立小学校に通うM君は小学4年生で「英検準1級」に合格しました。M君も海外経験が全くない「完全国産バイリンガル」です。どうしたら日本で「CEFR B2レベル」の英語力を「小学4年生」で身につけられたのか?母親に質問してみました。
「英語の本好きに育ったことが大きいと思います。家では毎日英語の本を読んでいました。私の仕事は図書館や書店で子どもが好きそうな本を探してくること。海外の同年代の子どもに人気の本を見つけることでした。これまでに1000冊は英語の本を読んでいると思います。」
以上から分かる通り、英語圏で暮らさなくても、インターナショナルスクールに通わなくても、英語の読書だけで「CEFR B2」を達成することができるのです。もちろん簡単な道のりではありませんが、大人も子どもも、実用的な英語力を身につけたければ「英語多読」にチャレンジすることをお勧めいたします。
「強み」を生み出すノウハウを解説する本
拙著【強みを生み出す育て方】は、強みの見つけ方・伸ばし方を、科学的エビデンスをベースに、家庭で簡単に行える35の具体的なメソッドに落とし込んだ1冊です。「この世に強みのない子など、いない。すべての子が“強みの芽”を持って生まれている!だからこそ、1人1人に合った“強み育て”が大切だ」。これが、本書でお伝えしたいことです。
前半では、わが子が生まれながらに持つ「気質5タイプ」「才能5タイプ」と「ピッタリの習い事」を判定し「強みの芽」を見極めます。さらに、全タイプの強み育てにおいて不可欠な「やる気の引き出し方」「学業と習い事の両立方法」について具体的ノウハウを体系化しています。
幼児から小学生のお子さんを育てている方、子どもの「強み」がわからない、どんな習い事が向いているのかわからない、何が得意なのかわからないという方におすすめです!ぜひご一読ください。
『強みを生み出す育て方』ご購入は以下から
パルキッズ通信限定特典「わが子の強み発掘シート」
今回、パルキッズ通信の読者限定で、こどもの隠れた特性がわかる!【わが子の強み発掘シート】をダウンロードにてご提供させていただきます。ダウンロードいただいた「わが子の強み発掘シート」と書籍を活用しながら、お子さまの強みを見つけていきましょう。以下から!【わが子の強み発掘シート】がダウンロードできます!ぜひお子さんの強み探しにご活用ください!
前の記事「パルキッズよくある質問トラブルシューティング」 | 次の記事「今月のお知らせ」

船津 徹(Funatsu Toru)
1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2502年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。