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2026年7月号ハワイアン子育てジャーナル

Vol.181 | 英語が読める!成功体験を積む

written by 船津 徹(Toru Funatsu)


※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2607
船津徹「英語が読める!成功体験を積む」(株式会社 児童英語研究所、2026年)


 日本人の多くは英語教育=英会話だと信じています。英語がペラペラ話せるようになる=英語が身についた、そう思っていませんか?しかし現実には、英語が話せても英語の学力が伴わない人たちがたくさんいるのです。
 移民の国アメリカでは、学力不振児が多いことが学校教育最大の課題となっています。もちろんアメリカの学校に通っている子どもたちは、誰もが英語を流ちょうに「話すこと」ができます。しかし、「英語が話せること」と「勉強ができること」は決してイコールではないのです。
 NAEP(全米学力調査)は、米国連邦政府が2年おきに小学4年生と中学2年生を対象に実施する英語(読解力)と数学の全国学力テストです。結果は4段階(Below Basic / Basic / Proficient / Advanced)で評価されます。
 最新の2024年のデータでは、全米の小学4年生の69%が習熟レベル(Proficient)に達していないことが判明しています。さらに 5人に2人(40%)が最低基準(Basic)すら下回っており2002年以来最悪の数値となっています。
 中学2年生の結果も同様で、約3人に1人(33%)がBasicレベルにすら達しておらず、こちらもNAEP史上最悪の数値となっています。Basic未満の生徒は、文章中の出来事の順序・登場人物の特徴・主題といった基本的な読解要素が識別できないレベルであり、「英語が話せても理解が伴っていない」という深刻なミスマッチが起きているのです。


「読めない」が全てを止めてしまうメカニズム

 子どもたちが学校で学ぶ内容について、こんなデータがあります。国語、理科、社会、算数‥あらゆる教科を合わせると、学習内容のおよそ85%は「テキストを読んで理解すること」で成立しているという事実です。
 つまり、読む力とは「国語(英語)の成績」に限ったスキルではないのです。理科のプリントに書かれた実験の手順を読む。算数の文章問題を読んで何を求めるか理解する。社会の教科書で出来事の背景を読み取る。あらゆる教科の学習が、読解力という土台の上に成り立っています。
 家を建てることを想像してみてください。壁や屋根がしっかりしていても、基礎が弱ければ、建物全体がぐらつきます。読む力は、まさにその「基礎」です。基礎が不十分なまま学年が上がると、学習内容が難しくなるにつれて、ぐらつきはどんどん大きくなっていきます。4年生になると多くの生徒が教科学習で壁にぶつかります。これは、偶然でなく、起こるべくして起きていることなのです。
 しかし、問題は学力だけにとどまりません。もう一つ、見えにくいけれど深刻な影響があります。それが、子どもの心への影響です。授業中に先生から「ここを読んでみて」と言われたとき、うまくできなかった。やっとの思いで最後まで読んだのに、内容がまったく頭に入っていなかった。読むことに全エネルギーを使い果たしてしまい、意味を考える余裕がない。こうした体験は、どれも子どもにとって静かな、しかし確かな「失敗」として積み重なっていきます。
 一度や二度ならまだしも、毎日、毎時間、同じ「できない」を繰り返すとしたらどうでしょう。算数の問題を読んでも意味がわからない。理科のプリントを読み終えるころには、最初に書いてあったことを忘れている。友だちが当然のようにこなしていることが、自分にはどうしてもうまくできない。そんな日々が続くうちに、子どもの中に一つの結論が生まれます。

「自分は勉強が苦手なんだ」

 教育心理学では、こうした失敗体験の蓄積が「学習性無力感(Learned Helplessness)」と呼ばれる状態を引き起こすことが知られています。「どうせやっても無駄だ」「がんばっても自分にはできない」という感覚です。
 こうなると、子どもは本や教科書を「読むこと自体」を避けるようになり、やがて勉強への気持ちが冷めていきます。これは「やる気がない子」「怠けている子」ではありません。繰り返す失敗体験によって、心が自分を守ろうとしている状態です。そしてこのサイクルに一度入ってしまうと、年齢が上がるほど抜け出すのが難しくなるのです。


読めることは成功体験、早期介入がすべてを変える

 ここまで、読めないことについてお話ししてきましたが、視点を変えてみましょう。「読めること」は、そのままで「成功体験」になります。
 子どもの頃を少し思い出してみてください。初めて自分や家族の名前が読めたとき。駅で目にした駅名板が読めたとき。街中の広告がふっと読めたとき。大きな満足感と高揚感を感じたはずです。「自分で読めた!」という純粋な喜びは、大人になった今でも、どこかに残っているのではないでしょうか。
 子どもにとって、文字が読めるということは本来、喜びに満ちた体験なのです。アルファベットが読めた。3文字単語が読めた。サイトワーズが読めた。一つひとつは小さな一歩ですが、「読めた!」という瞬間が積み重なるたびに、子どもの中に自信と意欲が育っていきます。「もっと読みたい」「次はどんな言葉が読めるようになるんだろう」という内発的な好奇心こそが、学びを前に進める原動力です。
 だからこそ、子どもの文字学習に関しては、早い段階での適切なサポートが重要になります。近年、欧米の教育界で広まっている「科学的リーディング(Science of Reading)」は、フォニックスをはじめとする初歩の体系的・明示的な文字指導が、読解力の育成に最も効果的であることを、膨大な研究によって裏付けています。
 大切なのは、「そのうちに読めるようになるだろう」と様子を見ることではなく、早期に適切なサポートを行うことです。読む力の土台をしっかり作ることができれば、すべての教科学習が動き始めます。そして何より、成功 体験が成功体験を呼ぶ好循環が生まれ、「自分はできる」という自己肯定感へとつながっていきます。
 読む力は、単なる一つのスキルではありません。子どもの学び全体を支える、かけがえのない翼なのです。その翼を、できるだけ早く、強く、しっかりと育ててあげること。それが、子どもの未来を大きく変える第一歩になります。


ミシシッピ州の「奇跡」が証明したこと

 ここで、一つ希望に満ちた話をしましょう。「科学的リーディング」が本当に子どもたちを変えるのか、半信半疑に思う方もいるかもしれません。しかし、アメリカにはその答えとなる、一つの実例があります。「ミシシッピ州の奇跡(Mississippi Miracle)」です。
 2013年当時、ミシシッピ州は全米の4年生読解力ランキングで「50州中49位」という、最下層に位置していました。マイノリティーが多い貧しい州、遅れた教育、そんなイメージが定着していた州が、わずか10年足らずで劇的な変貌を遂げたのです。
 転機となったのは、同年に導入された「リテラシー基準推進法(Literacy-Based Promotion Act)」です。この法律は、フォニックス・フルエンシー・語彙力・読解力という科学的根拠に基づいた指導法を基盤とし、 K〜3年生(幼稚園〜小学3年生)の教師に対する体系的なトレーニングと支援を義務付けたものです。
さらに、読解専門コーチの配置、個別読書計画の策定、3年生終了時点で読解基準を満たせない児童への集中支援(基準を満たさないと進級できない)といった施策も盛り込まれました。
 その結果は、全米の教育界に衝撃を与えるものでした。2021年には読解力ランキングで全米21位に浮上し、2024年にはついに全米9位にまで達したのです。さらに驚くべきことに、ミシシッピ州は、学力上位層・下位層を問わず、すべての子どもの習熟レベルで成績が向上した「唯一の州」となりました。全米で低学力層の子どもたちが取り残される中、ミシシッピ州だけが「誰一人取り残さない教育改善」を実現したのです。


「ミシシッピの奇跡」から全米へ──広がる読み改革の波

 ミシシッピ州の奇跡は、全米の教育関係者の目を覚まさせました。「奇跡は、正しい科学的アプローチで再現できる」と。その後、科学的リーディングは次々と法制化され、2025年現在、全米45州とワシントンD.C.が「読み指導の科学」に則った法律や政策を制定するに至っています。対立を常とする共和党・民主党の垣根を超えた、異例の「超党派ムーブメント」となっているのです。
 各州の動きも具体的です。マサチューセッツ州は幼稚園〜3年生の読み指導を科学的手法に統一する5か年計画を打ち出し、3,000万ドルの予算を提案。ニューヨーク州も2024年初頭にフォニックス重視の方針を発表しました。テキサス州では教師が「読書アカデミー」の修了を義務付けられ、ノースカロライナ州ではすべての小学校教師が科学的リーディング指導の研修(LETRS)を修了することが求められています。
 現場の教師たちの間でも、変化は静かに、しかし着実に広がっています。フロリダ大学が開発した体系的フォニックス指導プログラム「UFLI Foundations」は、教師たちの口コミで急速に広まり、現在では世界中の数十万人の教師が活用しています。
 かつて「子どもは自然に読めるようになる」という根拠のない楽観論が教育現場を支配していました。しかし今、データと現場の経験が、その神話を塗り替えつつあります。読む力は、正しい方法で、適切な時期に教えれば、すべての子どもに育てられる。ミシシッピ州が証明したのは、そのシンプルで力強い事実です。


日本でも「話す」より「読める」を

 アメリカの教育現場で起きているこの変革は、実は日本の英語教育にとっても、他人事ではありません。  日本では長年、英語教育の課題として「話せない」ことが議論されてきました。グローバル化に対応するためにコミュニケーション重視へ、会話力を伸ばそう、スピーキングを強化しよう、こうした声は年々大きくなり、学校現場でも「英語を使う体験」が重視されるようになっています。もちろん方向性としては間違っていません。しかし、一つ、重要なことが見落とされています。
「話す力」は、「読める力」の上に育つ、という事実です。
 言語習得の研究が一貫して示しているのは、語彙・文法・表現力といった言語の土台は、豊富なインプット、とりわけ「読むこと」を通じて積み上げられるという事実です。
 話す練習だけを重ねても、読む力という土台なしには語彙が広がらず、表現の幅も、背景知識も広がりません。会話の授業でその場をなんとかこなせても、自分の力で英語のテキストを読み、意味を理解し、情報を得るという本質的な力が育っていなければ、会話力も頭打ちになるのです。
 さらに、日本人の子どもにとって英語は、日常生活で自然に耳に入ってくる言語ではありません。だからこそ、体系的に「読む力」を育てる指導が、会話練習以上に重要な意味を持つのです。
 フォニックスとサイトワーズをしっかり学び、簡単な単語が読めた、短い文が読めた、という成功体験を積み重ねること。その一歩一歩が、子どもに「英語は自分にもできる」という自信を与え、学習を続ける原動力になります。
 アメリカでは今、「科学的リーディング」が教育現場を変え、かつて最下位であった州が全米トップクラスへと躍進しました。同じ原理は、英語を外国語として学ぶ日本の子どもたちにも通じます。低迷する日本の英語力を世界標準レベルに引き上げるには、まず「読む力」という土台を強固に構築すること。これが、本当の意味で使える英語力への、最も確かな道筋です。


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プロフィール

船津 徹(Funatsu Toru)

1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2602年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。

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