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2011年6月号特集

Vol.159 | 英語頭を身につける!

決め手は「単語の価値化」

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)


※本記事のテキストは無料で引用・転載可能です。引用・転載をする場合は必ず下記を引用・転載先に明記してください。

引用・転載元:
http://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1106
パルキッズ通信2011年6月号特集『英語頭を身につける!』(著)船津洋 ©株式会社 児童英語研究所


 ここ数年、大人向けの英語学習本を書く機会に恵まれてきました。
 子どもの英語教育に20年来携わってきた中で、従来の英語学習法ではなかなか英語が身につかないのに対し、どうして幼児期の英語教育では子どもたちが、いとも簡単に英語を身につけてしまうのかについて日々思いを巡らせてきました。
 また、子どもたちの成長を目の当たりにしつつ、その言語学習能力の高さに驚嘆し続けてきたのですが、今度は、子どもに比べて、なぜ大人はかくも大量のコスト(時間と費用)を払いつつも、身につけることに成功出来ないのか、という逆の観点に身を置いてモノを考えることに数年を費やしてきました。
 そんな中、いつしか「子どもも大人も英語を身につけるために必要なモノは一緒」であることに気付かされました。


| なぜ英語が出来ないのか

 私は、運良く小学5年生の時から中学英語を先取りして学ぶ幸運に恵まれたので、中学に入ってからも英語は得意科目のひとつでした。ただ、日本の英語教育を受けてきた点においては、皆さんと一緒。ひたすら英文を日本語に訳す。そのために文法を覚え、単語帳で単語を丸暗記する。そんな学習法を中・高と続けていました。
 おそらく、そのままだったらやはり、英会話は苦手の部類だったでしょう。
 ただ、もうひとつ幸運だったのが、米国で1年間ホームステイする機会に恵まれたことです。これで英語を日本語に訳さず英語のまま理解し、さらに英語で思考する頭、「英語アタマ」とでも呼ぶべき回路が身につきました。
 もちろん、留学当初は何も分かりません。聞き取れもしなければ、こちらの言いたいことも伝えられません。そもそも聞き取れないわけですから、てんでお話しにならないのです。また、ついに相手の言うことを理解できたとしても、その後の思考が「日本語アタマ」で行われ、続いてそれを英語に訳す、という作業を通しているので、文章が「日本語発想」なのです。「英語アタマ」と「日本語アタマ」ではひとつの事柄に関して感じ方が違うので、通訳でもない限り、ましてや英語をまだ身につけていない素人が上手く訳すことは困難なのです。
 例えば、「薬を飲むのは苦手」と感じたとしましょう。これを学校風に英語に直せば、 “I’m not good at drinking medicine.” とでもなるのでしょうか。これを聞いた外国人達は戸惑ってしまいます。まず、薬は ‘take’ するモノであって ‘drink’ するものではありません。また、薬を飲用することに上手下手があるとはなかなか想像しにくいので、先方は「この人は薬にアレルギーでもあるのかしら」と感じるかも知れません。
 また、日本語ではよくある「~かも」といった表現も、使い方によっては違和感を生じます。例えば食事に誘われて「行きたいかも・・・」と感じた場合に、 “Maybe I want to go.” と直訳的に表現すると、先方は「日本人は自分が行きたいか行きたくないかすら分からないのか・・・」と感じさせてしまうかも知れません。
 先方の言葉を聞き取れないことに加えて、いざ英語を口にしてみても誤解を与えてしまう。これでは英会話が苦手なのも仕方がありません。


| 英語アタマを身につける

 ところで、私のケースでは留学してから4ヶ月ほど経った段階で英語を聞き取れるようになり、同時に英語を英語のまま理解できるようになりました。つまり「英語アタマ」を身につけることが出来たのです。わずか4ヶ月です。日本人の多くが、散々頑張っているにもかかわらず英語を身につけられない現状を鑑みれば、もし留学することなく日本に居続けて、文法学習や単語の丸暗記に終始していたならば、おそらく「英語アタマ」を身につけることは叶わなかったと思います。
 では、なぜ留学したことで「英語アタマ」を、しかもわずか4ヶ月足らずで、身につけることが出来たのでしょう。これにはいろいろな理由が考えられます。
 英語のシャワーを浴びたというのもひとつでしょう。ただ、英語のシャワーだけではどうにもなりません。なぜなら大人は英語を聞き取る「リスニング回路」を身につけておらず、耳に入る英文はすべて「日本語アタマ」のフィルターを通して聞こえてしまうのです。もし、英語のシャワーを浴びれば英語を聞き取れるようになるのであれば、留学生程度、仮に1日8時間、英語を耳にし続けたとして4ヶ月間、つまり960時間でリスニングができるようになる計算です。洋楽好きで毎日2時間程度、英語の歌を耳にしている方なら1年ちょっとで英語を聞き取れるようになるはずです。また、洋画好きで毎日1本ずつ観れば、これまた2年足らずで英語を聞き取れるようになることになります。
 しかし、洋楽や洋画鑑賞で英語が聞き取れるようになった、という話は聞いたことがありません。つまり、英語のシャワーだけで英語を聞き取れるようになったのではないのです。では、なぜ?


| 単語の価値を知らない

 ここで幼児達が「パルキッズ」で英語を身につける過程を考えてみます。そこで分かるのが、彼らはわずか語彙2000語足らずで英語を理解できるようになります。一般的に英語を理解するために必要最低限の語彙数は、1000語程といわれています。「パルキッズ」には全体で4000語程収録されているので、英語を身につけるには十分な語彙が与えられているわけです。
 1000語とか2000語程度なら、中学校で習う英語に毛の生えたようなモノですね。このくらいの単語数なら、大抵の人が知っているはずです。もちろん留学当初の私もその程度の “語彙” はありました。でも、英語が分からなかった。ここで「 “語彙”とは何か? 」を考える必要があります。
 私達は、英単語を日本語訳とペアで覚えていきます。ただ、その際ひとつの英単語につき、ひとつかふたつの日本語訳しか与えられません。これは当然のことです。辞書をひけば分かるように、ひとつの単語につき、多いものでは100近くの日本語訳がつけられています。それを全て覚えるなど到底不可能なので、1~2の代表的な日本語訳で覚えていくのです。
 しかし、この記憶の仕方に問題があるのです。例えば、「肩をもむ」行為。日本人がアメリカ人の肩をもんだとすると、こちらは肩 ‘shoulders’ を揉んでいるつもりでも、先方は首 ‘neck’ を揉まれていると感じているのです。比較的、日本語と一対一で対応している名詞ですら、これだけ意味に違いがあります。これが動詞となると、「飲む=drink」ではありませんし、「run=走る」とは限らないのです。日本語の「飲む」は英語の ‘drink’ より意味の幅が広く、薬やタバコや条件まで飲めますが、英語の ‘drink’ は液体を口を通して体内に取り込むことしか表せないのです。逆に ‘run’ などは日本語の「走る」より意味の幅が広く、会社を経営したり、書類に目を通したり、ストッキングを伝線させたりしてしまうのです。
 ましてやこれが前置詞、副詞となると、ひとつの日本語訳では到底表現しきれないほど、多くの意味合いを含んでいます。
 このように、ひとつの単語の持つ色々な意味合いの総称を、単語の「価値」と呼んでいますが、我々はひとつの英単語をそのほんの一面しか表していない「日本語訳」で記憶しています。これは、さながらいろいろな食材、魚や野菜などの名前を知っていても、料理したこともなければ、食べたこともない様な状態なのです。それらの名前をいくら並べてみたところで、味を想像できないのは当然のことなのです。


| 価値を身につけるには?

 このように考えるとよく分かります。数千語の英単語を知りつつ、さらに英文法にも詳しい我々日本人が英語を出来ずにいる、その一方で、わずか1000語~2000語程度の単語しか知らず、しかも英文法などまるで習ったことのないアメリカ人の幼児達が英語を使いこなせる。英単語を「価値」で身につけているかどうかが、両者の差を決定づけているのです。英単語を見て、ひとつの日本語訳が浮かんでいるうちは、英語は分かるようにはならないのです。
 そこで、どうすればよいのか。単語を価値化するために必要なのは大量のインプットです。ひとつの英単語に色々な文脈の中で触れ続けることによって、ひとつの単語の持つ色々な側面が見えてくるのです。そして、その側面に大量に触れることによって、単語達をその一面ではなく、全体のイメージ、つまり「価値」で身につけることが出来るのです。
 幼児の場合には耳がよいので、たくさんの英語に触れさせることによって、まずは耳にした英文から英単語を切り出す「リズム回路」を身につけ、その後、聞き知った「仮語彙」を価値化して「語彙」にすればよいのです。
 では、我々大人はどうすればよいのでしょうか。英語を聞き取る能力はないので、リスニング以外の方法で大量の英語に触れる必要があります。その方法はひとつしかありません。読むこと。多読する以外に大量の英文に接する方法はないのです。
 日本では、大学受験などの目標がない限り、あまり家庭で勉強する機会がありません。学校からはあまり宿題が出されないのです。しかし、アメリカでは事情が異なります。高校でさえ日本とは比べものにならない量の宿題が出されるのです。すなわち、多読なのです。こうして留学生はいつしか英単語、しかも、基本的な英単語を価値で感じられるようになり、ついには英語を英語のまま理解できるようになったわけなのです。
 高校生でも4ヶ月足らずで英語を身につけることが出来る。留学生の身に起こるこの事実は、我々成人にとっては福音です。高校生は既に大人と同じ脳の仕組みなので、高校生に起こったことは、私達にも起こすことが出来るのです。
 大人の学習法は、基本単語の価値化に関しては拙著『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』、リスニング能力の強化と多読に関しては『英語の絶対音感トレーニング』『ローマ字で読むな』などに詳しいので、そちらをご参照ください。
 また、幼児から小学生の英語習得に関して新刊『どんな子でもバイリンガルに育つ魔法のメソッド』が発売されました。こちらは、『子どもが英語を話しだす』と『Hello, Mommy!』を編集加筆した内容です。お子さまの英語教育に躓いた時にも役に立つ1冊です。是非ご活用ください。


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プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

株式会社児童英語研究所 代表、言語学者。上智大学言語科学研究科言語学専攻修士。幼児英語教材「パルキッズ」をはじめ多数の教材制作・開発を行う。これまでの教務指導件数は6万件を越える。卒業生は難関校に多数合格、中学生で英検1級に合格するなど高い成果を上げている。大人向け英語学習本としてベストセラーとなった『たった80単語!読むだけで英語脳になる本』(三笠書房)など著書多数。

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