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2017年7月号特集

Vol.232 |「小学生になるとLとRを聞き取れない」はウソ?! ホント?!

大人になっても失われていなかった!英語を聞き取る能力

written by 船津 洋(Hiroshi Funatsu)



プロフィール

船津 洋(Funatsu Hiroshi)

1965年生まれ。東京都出身。株式会社児童英語研究所・代表取締役。上智大学外国語学部英語学科卒業後、言語学の研究者として、日本人の英語習得の在り方を研究中。35年以上、幼児・児童向け英語教材開発の通して英語教育に携わる経営者である一方、3児の父、そして孫1人を持つ親として、保護者の視点に立ったバイリンガル教育コンテンツを発信し、支持を得ている。著書に20万部のベストセラーを記録した『たった80単語「読むだけで」英語脳になる本』(三笠書房)をはじめ『子どもの英語「超効率」勉強法』(かんき出版)など多数ある。


特集イメージ1 日本人にとっての英語の聞き取り能力は、それが欠けていることによって日本人の英語下手の根幹を成す要因の一つであることは間違いありません。同時にその聞き取り能力を向上させる方法に関心が高まるのも極めて自然なことでしょう。言語の聞き取り能力に関する研究は90年代より盛んになり、日本人の英語の聞き取り能力や、反対に外国人達の日本語の聞き取り能力に関して多くの研究が行われています。
 そんな中で、キャサリン・ベストやその他多くの研究者によって、日本語と英語を母語とする幼児たちにおける特定の音声の聞き分け実験が行われています。実験結果はおおよそ似ていて、生後半年くらいまでは日本に育つ幼児も英語圏に育つ幼児も同様に英語の音素/l/,/r/の聞き分けができるのですが、それ以降母語の獲得が進行するにつれて、日本に育つ子達は日本語の音素ではない/l/,/r/の聞き分けに関心を示さなくなることが分かっています。これが言語獲得、特に外国語の言語獲得に大きく影響するらしいのです。もちろん、生まれたばかりの幼児たち、まだ言語を獲得する以前の幼児たちは、周囲で話される言語を身につけなくてはならないわけですので、ありとあらゆる音に対して敏感であり続けます。そして、一度母語が確立し始めると、不要な音、母語とは関係の無い音素には反応しなくなるのも、言語発達の経済的原理(必要な要素だけ学習していく原理)からも予想される反応です。
 ここで重要なポイントがあります。幼児期を過ぎてしまうと、ヒトは母語に存在しない音素の聞き取り自体ができなくなってしまうのでしょうか。もしくは「関係ない音」として興味を示さないだけで、聞き取りの可能性は有しているのでしょうか。仮に聞き取りの能力自体を喪失してしまうのであれば、日本語の母語話者は単純に日本語には存在しない英語の音素を聞き取ることが出来ない事になります。
 しかし、現実はどうでしょうか。私の周囲を見回しても、生まれつきの英語の母語話者は少なく、逆に日本語を母語としつつも、日本語を獲得した後、もしくは獲得していくと同時に英語を身につけた人ばかり(外国語学部なのでアタリマエかもしれませんが)です。母語を獲得する過程で、英語の聞き取り能力が喪失してしまうのであれば、彼等は英語を聞いたり話したりできないはずではないでしょうか。
 当の私自身に関しても、英語学習は小学5年生から中学英語の先取りを始めたので、少々フライングスタート気味ではありますが、今の小学生達と似た環境で育ったと言えるでしょう。その後、高校生の時に留学したものの、最初の数ヶ月は全く英語を聞き取れませんでした。ところが、数ヶ月すると日本語を聞くのと同じような感覚で英語を聞き取れるようになっていたのです。この現象を、「留学したから」と単純に結論づけるわけにはいきません。なぜなら、私の回りには留学経験が無いにもかかわらず、英語を流暢に話す人たちが存在するからです。また、過去にも触れましたが、大学の講義の中で教授が/l/,/r/の聞き取り実験を即興で行ったところ、ほとんどの学生が問題なく/l/,/r/を聞き分けていたのです。このことから、何らかの刺激や環境が与えられれば、母語を身につけてしまった日本人でも英語のリスニングは出来ることがわかります。つまり、英語を始めとする日本語に存在しない音素の聞き取り能力を、私たち日本人は喪失してしまったのではなく、単に使っていないだけ、と考えることができるのではないでしょうか。


| 音素の聞き分け

特集イメージ2 先述の/l/,/r/に関して、つい先日ですが、情報通信研究機構や大阪大学で、/l/,/r/の聞き分け能力を向上させる装置を開発したというニュースがありました(※1)。
 記事によれば数時間の訓練で日本人でも/l/,/r/の聞き分けを正答率6割から9割まで向上させることができたとか。「なんだ、こんな簡単にできるのか」という印象です。被験者は大人ですし、ちょっとした刺激を与えることで英語の音素の聞き取りが出来るようになってしまうのですから、つまりは我々は外国語音素の聞き取りの敏感性は喪失していなかっただけのことなのでしょう。必要ない音として聞き捨てられていた音でも、何らかの切っ掛けで関心が向かうと聞き取れるようになるのでしょう。これは幼児期以降母語が確定した後に、外国語として英語を身につけた人たちが現に存在することの説明にもなります。
 さて、英語の聞き分けというと/l/,/r/ばかりに関心が向かいますが、日本人が英語を聞き取れない理由は/l/,/r/の聞き取りだけで解決するのでしょうか。英語の聞き取りができないという皆様は、/l/,/r/の聞き取りだけができないのでしょうか。当然のことながら答えは”NO”でしょう。
 英語が聞き取れない人は/l/,/r/,/b/,/v/,/th/,/s/,/z/などの音素の聞き分けができないだけではないのです。英語を聞き取れないということはもちろん音素単位の聞き取りにも原因はあるのでしょうが、それよりも音節の聞き取りができないことに起因しています。日本語は開音節(※2)の言語で、一部例外を除いて、音節は【母音】もしくは【子音+母音】で構成されています。それを一つの意味のある音の塊として捉える言語で、音節の中でも特殊なモーラ(※3)という単位で話したり聞き取ったりする言葉です。かなの単位で話したり聞いたりしていると考えればよいでしょう。
 一方の英語は音節(シラブル)で構成されている言語です。音節は核となる母音を中心にその前後に子音がくっついて構成されます。例えば不定冠詞の’a’は前後に何もくっつかずに1語です。また核となる母音の前にいくつか子音が付くことがあります。これらは’onset’と呼ばれて音韻論のテキストによれば最大3つまで付くそうです(例:’screw’の場合、母音の/u/の前に3つの子音/s/,/k/,/r/が付いている)。また、一部音節の末尾に付く子音は’coda’と呼ばれて、これも複数個付くことがあります(例:’next’の場合、末尾に3つの子音/k/,/s/,/t/が付いている)。上記の例’screw’,’next’はいずれも1つの音節で構成される語です。
 日本語とは明らかに異なるのは複数の連続した子音を1つの母音に付けられる点と、子音で音節を終わることができる点です。これがくせ者で、子音で終わる語に母音で始まる語が連続すると、音が連結してしまいます。そして、連結した音節を単語に分解することが難しいのです(『ローマ字で読むな』参照)。
 日本語の場合は開音節ですので音素がくっついて別の音になることは、一部「ん」の直後に母音が来るケースを除き希です(「てんおうじ」→「てんのうじ」。「こんいん」の「ん」は「てんのうじ」の「ん」とは音が異なるので後続する母音と連結できません)。
 このような言語間の差異はあるものの、音節が連結してしまう英語においても、モーラ単位で発声される日本語においても、いずれにも共通するのは単語単位で区切って発音されることは少ない、という点でしょう。つまり、話者は単語単位で区切って話してくれないので、聞き手は話者から発せられた音の塊から、単語を次々に切り出していく能力が、耳からの言語の理解の前提として必要となるのです。有り難いことに、この切り出しは生後半年から1年で幼児たちは身につけてしまい、無意識のうちに耳にする音の塊を単語へと、次から次へと切り出していくことが出来るようになります。この能力の根底には、確かに/l/,/r/のような音素レベルの聞き取り能力も影響するのかもしれませんが、それ以前に音素よりも一回り大きい塊である音節の特徴、言語のリズムのようなものを理解することが必要となります。もちろん、これは理屈で理解するということも含みますが、最終的には直観的に切り出せるようになるための「英語の音節の知識」を頭の中に持つということを意味します。

※1) 『LとR、装置で聞き分け改善研究チームが開発』http://www.asahi.com/articles/ASK6H4SDMK6HPLBJ001.html
※2) 母音で終わる音節
※3) 俳句などで1音としてカウントする単位


| 切り出し能力

特集イメージ3 これら一連の作業のことを「連続音声の分節」(※4)と呼ぶらしいのですが、この切り出し方が人によって違うようなのです。以下、いくつかの論文を参照しながら見て参ります。
 ヒトの頭の中には言語を聞いたときに何らかの基準で聞き取った音を分節する機能があります。これは直感的に行われます。未知の言語を耳にしても、それがヒトの言語であることは分かりますし、それらの音を真似ることもできます。もちろん正しく単語単位に切り出せているか、正しく発音出来ているかなどは別問題です。しかし、連続音声を耳にして、それらを何らかの基準で分節し、真似ることはできるわけです。
 さて、この連続音声の分節の基準が何であるのか、これによってその言語を聞き取れるのか否かが大きく左右されます。たとえば、大竹孝司氏のモノリンガルとバイリンガルにおける分節方法の違いを観察した研究(※4)では、両者の分節の仕方の違いを浮き彫りにしています。日本語のモノリンガルはモーラで分節します。面白いことに英語の母語話者は日本語を音節で分節するそうなのです。
 1つ例を挙げましょう。”cat”は音声としては/kæt/で1音節です。日本語のモノリンガルはこの音を聞くとそのまま/kæt/とは分節せず、日本語の類似値の「キャット/kyatto/(仮にローマ字で表記しています)」と分節し、また発音します。日本語では促音(実際には発音されない小さい「ッ」)も1モーラと考えるので、3モーラとなります。1音節の語’strike’も同様に「ス・ト・ラ・イ・ク」と5モーラに分節されます。つまり、モーラで分節することによって、英語の本来の発音とは全く異なった音素に分解されてしまうのです。
 これは日本語のモノリンガルの話ですが、同氏の日本語モノリンガル話者と日英語バイリンガル話者に関わる研究(※5)によれば、バイリンガルは異なった切り出し方をするようなのです。日本語を母語とする日英バイリンガルは日本語を聞くときにモーラ単位で切り出したり、音節単位で切り出したりします。日本語モノリンガルは日本語であろうと英語であろうとモーラで切り出す一方、日英バイリンガルはモーラとシラブル(音節)の両方を切り出しの単位として使えるのです。そして、英語に関してはバイリンガルはシラブルで切り出すのです。モーラとシラブルの2つの分節単位を手がかりに連続音声を切り出す、つまり、後天的であれ彼等はシラブルで切り出す能力を身につけているということになります。
 常識的に考えればアタリマエのことですが、幼児期が言語獲得に最適な時期であることは当然のこととして、幼児期を過ぎても外国語を身につける人はいるわけです。英語に関して言えば、片言の英語から始まり、生きていくのに足るような英語力を獲得していく移民たちもいるのです。外国語の獲得が幼児に限定されている特殊能力でないことは明らかです。誤解の無いように繰り返しますが、幼児期の方が外国語の獲得に有利であり、現状の日本における英語教育ではバイリンガルになることはほぼ不可能であることも付け加えておきます。

※4) 『メタ言語としての音節の下位構造の発達に関する研究』(大竹孝司)より https://www.dokkyo.ac.jp/shiencenter/pdf/19/ohtake.pdf
※5) 『日英語モノリンガル話者と日英語バイリンガル話者によるメタ言語としての音韻単位の認識』(大竹孝司/山本圭子)より http://ci.nii.ac.jp/els/contents110008762794.pdf?id=ART0009838342


| いかにスイッチを入れるか

特集イメージ4 また、いろいろな研究から明らかになりつつあることとして、以下のことが挙げられています。面倒な話ですが、もう少しだけお付き合いください。
 音節はモーラの上位構造です。ヒトは生まれつき音節で分節する能力を持っています。ところが、日本語のモノリンガルのように、音節よりモーラばかり聞いていることで、言語をモーラで分節するようになります。しかし、モーラで分節するようになっても、彼らは音節で分節する能力を喪失してしまったわけではありません。何らかのスイッチが入れば、また音節で分節することが出来るようになります。
 しかし、この逆は難しいようです。アメリカ人は音節で分節することしか知りません。するとある種特殊な方法である、モーラで分節する能力を身につけるのは大変なようです。この点で、日本人が英語を聞き取る方がアメリカ人が日本語を聞き取るよりは楽という、ちょっと妙なロジックが成り立ちます。どうやら、英語の聞き取りを諦める必要はないようです。もちろん、どのように音節で分節する力のスイッチを入れるのか、また聞き取れるようになった後にどのように、それをどのように理解につなげるのかという課題は残ることは言うまでもありません。
 さらに、分節の研究の中には幼児に対するものもあります。仮名文字を読める幼児はモーラで分節する傾向があるのに対して、仮名文字未習得の幼児はモーラと同時に未だに音節による分節をする傾向にあるそうなのです。仮名文字の習得がモーラでの分節を促進することが伺えます。
 同時にこのことは、幼児たちが日本語を獲得する過程で、特に読めるようになってくると、英語の発音がぎこちなくなってくることとが観察されますが、これもモーラの獲得と関係しているのかもしれません。
 しかし、音節での分節力は幼児期を過ぎてもしばらくは残っているようです。小学1年生を対象にした実験では、1年生の春の段階ではまだ音節による認識が観察されるのに対して、1年生も終わりになる頃にはモーラでの認識が観察されるとのことです。小学生でも早い時期には音節で分節する能力が残っているのです。


| つまり・・・

特集イメージ5 まとめると以下のようになります。
 生まれたての赤ちゃんは全ての音が聞き取れる。つまりもっとも上位の単位である音節による音声言語の認識が行われます。ところが、日本に育てばモーラ言語である日本語ばかり耳にするようになります。その過程で、日本語の音素に存在しない英語の音素に関心を示さなくなります。そして、さらにモーラで音声を認識するようになります。それらが日本人の英語の聞き取りを難しくしているわけです。しかし、日本語に存在しない英語の音素も、わずか数時間のトレーニングで聞き分けが出来るようになります。また、連続音声の分節の方法もモーラによるものに慣れきってしまってはいるものの、幼児期には未だに音節による認識が行われており、さらには小学生でも低学年の頃までであれば音節での分節が行われているわけです。それどころか、いわゆる言語獲得の黄金期とも呼ばれる時期を外してしまっても、音声を分節する点において、英語なりの外国語を獲得することは可能なのです。これは数多のバイリンガルが証明しています。
 繰り返しますが、それらはあくまでも聞き取りに焦点を絞った場合の話です。英語の場合にはまず、英語特有の音素(/l/,/r/,/f/,/v/,/th/等)が存在することを、何らかの方法で認識し、続いてそれらの音素を含む連続音声を音節によって直感的に分節する能力が必要となります。その後いくつかの音節から成る単語を発見して、その語に意味を付けていかなければなりません。同時に文の構造を理解して、文全体としての意味の理解まで育てていきます。
 音の理解はそれら複雑な言語理解の入り口なのです。しかし、様々な研究結果から見られるように、日本人の外国語のリスニングは絶望的ではなく、逆にアメリカ人が日本語を聞き取るよりは、理屈としては容易であるとも言えるのです。

 今回は少しややこしい内容になってしまって恐縮です。ただ、外国語獲得は誰にでも可能で、しかも幼児期はそのことにおいて有利な時期であること、また小学生になってしまっても、またそれ以上の年齢になってしまっても諦める必要のあることではない点のご理解の一助になれば幸いです。
 そろそろ夏休みですが、気を引き締めて英語学習に取り組んで参りましょう。

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※本記事のテキストは引用・転載可能です。引用・転載する場合は出典として下記の情報を併記してください。

引用・転載元:
http://palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1707/
船津洋『「小学生になるとLとRを聞き取れない」はウソ?! ホント?!』(株式会社 児童英語研究所、2017年)

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