Vol.170 | 正しい音で読めばこんなにスゴイ!

アルファベットの音を知ることが読解力のはじめの一歩

編集注

本記事は2012年公開当時の表現を残しています。本文中の「右脳的/左脳的」という表現は、現在では脳半球を単純に二分する説明ではなく、主として非明示的・暗示的に進む学習と、明示的・分析的に進む学習の違いを説明するための旧来の表現として位置づけています。記事の中心にある、幼児期に音声から形成された言語能力を、その後の読みや明示的学習へ接続するという考え方は現在も維持しています。

本記事の要旨


正しい音で英文を読むことには、どのような意味があるのでしょうか。英語を日本語の音に置き換えて発音していると、英単語の違いや英文の音のつながりを十分に捉えられないことがあります。英語と日本語には、母音や子音の種類、音の組み合わせ方、アクセントに違いがあります。英語を聞き取る力と英文を理解する力を育てるためにも、英語の音を意識して学ぶ必要があります。

日本語の「ん」は前後の音によって発音が異なり、英語のnといつも同じではありません。また、「エイ」が「エー」と発音されるなど、日本語で自然な音の習慣を英語に当てはめてしまうことがあります。日本語と英語のアクセントの違いにも触れ、母語の音のルールに従って外国語を発音する傾向を説明しています。英語には日本語にない母音や、母音を挟まずにつながる子音があるため、単語を日本語読みするだけでは音の違いが見えにくくなります。

大人の学習では、正しい発音で比較的易しい英文を大量に読み、日本語に訳さず英語をイメージで感じる練習を勧めています。中学・高校レベルの英文を使い、発音指導と「単語の価値化」を組み合わせる方法です。難解な英文ばかりに進まず、基本的な英文を正しい音で読み続けることを重視します。

幼児の英語教育でも、音声への親しみだけで終わらず、読解力まで育てる必要があります。かけ流しによって英語を聞き、語に意味を与え、文章をイメージできるようになっても、文字を読めなければ新しい情報を自分で取り入れられません。絵本の暗唱で英語の音を口にし、フォニックスによって文字と音の関係を学ぶことが、読書への入り口になります。hat、hot、hutのような違いを「勘」で発するだけでなく、音と綴りを結びつけて理解することを目指します。英語を聞ける、話せる段階を「花」に例えるなら、その先に読解力という「実」をつけることが大切です。

※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu/about-palkids/reading-comprehension/1205/
船津 洋(Funatsu Hiroshi)『Vol.170 | 正しい音で読めばこんなにスゴイ!』(株式会社 児童英語研究所、2012年)

今日の日本はかつてないほど「英語」であふれかえっています。もとい、社名や品名、地名や駅名など、もともと英語ではない言葉、つまり日本語をローマ字表記している物が多いので、「英語」ではなく「アルファベット」で溢れかえっていると言い換えた方が正確でしょう。このアルファベットは日本人の生活の中に深く浸透していて、かなや漢字と並んで日常生活にもはや欠かすことが出来ない存在となっています。

牛肉・オレンジの自由化に際して「日本人は腸が長いから、、、」などとどこかの政治家が言ったような記憶がありましたが、一説によると日本人は草食なので肉食の西欧人より腸が長いらしいです。まぁ、生物学的なことはよく分かりませんが、日本人は確かに “ある意味” 消化吸収の良い国民です。

子どもが生まれれば神社へ参り、人生の最後は仏教で送ってもらう。仏教徒であるにも関わらず、結婚式は神前だったり、キリスト教式の教会で行ったりもします。それだけではありません。クリスマスにバレンタインデー、最近ではハロウィーンなどもかなり広く行われるようになっています。これらはキリスト教を中心とした欧米的な行事ですが、その辺、つまり神式なのか仏式なのか、またはキリスト教式なのかにはあまりこだわることなく、スムーズに消化することが出来る人たちが住む島国が日本という国なのです。

もっとも、なぜか中東情勢には疎く、イスラム教やユダヤ教に関してはあまりその文化を取り入れることには熱心ではないようですが。

そもそも、土着の八百万の神信仰を日本独自の文化とすれば、仏教ですら海外からの輸入です。仏教は中国経由でやって来たので、中国語も同時に日本に大量に輸入されました。そこで輸入された漢字を消化吸収して、日本古来の大和言葉と融合させてきたのです。我々が今、日本語だと思っている漢字は、もともとお隣の中国の言葉なのです。

日本人の凄さはそれを借用するばかりか、独自に進化を遂げさせてしまっています。もっとも近代中国語も原型が分からないほど省略されてしまっています。中国語とは共通する漢字が多いので、何となく分かるような気もしますが、日本語として使っている漢字をそのまま中国で使えるかというと、そうではないのです。

このように考えると、もともと西洋の表音記号である「アルファベット」もスムーズに取り入れて、都合の良いように使っている...ある意味、草食を自負しながら、実は何でも消化してしまう雑食獣の凄味を感じてしまいます。「アルファベット」もいつしか「漢字」と同じ運命を辿るのかも知れません。いや、もうすでに辿っている途中かもしれません。

アルファベットの正しい発音

さて、中国語の話は専門家の方に任せるとして、気づかない内に問題となってるのが「アルファベット」と日本人の関わり方なのです。これは拙著『ローマ字で読むな!』(フォレスト出版)でも詳しく触れていることですが、全ての日本人が英語を必修科目として学ばなくてはいけない立場におかれているにも関わらず、その英語を構成する表音記号である「アルファベット」の学習があまりにもお座なりにされています。 「日本人は英語の読み書きはできるが会話ができない」と言われます。これはもちろん事実ではありません。「日本人は英会話どころか英語の読み書きもできない」と言った方がより正確でしょう。ただこの「会話が苦手」という点に関しては、異論の余地はありません。英会話はできないのです。それはなぜでしょう。この問いに対しては「学校で会話は教えてくれないから」「英語に接する機会が少ないから」などが挙げられます。

しかし、では英語に接する機会を増やせば英会話ができるようになるでしょうか? 英会話スクールで英会話ができるようになったという話は寡聞にして知りませんし、留学しても、特に「語学」留学をいくらしてもハンバーガー屋のドライブスルーで注文をすることすら十分にできない人がたくさんいるのです。

英語を大量に聞けばよい、という人もいますが、仮に英語を大量に耳にするだけで英会話できるようになるのであれば、洋楽好きの人や、洋画好きの人たちなどはそれこそ1日数時間も英語を耳にし続けているわけですから、英語はぺらぺらのはずです。耳からの学習は音に対する敏感性の高い幼児期だからこそ、効力を発揮するのです。 上記のように語学留学、英会話学校、リスニング教材、倍速学習など様々なメソドが提唱されていますし、終いには「英語など勉強しなくてよい」という意見までありますが、意外にも基本中の基本のところにだれも手をつけていないようです。なぜかあまり議題に上がらない、しかもとても大切なものを我々は忘れているのです。

小学校ではローマ字を日本人の国語の先生から習い、中学校でもあまり時間を割いて教わることのない文字の学習、つまり「アルファベット」をしっかりと学習をしていないのです。

「ABC」からというけれど

 事の始めを「いろは」や「ABC」になぞらえることがあります。しかし、現実問題として英語の事始め「ABC」から始まるアルファベットをほとんど勉強していないのです。英語を構成する音の基本となるアルファベットの正確な発音すら知ることなしに、やれ「英語が分からない」「英語が聞き取れない」と頭を抱えているわけです。基本ができていないところにモノを構築していくことを「砂上の楼閣」などといいますが、英語の場合には砂上どころか、土台のことなどすっかり忘れてしまって、せっせと大楼閣を建築しているようなものでしょう。 英語は日本語と違う言語ですので、両者の音は必ずしも全てが共通しているわけではありません。例えば、日本語には‘f’‘v’などの下唇と上の歯をこすり合わせる音はありませんし、‘th’の舌と上の歯をこすり合わせる音もありません。‘c’の発音に該当する仮名もないので、「see」というべきところが、「she」になってしまったりします。‘r’もないので、日本語のラ行により近い‘l’の音に自然に置き換えられてしまいます。関東では関西より母音が省略される傾向が強いので‘x’なども「エックス」ではなく母音なし「eks」と、かなり上手に発音できますが、この音もそもそも日本語にはない音なのです。

逆もまたしかり。日本語には英語にない音があります。例えばアルファベットの最初の音‘a’ですが、これを「エー」と呼ぶことが自然に行われています。しかし、英語には「エー」という発音はありません。‘a’は仮名表記すれば「エィ」であって、「エー」ではないのです。「英語、映画、携帯」などなど、本来「エイゴ、エイガ、ケイタイ」であるべきところを、日本語では「エーゴ、エーガ、ケータイ」と発音する自然の法則(癖)があるのです。すると、英語を発する時にも自然とこの法則が適用されて、「cake」は「ケーク」、「make」は「メーク」、「base」は「ベース」となります。

また、五十音の最後に来る「ん」の音もアルファベットでは ‘n’ が割り当てられていますが、事はそれほど単純ではありません。アルファベットの‘n’ の発音は上蓋に舌がくっつく発音ですが、日本語の「ん」は必ずしもそうではないのです。

「本店」という時の「ん」の発音は舌の位置が ‘n’ に近いのですが、例えば「本願寺」の「ん」の時の、口の形と舌の位置はどこにあるでしょう。口は開いていて、舌は奥の方でどこにも接していません。この発音は英語では「thank」という時の‘ŋ’の発音に似ていて、単なる‘n’ではありません。「本番」の「ん」は ‘n’ ではなく、口を閉じた ‘m’ の発音ですし、「本心」の「ん」に至ってはアルファベットで表記することができない音なのです。

日本人は、英単語の中に ‘n’ を発見するたびに、ほとんど恣意的にある程度の規則性はあるもののいろいろな「ん」の発音に置き換えているのです。

英語は英語、日本語は日本語

さらに、日本語と英語の違いにもう少し触れてみましょう。発音以外にも「アクセント」において英語と日本語のルールが全く異なることに気づかされます。 外国人が日本語を話す時の独特のアクセントがありますね。例えば「こんにちは」という時、日本人なら最初は低く続いて高く「こんにちは(kon nichiwa)」と発音します。しかし、西洋人たちは「こんにちは(kon nichiwa)」と「に」の音にアクセントを置きます。英語にはまず、「子音にアクセントを置けない」というルールがあるので、‘n’ と表記されている「ん」にアクセントを置けないのです。さらにひとつの単語でアクセントを置く場所は1音節に限られますので、日本語のように「んにちは」の全てにアクセントを付けてフラットに発音することができません。そこで、彼らのルールに則ると自然と「こんにちは」もしくは「こんにちは」となるのです。 少し話がアルファベットから逸れていますが、脱線ついでにもうひとつ付け加えると、二重母音のアクセントも英語と日本語では異なります。例えば「会社(kaisha)」のアクセントは「かいしゃ(kaisha)」にありますが、アメリカ人などは「かいしゃ(kaisha)」と発音します。これは、二重母音‘ai’‘ei’‘oi’‘ou’などなど母音が2つ続く場合に、必ず最初の母音にアクセントが来るのが英語のルールだからです。このようなことからアメリカ人達の日本語は独特のアクセントを持つことになるのです。試しに日本語を話す時、二重母音は全て頭の母音に、さらに「ん」にはアクセントを付けずに、ひとつの単語にアクセントは1カ所というルールを守って話してみると、アメリカ人ぽくなりますよ。

わずか50数種なんです

日本語と英語が、そもそも違うことはお分かりいただけたでしょう。加えて外国語を話す時に、どうしても「母語のルールに則って外国語の音を変化させてしまう」傾向があることも分かりました。ここで「だからなんだ」「通じればよいではないか」と開き直ってしまってはいけません。それでは、従来の「成果の上がらない英語教育」から抜け出すことができないのです。英語をしっかりと身につけたいのであれば、アルファベットに敬意を表して、「英語の発音」をしっかりと練習すればよいのです。 アルファベットで26文字で表される英語の発音はわずか50種程度しかありません。特徴としては「母音が日本語より圧倒的に多い点」と「子音同士が母音を間に挟むことなくくっついてしまう点」です。特に母音は日本語にない音があるので、そのあたり少し練習を要しますが、それにしてもわずか12種、二重母音を入れても20数種に過ぎません。加えて子音が20数種です。しかも、日本語に近い音もたくさんあるので、50種全てが難しいわけではないのです。ちょっと練習すれば誰でもできるようになります。

正しい発音でたくさん読む

昨年から、東京のNHK文化センターで英語の講座を受け持っています。対象は大人で、「日本語に訳さず英語をイメージで感じるようになろう」という趣旨の講座です。この講座の中で行っているのが、主に発音指導(*)と単語の価値化()です。中学高校レベルの比較的優しい英文を、正しい発音で、日本語に訳すことなく読み進めていくことで、英語のリスニング力、理解力を向上させていくことをゴールとしています。 また昨年の暮れに、中学生向けに1日特別講座を行ったところ、効果てきめん。NHK以外でもスタッフや有志向けに不定期でセッションを行っていますが、皆かなり手応えを感じているようです。

「正しい発音で大量の英文を読む」。 たったこれだけのことなのですが、これがとても高い効果を上げることは、著名な英語の先生方の著作物にも繰り返し登場しているので信頼できる方法と言えます。しかしそれがなかなか広く実践されるに至らず、「本当に学ぶ意欲のある」「英語学習方法に関していろいろな書物を読みあさり本質を発見できる」しかも「それを実践するモチベーションのある」ごく少数の方々だけがそれを実践して、英語を身につけて行っているのでしょう。ただ、それ以外の方々にはこのシンプルで、しかも実効性のある方法はあまり顧みられることはないのです。そして、いつまで経っても「英語ができない」といっている私たちが、ここにいるわけです。

「ひと区切り」まで英語力を育てましょう

期せずして、大人の学習法のような語り口になってしまいましたが、実は大量の英語に正しい発音で接することは、幼児の英語学習にとっても不可欠な取り組みです。

幼児は「パルキッズ」で音の環境を日々家庭内に作り出すだけで、英語を聞き取るようになり、続いて聞き取った単語を蓄積し、さらにその単語に意味づけをしていき、最終的には文章を聞いた瞬間に、文全体をイメージ化できる能力を身につけていきます。

ただ、ここで終わらせてしまってはいけないのです。その先の「読解力」まで持っていかなければ、せっかくの英語力も消えてしまいます。 英語が理解できる、話せるようになることは、植物に例えれば「花を咲かせる」ことであると言えるでしょう。花見をして花を愛でることも結構なことですが、植物は花が咲いた後には「実を付ける」ことを忘れてはいけません。花が咲いた後には「実の収穫」があるのです。それが、「読解力を身につける」ことによって達成されるのです。この収穫まで行ってようやく英語教育はひとつの区切りを迎えます。

幼児は大人と違って耳がよいので、英語を聞いたままに吸収します。短母音も二重母音も日本語にない子音も、彼らは聞き取って実際に発音することもできます。

ただ、ここでひとつ問題なのが、それがとても曖昧であること。

彼らは絵本の暗唱などを通して発音する時、‘hat’‘hot’‘hut’などの短母音の違いも正確に発することができます。ただ、これはあくまでも「勘」のレベル。たまたま上手にできるのではなく、しっかりと理解した上で上手にできることが大切です。それを育てていくのがフォニックスを中心とした「音の学習」なのです。

右脳期の幼児には、まずは絵本の暗唱で英語の音を徹底的に口にすることをさせます。そして、読む感覚を身に付けます。そして、フォニックスを学ぶことで、文字と音の関係をしっかりと身につけていくことが大切なのです。ひと度しっかりとルールが身につけば、それは一生使える能力として残ります。しかし、曖昧なままの英語力だと、日常的に日本語しか使わない環境である日本にいる限り、どんどん発音が日本語化していってしまいます。さらに、本を読めなければ新しい情報も入力できないのです。

日本にいながらにして英語の語彙を増やすのであれば、アニメやドラマをちょっと見た程度ではどうにもなりません。やはり「読書」です。つまり結局「読解力」を持ち合わせていなければ、英語力は消えてしまうか、運良く消えなくとも、それ以上に伸びていくことなどあり得ないのです。

その入り口としての「読解力」。さらには読解力の入り口としての「読力」。絵本の暗唱やフォニックスの学習などで早いうちにしっかりと身につけさせてあげましょう。

参考書籍

『たった18単語!話せる英語脳になる本』

『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』

いずれも三笠書房より

参考書籍

『英語の絶対音感トレーニング』(フォレスト出版)

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

1965年東京都生まれ。言語学者。上智大学外国語学部英語学科卒業(言語学専攻)、上智大学大学院言語学修士。
40年以上にわたり、幼児教室や通信教育などを通じて、子どもの英語教育と言語発達の研究・指導に携わる。自身が開発した英語教材「パルキッズ」は、音声入力を中心とする家庭用英語教材として30年以上にわたり提供され、これまで累計10万組以上の親子の英語教育を支援してきた。近年は研究・指導の対象を英語だけでなく、日本語・国語力、さらに言語能力と認知・学習能力との関係へと広げている。「スローな子育てをしながら賢く育てる」という考え方をもとに、オンライン講座「地頭力講座」などを開講している。著書は、英語・言語習得分野では、ベストセラーとなった『たった80単語読むだけで「英語脳」になる本』、Amazonランキング1位を獲得した『ローマ字で読むな!』(フォレスト出版)、『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)など。国語・地頭力、子育ての分野では『地頭力を鍛える子育て』などがある。
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