ハワイアンジャーナル パルキッズ通信 | フォニックス, リーディング
2026年3月号ハワイアン子育てジャーナル
Vol.177 | 読むスピードが英語脳を作る
written by 船津 徹(Toru Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2603
船津徹「読むスピードが英語脳を作る」(株式会社 児童英語研究所、2026年)
アメリカの教育現場では、子どものリーディング力(読解力)を評価する指標としてWCPM(Word Count Per Minute=1分間に正しく読める語数)が広く活用されています。WCPMの算出方法は簡単で、「1分間に読めた総単語数―誤読語数」で算出します。たとえば、1分間で100語読めたが、5文字読みミスがあり、3文字二度読みがあり、2文字を飛ばし読んだら、100-5-3-2=「90」がWCPMです。
私の英語塾では生徒の英語力をWCPMで評価しています。短時間で実践できる簡単なテストなのですが、かなり正確に現在の英語力が測定できます。以下はアメリカの学年別「1分間に音読できる単語数」の平均値です。
| 学年 | WCPM(平均) |
|---|---|
| 小学1年 | 53–111 wpm |
| 小学2年 | 89–149 wpm |
| 小学3年 | 107–162 wpm |
| 小学4年 | 123–180 wpm |
| 小学5年 | 139–194 wpm |
| 小学6年 | 150–204 wpm |
Hasbrouck,J.& Tindal,G.(2017) / Brysbaert,M.(2019)
英語を読むスピードが遅い子どもは、単語を正確に読む(音声化)することに集中しており、内容理解まで意識が向きません。「米国立子どもの健康と発達研究所」の責任者リード・リヨン教育学博士(Reid Lyon)は、読みの流ちょうさと読解力の関係について次のように述べています。
「自転車に十分なスピードで乗らないと転ぶのと同様、読み手が十分なスピードで文字を認識できなければ、意味が失われてしまう。読んだ内容を思い出すことができず、ましてや読んだ内容を自分の経験や背景知識と関連付けることなどできない」
識字の自動化(意識せずとも文字を瞬時に音声化できる状態)ができないと、ワーキングメモリーを記憶、想像、推察に使うことができません。つまり、読んでも「理解」が伴わないのです。英語が流ちょうに読めるようになって、はじめて「読解力」が働き始めます。英語・日本語に関わらず、読書教育のポイントは「流ちょうに読む力」の育成なのです。
トロント大学(カナダ)の認知心理学者、スタナビッチ(Stanovich1986)が提唱した「マタイ効果」は、聖書の一節、「持っている者はさらに与えられ、持たない者は持っているものまで奪われる」に由来しています。
これを読解研究に当てはめると、「早く読めるようになった子は、さらに読めるようになり、読むのが苦手な子は、ますます読めなくなる」となります。つまり、初歩のリーディング力(読書スピード)の「差」が、時間とともに拡大し、子どもの学習能力に長期に渡って影響を与え続けていく現象を指しています。
リーディング力を早い段階で身につけた子どもは、読書を通じて、新しい語彙や知識に触れることができます。語彙や知識が増えると理解力が高まり、さらに難しい文章を読めるようになります。読む力が読む力を呼ぶ、好循環が生まれるのです。
英語を第二言語で学ぶ生徒はWCPMが遅い
英語を第二言語として学ぶ子どもたち(L2)は、母語として英語を習得している子どもたち(L1)に比べて、どの程度読書スピードに差があるのでしょうか。この点について、プレトリウス&スポール(Pretorius & Spaull)による研究が、実証的データを示しています。
同研究では、南アフリカの児童を対象に、音読時の読みの流ちょうさ(Oral Reading Fluency)を「WCPM」で測定しました。報告されている代表的な数値は以下の通りです。
| 学年 | L1(英語母語) | L2(ESL学習者) |
|---|---|---|
| Grade 1 | 約40–60 WCPM | 約20–30 WCPM |
| Grade 2 | 約90–100 WCPM | 約60–70 WCPM |
| Grade 3 | 約120 WCPM | 約80–90 WCPM |
| Grade 4 | 約140–150 WCPM | 約110–120 WCPM |
別の報告値では、
| 学年 | L1 | L2 |
|---|---|---|
| Grade 1 | 64 | 40 |
| Grade 2 | 101 | 74 |
| Grade 3 | 90 | 63 |
| Grade 4 | 146 | 119 |
といった数値も示されています。
これらのデータが示すのは明確です。英語を第二言語として学ぶ学習者は、各学年において平均して約20〜30語/分、母語話者よりも読書スピードが遅いという一貫した傾向があるのです。
繰り返しますが、読書スピードは、子どもの「読解力」を予測する重要な指標であり、英語を第二言語として学ぶ子どもたちにもこの法則はそのまま当てはまります。「速く、正確に読む」練習を取り入れ、早期に「識字の自動化」を実現しなければ、英語力は頭打ちになるのです。
今の日本の英語教育では、WCPMが着目されることはほとんどありません。読書スピードよりも「文法ルールに則って理解しながら読む」ことが重視されます。もちろん文法理解は重要です。しかし、読みの自動化を伴わない学習では、読書スピードは伸び悩みます。そして、スピードが伸びなければ、結果として読解力も伸び止まるのです。読みの自動化なしに高度な読解は成立しません。
「英語を第二言語で学ぶ日本人にはネイティブ並みの読書スピードは必要ない!」そう考える人もいるかもしれません。しかし、現実は異なります。
大学入学共通テストの英語リーディングテストでは、出題語数が増加し、現在は「約6000語」が標準となっています。これはセンター試験時代と比べて約1.5倍に相当し、受験生には「読解スピード」と英語を集中して読み続ける「スタミナ」が求められます。
この出題数に対応するには、「1分間に150語」のペースで英語を読み続ける力が必要であると、早稲田大学の鈴木裕一准教授は分析しています。「1分間に150語」という読書スピードは、ネイティブの小学4〜5年生レベルであり、英語技能で言えばCEFR B2(英検準1級以上)という非常に高いハードルです。
この英語の長文化・高速化の傾向は、大学入学共通テストだけでなく、慶應義塾大学や早稲田大学といったトップ私立大学の英語試験でも見られます。これらの大学では、20年前と比べて英語試験の出題語数が「2倍程度」になっており、受験生には高い読書スピードが求められるようになってきています。
読書スピードは、もはや補助的能力ではありません。それは、日本の大学入試を突破するための必須条件になっているのです。
どうすれば読書スピードが向上するのか?
では、英語を第二言語として学ぶ子どもたちは、どのようにすれば読書スピードを向上させることができるのでしょうか。結論から言えば、鍵となるのは「フォニックスによるデコーディングの自動化」と「サイトワーズによる語彙の即時認識」です。この二つにフォーカスした読む訓練を取り入れることで、読書スピードを短期間で向上させることができます。
1.フォニックスによるデコーディングの自動化
読書スピードが遅い最大の理由は、単語を音に変換する処理に時間がかかっていることです。文字を一つひとつ拾い読みしながら音声化している限り、処理速度は上がりません。
フォニックスではアルファベットの音を教えます。導入段階で「Aは/æ/」「Bは/b/」と教えることは不可欠です。しかし、文字と音の対応を一通り学んだ後も、いつまでも一文字ずつ処理する段階にとどまっていては、デコーディングは自動化されません。
そこで必要になるのが、次のステップである「ワードファミリー指導」です。
英単語の多くには「規則性」があります。特に単語の終わりの音(ライム)が共通する単語群は、体系的に整理することが可能です。これを「ワードファミリー」と呼びます。
たとえば「-at/アット」で終わる単語群には「bat, cat, fat, hat, mat, pat, rat, sat」などがあります。これらをバラバラに教えるよりも、グループとして読み方を教える方法がはるかに効率的に、短期間で、正しく文字を音声化できるようになります。
同様に「it/イット」で終わる単語群「bit, fit, hit, kit, lit, pit, sit, wit」を習得すれば、読める単語を一気に増やすことができます。ワードファミリーは語彙増加が目的ではなく、処理方法の拡大によるデコーディングの高速化訓練なのです。
英語圏のフォニックス指導では、ワードファミリーを体系的に習得させるアプローチが主流です。中でも広く参照されているのが「37の主要ワードファミリー」です。
これは、英語の初期読解において特に出現頻度が高く、かつ生産性(他の単語へ応用しやすい度合い)の高いライムパターン(終わりの音が同じ単語群)を厳選したものです。これらを習得すると数百語規模の単語を効率よく処理できるようになります。
この指導の理論的基盤となっているのが、エリ(Ehri)やアダムズ(Adams)が示したオルソグラフィック・マッピング理論です。この理論では、高いリーディング力を示す子どもは、単語を視覚的に丸暗記しているのではなく、文字と音素を結びつけ、音韻単位のまとまりとして長期記憶に保存していることが示されています。
特にCVC単語(cat, hat, rat などの三文字語)は、識字の初期段階において極めて重要な役割を果たします。これらは音と文字の結合を強固にする基礎訓練となり、やがてワードファミリー単位での処理へと発展します。
代表的なワードファミリー
以下は、初期の識字教育で中核とされる代表的パターンです。(研究によって若干の差異はありますが、概ね35〜40パターンに集約されます。)
■ Short a(/æ/)
-at:cat, bat, hat, mat, sat
-an:man, can, pan, fan, ran
-ap:cap, map, tap, nap
-ag:bag, tag, wag, rag
-ad:bad, sad, dad, mad
-am:ham, jam, ram
-ack:back, pack, sack, black
■ Short e(/e/)
-et:pet, net, jet, wet
-en:pen, ten, hen, men
-ed:red, bed, fed
-ell:bell, sell, tell
-est:best, jest, nest, rest
■ Short i(/ɪ/)
-it:sit, hit, fit, bit
-in:pin, win, fin, bin
-ig:pig, big, dig, wig
-ip:lip, sip, tip
-ill:hill, will, fill
-ick:kick, pick, sick
■ Short o(/ɑ/ /ɒ/)
-ot:hot, pot, not, dot
-op:top, mop, hop
-og:dog, log, fog
-ock:rock, sock, lock
■ Short u(/ʌ/)
-ut:cut, hut, nut
-ug:bug, rug, jug
-un:sun, run, fun
-uck:duck, luck
■ Long A (/ā/)
-ake:bake, cake, lake
-ate:late, mate, plate
-ai:rain, train, sail
-ay:play, stay, day
■ Long E (/ē/)
-ee:see, tree, bee
-ea:sea, eat, meat
-e_e(magic e):Pete, scene, theme
■ Long I (/ī/)
-igh:high, night, light
-i_e(magic e):ride, side, time
-y:my, fly, cry
■ Long O (/ō/)
-o_e(magic e):home, rope, nose
-oa:boat, coat, road
-ow:snow, grow, show
2.サイトワーズによる語彙の即時認識
読書スピードを制限するもう一つの要因は、語彙不足です。未知の単語が多いと、意味の推測や再読が増え、結果としてスピードが低下します。しかし、単に語彙数を増やすだけでは十分ではありません。重要なのは、英語を読む時に頻繁に使われる最重要単語を「見た瞬間に読める状態」にすることです。
英語の頻出単語を「サイトワーズ」と呼びます。頻出100語のサイトワーズを覚えると、あらゆる活字化された英文(新聞記事から専門的な論文まで)の約50%が読めるようになり、頻出300語を覚えると約70%が読めるようになると言われています。
サイトワーズは日本語の「漢字」に該当するもので、読書スピードを高め、流暢に本を読むために欠かせない学習です。サイトワーズ(Sight Words)は「一目で読める単語」という意味です。サイトワーズには「the」や「have」のようにフォニックスのルールでは読めない単語が含まれます。例:「the」はフォニックス読みでは「ト」「ハ」「エ」となります。
そのため、サイトワーズは、一文字ずつ拾い読むのでなく、単語の綴りを丸暗記します。英語圏の子どもたちは、毎週10〜20語のサイトワーズをスペリングテストで覚えていきます。日本の子どもが漢字テストで頻出漢字を覚えていくのと同じ要領です。
サイトワーズの教え方はシンプルで、よく使われる単語を、よく出る順番で覚えていくだけです。ポイントは一目でパッと読めるようになるまで繰り返し学習すること。確実に読めるように根気強く教えてあげてください。
サイトワーズにはいくつか異なるリストがありますが、最も一般的なものが「Dolch Sight Words」と呼ばれる220語+名詞95語のリストです。このリストはインターネットで簡単に手に入りますからぜひ活用してください。
リストをプリントアウトしてトイレや子ども部屋の壁など、目につく場所に貼っておきましょう。さらにフラッシュカードや単語帳を作り、サイトワーズの読みを繰り返し練習してください。サイトワーズ学習は子どもにとって退屈な学習ですので、毎日、短時間取り組ませることがポイントです。
サイトワーズ学習では日本語で意味を教える必要はありません。意味よりも一目で読めることを優先してください。読むことと意味を覚えることの二つの作業を子どもに要求すると学習効率は下がってしまいます。まずはサイトワーズが読めることが先です。以下にドルチサイトワーズ220語のリストをご紹介しますので、どれだけ読めるか、確認してみてください。
【ドルチサイトワーズ220語】
| Words 1–25 | Words 26–50 | Words 51–75 | Words 76–100 | Words 101–125 | Words 126–150 | Words 151–175 | Words 176–200 | Words 201–220 |
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船津 徹(Funatsu Toru)
1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2602年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。



