ハワイアンジャーナル パルキッズ通信 | イマージョン, 日本の教育
2025年10月号ハワイアン子育てジャーナル
Vol.171 | バイリンガルは「翻訳しない」
written by 船津 徹(Toru Funatsu)
※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。
引用・転載元:
https://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/hawaiian-journal-2510
船津徹「バイリンガルは「翻訳しない」」(株式会社 児童英語研究所、2025年)
英語ができる人は、日本語に訳さずに「英語を英語のまま」理解します。これは単なる感覚的な話ではなく、科学的な裏付けがあります。
Kroll & Stewart (1994) の研究では、バイリンガルの脳は第二言語を処理するとき、必ずしも母語を経由せずに、直接意味概念にアクセスしていることが示されています。また、Paradis (2004) は、バイリンガルの言語処理は「翻訳ベース」ではなく、意味ネットワークを介した直接的な理解であると述べています。通常、私たちが英語を見聞きするとき、「英語→日本語→理解」という情報処理をしますが、バイリンガルは「英語→理解」という頭の使い方をしています。つまり優れた言語能力とは「翻訳せずに理解できる」状態なのです。
では、なぜ翻訳せずに外国語を理解できるのでしょうか?
近年の認知科学や発達心理学の研究によると、言葉を知らない乳幼児期の子どもたちは、「音をイメージと結びつけて理解する」ことが明らかになっています。言語研究者パトリシア・クール(Patricia Kuhl)らの実験では、赤ちゃんは音声を聞くと同時に視覚的・身体的な体験と結びつけ、言葉の意味を理解していくことが示されています。平たく言うと、「dog」という音を聞いたとき、犬の姿や鳴き声といった感覚イメージが立ち上がり、意味を理解しているわけです。
この言語理解のプロセス(イメージに直接アクセスする思考)は、日本国内で英語を学ぶ人たち、子どもはもちろん、大人の英語学習にも大きな示唆を与えてくれます。多くの日本人は、母国語に「翻訳する」ことが英語学習の王道と思っていますが、実際には、「翻訳しない」頭の使い方を取り入れることが、高度な英語力を身につける上で不可欠なのです。
日本の教育現場に根強い「訳読式」
日本の学校教育は明治以来「訳読式」に依存しており、英語を日本語に置き換えて理解する訓練を中心としてきました。単語の意味を日本語で覚え、文法ルールを日本語で理解し、英語を日本語に、日本語を英語に翻訳する方法を学びます。いかに正しく翻訳できるかが英語学習の焦点であり、入試や学校の試験では学生の「翻訳技術」が評価されてきました。
グローバル化の進行とアジア諸国の英語力向上を背景に、ようやく日本でも小学校を中心にコミュニケーションやディベートなど「英語を英語で理解する」活動が取り入れられるようになってきました。しかし、中学以上の現場では「テストで点を取るために翻訳力を鍛える」傾向が根強く、結果的に訳読的な学習が続いているのが実情です。
日本で訳読が減らない理由として、英語教師自身が「訳読式」で育ち、大学でも文法・翻訳中心の訓練を受けてきたこと。そして、訳読は学習者の技能を「客観的かつ公平」に評価できることがあります。スピーキングやライティングなど自由表現は採点が難しく、採点者による差が出やすいのが難点です。一方の訳読は「模範解答と一致するか」で容易にマルバツが判定できます。そのため多くの英語試験では、依然として「翻訳形」が選ばれているわけです。
訳読が習慣化すると英語思考が身につかない
訳読の一番の問題は、情報処理に時間がかかることです。英語を聞くたびに「英語→日本語→理解」と頭の中で変換作業をします。英語を話す時も「日本語→英語」と翻訳するため、実際の会話のスピードに追いつけません。
また、英語を読む時も一行一行翻訳作業をするため、読書スピードが遅くなります。読書スピードと読解力は比例することが多くの研究でわかっていますから、訳読が習慣になると、結果として、読解力も低下してしまうのです。
さらに、訳読に頼ると、日本語の語順や表現に引っ張られてしまい、自然な英語運用能力が育たないという問題が起こります。たとえば「I’m looking forward to seeing you.」を逐語的に処理すると「私は楽しみにしています、あなたに会うことを」という不自然な発想になります。日本語を介在することに慣れしまうと、英語独特な思考や表現が身につきずらいのです。
日本語は文脈依存度が高く、結論を後回しにすることが多い言語です。たとえば会議では、まず背景や経緯を説明し、最後にようやく結論にたどり着く、といったパターンが典型です。そのため「婉曲的」「あいまい」「相手に読み取らせる」傾向が強くなります。
一方、英語は直接的で論理的な表現を重視します。最初に結論(main idea / topic sentence)を述べる。その後に理由や例を加えて自分の考えを補強するという「結論先行型」の思考様式が基本です。これはエッセイライティングでも、日常会話でも同じです。
訳読式に慣れてしまうと、
・英語の語順をそのまま理解する習慣が育たない
・結論から始める論理展開が自然にできない
・曖昧で回りくどい日本語表現を英語に引きずってしまう
という問題が起こります。
その結果、せっかく単語や文法を覚えても、実際には「不自然で伝わりにくい英語」になってしまうのです。日本語思考に依存したままでは、英語の直接性・論理性・結論先行性が身につきにくく、英語で考える力が育ちません。訳読の弊害は、単なる言語スキルにとどまらず、思考の型を制限してしまうのです。
留学経験者が実感する「訳さずに理解する」感覚
留学経験のある人は、翻訳しない思考(直接イメージにアクセスする思考)を体感的に理解していると思います。留学初期には辞書を片手に翻訳しながら授業を受けますが、授業のスピードに翻訳作業が追いつかなくなります。やがて翻訳をあきらめ、先生の話、テキストの内容、クラスの状況に集中するようになると、英語がスッと頭に直接入ってくる感覚が生まれるのです。
この現象はいくつかの研究でも支持されています。Linck, Kroll, & Sunderman (2009) の研究では、スペインに留学した英語話者の学習者は、母語のアクセスが抑制され、第二言語を翻訳せずに直接処理できるようになることが報告されています。翻訳を介さないことで、理解が速く、思考も第二言語で行えるようになるのです。
また、カナダでフレンチ・イマージョンプログラムを受けている子どもたちは、文脈や背景から意味を推測する習慣を身につけることで、読解力や推論力が向上することが確認されています(Cummins, 2000; Turnbull 2011)。
フレンチ・イマージョンプログラムでは、生徒はフランス語を「教科として学ぶ」のではなく、フランス語を使って算数・理科・社会などの教科を学びます。つまり、言語を学ぶのではなく「言語で学ぶ」スタイルです。言語と学びが直結しているため、生徒はフランス語で考え、論理を組み立てるようになります。これは「訳読式」のように母語を介する学習とは違い、フランス語的な思考の型を自然に身につける効果があります。
留学やイマージョン環境に身を置くことで、翻訳に頼らず「そのまま英語を理解する力」が育ち、理解力や思考力を高めることができます。しかし、日本でイマージョンスクールは一般的ではなく、また、留学やインターナショナルスクールはハードルが高いのが現実です。そこで、家庭で実践できる「訳さない英語教育法」について、次にご紹介いたします。
日本の家庭や学校でも「英語思考」は育つのか?
英語を日本語に訳さず、英語のまま理解する力を身につけることは、「使える英語」を習得する上で非常に重要です。この思考を育てるためには、家庭での学習環境を工夫する必要があります。
ポイントは「英語オンリーの環境」です。子どもが英語を見聞きするとき、日本語を介在する素材はNGです。英語だけの映像を見たり、英語だけのテキストを読んだり、英語だけの本を眺めたり、英語だけのクイズに答えたり、英語だけのワークシートに取り組むことが大切です。日本語と英語が混在すると「翻訳」が働き出し、英語思考が育ちにくくなるので注意してください。
理想は英語を聞いたり読んだりしたときに、すぐに頭の中で意味をイメージできる状態を作ることです。たとえば「apple」と聞いたら、赤く丸い果物のイメージを思い浮かべる。普段からフラッシュカードを見せたり、壁にアルファベットチャートを貼るなどして、英語をイメージ的にインプットするよう配慮してください。
英文の本やテキストを読む時はイラストが付随するものを選びましょう。最初はピクチャーディクショナリーや簡単な絵本で英語の音とイメージを結びつけます。さらにリーダーズと呼ばれるイラストつきのやさしい絵本を読むことで、意味を推察しながら英語を読む習慣を作ることができます。もちろんマンガのように場面ごとにビジュアルイメージがあるものでしたら、英語を読みながら同時にイメージ的に理解する力を訓練できます。
子どもに英語のアニメや教育番組などを見せる場合も「英語オンリー」のものを選ぶことが大切です。子どもは英語オンリーの環境に入ると、翻訳せずに、英語を英語で理解する頭の使い方を自然に身につけていきます。この働きがあるから親の海外駐在などで英語圏に移り住んだとき、幼い子どもほど早く英語を身につけられるのです。
家庭では「英語オンリーの環境作り」に配慮することが大切ですが、親子の会話は英語オンリーにする必要はありません。親がバイリンガルレベルの英語力を持っている場合を除き、親子のコミュニケーションは必ず日本語で行ってください。親子の会話を英語と日本語混じりにすると、両言語とも発達が悪くなる可能性があるので注意してください。
正しい発音で読む訓練が最も効果的
日本国内で英語思考を鍛える最も効果的な方法が「正しい発音で英語を読む訓練」です。フォニックスを一通り学ぶことで、英語の文字を見たとき「正しい発音」が自然に口から出るようになります。口の形、舌の位置、喉や口周辺の筋肉の使い方、発声方法を文字とリンクさせることができるのがフォニックスの優れた点です。
たとえば、フォニックスを正しく学んだ子どもは「E」という文字を見ると、自然に口が横開きの「エ」の形になります。この状態で「EGG」や「ELF」などの単語を発音すると、ネイティブに通じる正しい発音になります。
さらに、英語の頻出単語である「サイトワーズ」を覚えることで、英語の本を正しい発音で読む力が育ちます。英語はよく使われる単語が明快で、頻出300語を学ぶことで、あらゆる英語の約70%が読めるようになります。とても効率的な学習法ですので、ぜひ取り入れてください。
フォニックスとサイトワーズを一通り学習すると、リーダーズと呼ばれるやさしい英語の本が読めるようになります。リーダーズは、英語を読み始めた子ども用の「多読教本」で、レベルごとに単語や文法が制限され、読みやすく作られています。各ページにはイラストが含まれ、ボキャブラリーが少ない子どもでも意味を推察しながら読み進められます。
簡単なリーダーズから始め、徐々に長い文章に挑戦することで、文脈から意味を瞬時に推測する力が育ちます。このプロセスを繰り返すことで、英語を英語のまま理解する脳の回路が形成され、翻訳を介さずに思考するスピードが自然と向上していきます。
以上のように、英語を英語のまま理解するためには、イメージで理解する学習環境作りと、正しい発音・スピードを意識した多読学習がカギとなります。家庭でも学校でも、この学習法を取り入れることで、翻訳に頼らない「英語で考える力」を着実に育てることができます。
日本で「英語思考」を作るためのオンライン教材
私が開発したTLCフォニックスは、英語オンリーの環境に「毎日5分」浸ることで「英語思考」を育成できるオンライン教材です。動画、プリント、クイズ、テキスト、すべて英語オンリーなので、家庭で「イマージョン環境」を作ることができます。
8月の英検では、TLCフォニックスに取り組んできた小学6年生の女の子が「英検準1級」に合格しました。さらに、小学3年生で「英検2級合格」の男の子、小学2年生で「英検2級合格」の女の子など、「高度な英語力」を身につけた子どもたちが次々と育っています。英語を身につけることで、子どもは「一生使える武器」を手に入れることができます。ご興味のある方は、無料トライアルにお申し込みください。
「強み」を生み出すノウハウを解説する本
拙著【強みを生み出す育て方】は、強みの見つけ方・伸ばし方を、科学的エビデンスをベースに、家庭で簡単に行える35の具体的なメソッドに落とし込んだ1冊です。「この世に強みのない子など、いない。すべての子が“強みの芽”を持って生まれている!だからこそ、1人1人に合った“強み育て”が大切だ」。これが、本書でお伝えしたいことです。
前半では、わが子が生まれながらに持つ「気質5タイプ」「才能5タイプ」と「ピッタリの習い事」を判定し「強みの芽」を見極めます。さらに、全タイプの強み育てにおいて不可欠な「やる気の引き出し方」「学業と習い事の両立方法」について具体的ノウハウを体系化しています。
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船津 徹(Funatsu Toru)
1966年福岡県生まれ。1990年明治大学経営学部卒業。教育コンサルタント。米国法人TLC for Kids代表。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。「パルキッズ」「パーフェクトイングリッシュ」など、しちだ式英語教材制作に従事。2510年ハワイ州、ホノルルにて移民のための学習塾TLC for Kidsを設立。2015年にはTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校を設立。アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上の子どもの教育に携わる。同氏が手掛けたフォニックス教材は全米で25万人の教師が加盟するアメリカ最大の教育リソースサイト「OpenEd」による「最も効果がある教材部門」で第2位にランクイン。音楽と演劇を組み合わせた独自の教育メソッドは全米で注目されている。著書に『アメリカ最先端の英語習得法』(現代書林)。一男の父。一人息子は日本語・英語・中国語を操るトリリンガル。バラック・オバマ大統領の母校ハワイのプナホウスクールを卒業。ドナルド・トランプ氏の母校であるペンシルバニア大学ウォートンスクールに在学中。



